158話 領地に帰還
セレナーデ王国の国境を出てから数日後……。
俺たちは、都市バーバラへと帰還する。
馬車が入ると、住民達が待ち構えていた。
それこそ、獣人と人族関係なく。
「マルス様! おかえりなさいませ!」
「まってましたよ!」
「街道整備のお仕事、お疲れ様です!」
「みんなー! ただいまー! あとで挨拶に行くから、ひとまず道を開けてくださーい!」
俺がそう言うと、モーゼの十戒のように道が開ける。
その間を、馬車が進んでいく。
ひとまず、馬車の窓から手を振り続け……人が途絶えたら辞めにする。
「ふぅ、なんだろ? ものすごい熱狂だったけど」
「ふふ、みんなマルス様が好きなんですの」
「まあ、それはありますね。ですが、それだけでは無いような気もします」
「そうだよねー。俺がいない間に、何かあったのかも?」
「ひとまず、ライラ様に聞くといたしましょう」
「うん、そうだね」
そして馬車は進み、領主の館の前に到着する。
そして、馬車を降りた瞬間——息が止まる!
「マルス! お帰りなさい!」
「わひゃぁ!?」
相変わらず、愛情表現が激しいです!
顔がおっぱいです! 違った! 顔がおっぱいに包まれてます!
「ライラ様、その辺りで」
「あら、バラン……仕方ないわね。リンもシルクもお帰りなさい。マルスのこと、ありがとね」
「はい、ただいま戻りましたの」
「いえ、それが私達の役目ですから」
女子三人が挨拶をしている間に、バランさんに駆け寄る。
「ほっ……バランさん、ありがとうございます。その、色々と」
「いえいえ、ご無事でなによりです」
この人が守ってくれるから、姉さんは安心だ。
なんだかんだで、姉さんを置いていくことは不安だったし。
この国で、唯一の女性の王族だしね。
その後、部屋の中に入り、早速報告をする。
人族の獣人たちに対する緩和、姉妹の仲、ワーレンさんとの協力体制など。
さらには危険な魔物を退治したり、統治を任せられそうな良い男爵さんがいたことなど。
「そう、上手くいったならよかったわ。マルス、良くやったわね」
「ありがとうございます。まあ、よくわかってないんですけど。とりあえず、俺の好きなようにした感じです」
「ふふ、それがマルスらしいじゃない。あなたは、そのままでいいのよ。王都でも、きっとそうした方がいいわ」
「まあ、姉さんが言うならそうしますね。ところで、ルリは? あと、シロとラビがいないですし」
「あの三人なら、散歩に行っているわよ。多分、もうすぐ帰ってくるわ」
「なるほど、そうでしたか」
すると……ドタドタと音がして、扉が開く!
「キュイー!」
「ルリ!? 大きくなったね!」
俺の胸に飛び込んできたルリの大きさは、既に腕の中で収まらなかった。
まあ、一ヶ月半も経ってるから無理はないんだけど。
「ルリちゃん、大きくなりましたの」
「ほら、ルリ。シルクとリンに挨拶して」
俺の腕から離れ、二人に近づく。
「キュイキュイ!」
「ふふ、お久しぶりですわ。もう抱っこは難しいですけど、可愛いことに変わりはありませんの」
パタパタと飛んでいるルリを、シルクが優しく撫でる。
「ええ、そうですね。おや、二人も来たようですね」
すると、リンの言う通り、遅れて二人がやってくる。
「師匠〜!」
「御主人様〜!
「おっと……ただいま、ラビ、シロ」
二人が抱きついてくるので、それを優しく受け止める。
「「お帰りなさい!!」」
「二人共、ルリの面倒を見てくれてありがとね」
「ううん! わたしも楽しかったです!」
「僕達、ずっと一緒に遊んでました! 僕たちくらいなら、もう乗せて飛べるんですよ!」
「へぇ、そうなのか。じゃあ、明日にでも見せてもらおうっと」
すると、バランさんとゼノスさん、さらにはヨルさんもやってくる。
「おーすっ、マルス様。リンもシルクもお疲れさん」
「みなさま、お帰りなさいませ」
「ただいま、二人とも」
「これで、全員が揃ったわね。皆、ひとまず席に戻りなさい。まずは、今後の予定を考えないといけないから」
姉さんの一言で全員が頷き、話し合いを再開する。
「じゃあ、私とマルスで話を進めるわ。まずは、手紙に書いたように、お兄様の結婚式の日取りが決まったわ。あと、十日後ってところね。ここから王都に行くには、大体四日だから……四日間くらいは休んで平気よ」
「ほっ、良かったです。ふふ、ダラダラするぞぉ〜」
というか、流石に疲れたし。
多分、寝てばっかりだろうなぁ。
「まあ、今回は頑張ったから良いわよ。それで、メンバーをどうするかって話よ」
「うーん、逆にどうしたら良いかな?」
「そうねぇ……リンとシルクは決定ね」
「「もちろんです」」
「ふふ、わかってるわよ。あとは、獣人の子達をどうするか……難しい判断ね」
王都では、まだ奴隷制度が残っている。
シロやラビが、嫌な思いをするかもしれないってことか。
「二人には、ここに残ってもらって……」
「わたし、いきたいです!」
「僕もです! もう、置いていかれるのは嫌です!」
「……シロ、ラビ」
確かに、今回も置いていってしまった。
二人には、まだ早いと思って。
「まあ、連れて行きなさい。大丈夫、この1ヶ月半で大分鍛えたから。少なくとも、足手まといにはならないでしょう」
「「ありがとうございます!!」」
「そっか、ライラ姉さんが言うなら安心だね」
「何より、マルスという者の価値観を表明する意味でも。少しでも変えたいんでしょ?」
「うん、そのつもり。ただ、少し心配だね」
「そうね、あちらは獣人には厳しいでしょうし……」
「んじゃ、俺がいきますよ。どうせ、そろそろ帰らないといけないっすから」
そっか、ゼノスさんの本来の役目は終わってたんだ。
それを、俺達のために延期してたって話だった。
「そう、貴方がいるなら安心ね」
「そうなると、姉さんの守りは?」
「私がいます」
「そうね、バランに頼むとするわ」
ふんふん、それなら安心だね。
「キュイ!」
「ルリ? 君も行きたいの?」
「キュイキュイ!」
「今度は置いていかれたくないかな?」
「キュイー!」
どうやら、正解のようだ。
「姉さん、どうしよう?」
「うーん、難しいわね。ただ、王都には私の師匠に当たる人がいるのよ。その人に、一度見せて欲しいって手紙が届いたの。だから、連れて行っても良いかもしれないわ」
すると、リンが手を挙げる。
「リン、良いわよ」
「それでは……まずは、整理しましょう。私、シルク様、マルス様、ラビ、シロ、ゼノス様、ルリが行く予定と。そして、マルス様の代わりに統治するためにライラ様が。その護衛として、バラン様が残るということですね」
「ええ、それで合ってるわ」
「では、その前にテストをしたいと思います。ラビとシロが、それなりに使えるようになっているのかを」
「ふふ、そうね。貴女が判断しなさい」
「わかりました。二人共、それでいい?」
「「はいっ!!」」
「良い返事です。では、試験をするとしましょう」
どうやら、こっちはまとまったみたいだ。
そうなると、俺のすることは……ルリについてだね。
「じゃあ、ルリには俺の試験を受けてもらうよ? きちんと自分の身を守れるくらいにはなってないとね?」
「キュイ!」
その目はやる気に満ち溢れている。
よし、どうやらやることは決まったようだ。
「それじゃあ、早速ダラダラするよ!」
その瞬間、全員の視線が俺に集まる。
そして、物語っていた……『この人、何を言ってるの?』と。
「い、いや! 今日は疲れたし!」
「……そうね、今日はやめにしましょう」
「やったぁ! というわけで、おやすみなさい!」
何か言われる前に、俺は部屋を飛び出し、自分の部屋のベッドに横になる。
これだよ! これ! やっぱり慣れ親しんだベッドが良いね!
安心した俺は、すぐに眠りへと落ちていく……。
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