九章 マルス、王都に行く

159話 ダラダラしたいけど……

 領地である、辺境都市バーバラに帰ってきてから翌日……。


 俺は四日間の休みを満喫すべく、ダラダラとした時間を過ご……そうと思っていたのに!


「ぁぁぁァァァ! なんでこうなるのぉ〜!! おかしいよ! 四日間はダラダラできるって言ってたのに!」


「仕方ないですの。こればっかりは、最低限の仕事ですわ」


「そうですね。というか、前もありましたね」


「マルス様のことだから、きっと忘れていたんですの」


「二人とも、酷くない? ……間違ってないけどさ!」


 久々に領地に帰ってきたら、書類が山積みだった。


 姉さんが代わりにやっていたとはいえ、俺が確認をしないといけない。


 ……うん、前にもあったね。


「あれ? ということは、王都に行って帰ってきたら……同じことをしないといけない?」


「そういうことですの」


「今頃気づいたのですか?」


「オーマイゴット! よし、王都に行くのはやめに……」


「「だめです」」


 二人から同時に突っ込まれる。


「ですよねー! ……とほほ」


「私も手伝いますから頑張りましょう!」


 シルクが両手で握り拳を作って、フンスフンスしている。

 ……うん、可愛い。

 そういえば、この可愛い女の子とチューをしたんだよなぁ。


「……フンッ!」


「ど、どうしたんですの!?」


「だ、大丈夫ですか!?」


 急に机に頭を打ち付けたので、二人が驚いている。


「へ、平気。ちょっと、頭を冷やそうと思って」


「……休憩ですわ! マルス様が壊れましたの!」


「そ、そうですね! 今すぐにソファーへ!」


「ちょっと!? 平気だから!」






 ……うむ、これはこれでありだね。


 狙ってやったわけじゃないけど、幸せであります。


「もう、コブができてますの」


「確かに、朝から机仕事してましたからね」


 頭はシルクによる膝枕、身体はリンのふわふわの尻尾に包まれています。


 これが、極楽ってやつだね!


「そうそう、昼休みが終わってからもやってたし。そういえば、シロとラビの試験は終わったの?」


「いえ、これからですね」


「それじゃあ、休憩がてらに見に行こうかな?」


 それなら仕事のうちに入るから、姉さんに叱られないし。

 ふふふ、我ながら完璧な作戦だね!


「それなら言い訳もできますわ」


「……なんのことかなぁ?」


「ふふ……では、いきましょうか」


「私はルリちゃんも昼寝してるので、部屋で待ってますわ。あと、マルス様が少しでも楽できるようにしておきます」


「シルク……! 君は天使のようだっ!」


 思わず感動して、両手を握りしめる。


「もう、調子が良いんですから」


「いや、ほんとだよ」


「はいはい、そうですね。ほら、行きますよ」


 二人で部屋を出て行くと……姉さんに出くわす。


「あら、マルス」


「ち、違うよ! これから仕事だよ!」


「まだ、何も言ってないじゃない。別に、王都に行く前に終わってれば良いわよ」


「……カンバリマス」


 書類の山を思い出して、少しだけうんざりする。

 結局、大してのんびりできそうにない……我がスローライフは何処へ?


「こればっかりは仕方ないわ。貴方が領主なんだから。その代わり、それ以外のことは好きにして良いから」


「はーい」


「ふふ、頑張りなさい。それで、どこにいくの?」


「これから、シロとラビの試験をする予定だよ」


「なるほど。じゃあ、私も行こうかしらね。二人なら、丁度庭にいるわよ」


「あっ、そうなんだ?」


「今頃、特訓してるわよ」


 そして姉さんと一緒に、シロとラビがいる庭に向かうと……。


「ヤァ!」


「わわっ!? よし! できた!」


 うん、シロは剣を振っているのはわかる。

 でも、ラビは何をしているのかな?

 木にぶら下がってる板が揺れ、その中心で……


「……ほう? 良い動きです。では、私が見てきますね。お二人は、そこで見ていてください」


「うん、わかった。リンの判断に任せるよ」


 リンが近づき、二人と会話をした後……ラビが再び、板を避ける鍛錬をする。


 俺と姉さんは庭にある椅子に座って、それを眺める。


「ふふ、良い感じね。目を使わずに、空気の流れや音のみで判断して避けているわ」


「あれは姉さんが?」


「ええ、そうよ。色々と実験をしたんだけど……残念ながら、あの子は戦う能力は低いわね。多分、種族的に無理だわ」


「そっか……まあ、仕方ないよね」


 兎族は、もともと弱い種族だと聞いてた。

 力も体も弱く、役に立たずと呼ばれていたくらいだ。


「でも、その分を補える能力があるわ」


「うん、それは知ってるよ」


「実は、あの子……自分から強くなりたいって、私のところに来たのよ」


「えっ?」


「貴方の役に立ちたいからって」


「……そうだったんだ」


 今も目を瞑ったまま、揺れる板を避け続けている。


「だから、耳を徹底的に鍛えることにしたわ。いつ如何なる時も、危険を察知できるようにね」


「なるほど、そのための鍛錬ってことか」


 そして次に、シロと剣の稽古を始める。


「ヤァ!」


「……へぇ」


「 セヤッ!」


 繰り出される剣を、リンが華麗にさばいていく。


 しかし俺の目から見ても、以前より全然様になっている。


 そして、リンの顔を見る限り……平気そうだ。


「ふむ、教えたことができてますな」


「あれ? バランさん?」


 いつの間か、バランさんが横にいた。


「シロには、私が指導しました。同じように、マルス様の役に立ちたいからと」


「……そうなんだ」


 二人共、俺のために頑張ってくれてるんだ。


 ……やれやれ、少し自分が恥ずかしくなってきたなぁ。


「合格です。それならば、自分の身くらいは守れるでしょう」


「やったぁ!」


「ラビも良いですね。あれならば、様々な音にも気づけるでしょう」


「ほ、ほんとですか!? わぁーい!」


「ラビちゃん! やったね!」


「うんっ!」


 二人が手を取り合って、大はしゃぎをしている。


 多分、相当頑張ったんだなぁ。


「では、俺は部屋に戻りますね」


「あら? どうしたの?」


「だらだらしたいですけど……流石に、あれを見て怠けられる人間じゃないから」


「ふふ、そうね。貴方のために頑張ってるんだもの」


「はい、そういうことです。お仕事、頑張ってきます」


 俺は席を立ち、館へと向かう。


 あんなのを見せられちゃ、少しは頑張らないとね。


 ……でも、やっぱりダラダラはしたい。


 そのためにも、ささっと仕事を終わらせようっと。





~あとがき~


皆さま、おはようございます(((o(*゚▽゚*)o)))


作者のおとらです。


今日から新章開始で、 いよいよ王都編ですね。


そんな中、ご報告があります。


本作品は無事に『2巻』が発売することが決定いたしました!


これも応援してくださった方々のおかげでございます、まことにありがとうございます。


買ってないよという方がいましたら、続刊も出るので安心して買って頂けると嬉しいです。


一巻の売り上げ次第で三巻が決まることもありますので、ご協力をお願いいたします。


口絵や挿絵も素晴らしく、それだけでも買う価値はあると断言できます(´∀`*)


それでは、引き続きよろしくお願いいたします。

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