157話 また会う日まで
その後、朝食を済ませたら……すぐに出発の時間となる。
実際には、もう少しいても良いけど……そうすると、離れがたくなっちゃうしね。
なので、出来るだけ早く出て行くことにする。
そして……最後に、一人一人に挨拶をする時間を設ける。
というより、お願いをされてしまった。
「それでは、ワーレンさん。あとは、よろしくお願いします」
「いえ、マルス殿は十分やってくれました。あとは、私にお任せください。というか、このままでは私が仕事をしていないみたいですし……それと今回は、色々と考えさせられました。獣人との関係性や、民との関わり方……本当に、貴方に会えて良かったです。また、お会いする日を楽しみにしております」
「はは……基本的に、私は好き勝手にやってるだけなので。むしろ、色々と気苦労をかけてすみませんでした。ええ、また会える日を楽しみにしてます」
ワーレンさんが一歩下がり、マリアさんが前に出てくる。
「マルス様、私からもお礼を言わせてくださいませ。あなたのおかげで、姉とも仲直りをすることができましたわ。それに夫の言う通り、獣人との関係についても……今すぐには無理かもしれないですけど、私なりに考えてみようかと思っております」
「いえいえ、私は少しだけお手伝いをしただけですよ。それに、姉妹は仲が良いに越したことはないですから。ええ、それは人それぞれでのペースでいいと思います。ですが、そう言って頂けると嬉しいですね」
マリアさんが下がった後は、セシリアさんが前に出てくる。
「マルス殿、ひとまずお疲れ様でした。私も残るので、ここでひとまずお別れだ。あなたと過ごした時間は、とても良いものとなった。領地での生活も楽しく……またいきたいと思えるほどに。この後のことはわからないが、また会える日を楽しみにしている」
「いえ、こちらこそお世話になりました。短い間でしたけど、とても楽しい時間を過ごすことができました。またそちらの国にも行きたいですし、セシリアさんもいつでもきてくださいね。どちらにしろ、会える日を楽しみにしてます。あと……兄さんのことよろしくお願いしますね?」
最後にこそっと伝える。
俺なりの、ライル兄さんへのエールとして。
「う、うむ……前向きに検討しよう」
「ええ、それで良いです。お互いに立場がありますから」
「ああ、そうだな。それでは、我々はこれで。後の見送りは、彼らに任せるとしよう」
「はい……それでは、また会える日まで」
この三人とは、領主の館の前でお別れだ。
俺は最後にお辞儀をして、その場を立ち去る。
そして、領の入り口では、みんなが待っていた。
「マルス様、もう終わりましたの?」
「うん、あっちの三人とは挨拶がすんだよ」
「では、あとは……こっちの四人ですね。男達だけの方がいいでしょうから、私達は先に馬車に乗ってますね」
「ふふ、そうですわね。リン、行きますの」
「ふたりとも、ありがとう」
二人を見送った後、門の前にいる四人に近づく。
すると、兄さんを除く三人が前に出てくる。
「マルス様、後のことは我々にお任せください」
「マックスさん。貴方は常識人だから、兄さんの相手は大変だと思うけどよろしくね」
「いえ、平気です。その……マルス様で慣れましたので」
「ありゃ? これは一本取られちゃったね」
次に、レオが一歩前に出てくる。
「ボス、ライルさんのことは任せるっす。あと、人族に対しても喧嘩を売らないと約束するぜ」
「レオ、兄さんの遊び相手をお願いね。意外と、さみしがり屋な人だからさ」
「へへっ、知ってるっすよ。へい、オレに任せてください」
次に、ベアが一歩前に出てくる。
「主人よ、しばしの別れだな。心配はいらない、三人のことは俺に任せるといい」
「うん、ベアが頼りだよ。ある意味で、一番落ち着いてるしね。また、領地に帰ったら一緒にハチミツを食べようね。今度は、新しく美味しい料理も考えてるから」
「なんと? それは楽しみだ。ああ、では、また領地で会おう」
そして、三人が下がり……ライル兄さんがやってくる。
「あぁー……こういうのは、どうも慣れん。別に、今生の別れってわけでもあるまいし」
「まあ、気持ちはわかるけどね。でも……人は、いつ会えなくなるかわからないから」
俺たち兄弟は、それを誰よりも知っているはず。
「……ああ、そうだな。確かに、その通りだ」
「ライル兄さんとだって、こうして過ごしたのは何年振りかなんだよ? だから、こういうのも必要かなって思う」
「そういや、そうだったな。もう、すっかり忘れてたぜ……楽しすぎてな。マルス、兄貴のことよろしく頼むぜ。多分、きついことや叱られることもあるが……それは、兄貴がお前を愛しているからこそだ」
「うん、俺も昔みたいに遊べて楽しかったよ。ロイス兄さんのことも、今ならわかるよ。だから、心配しないでいいから。兄さんは、自分の幸せを考えてね。もう、兄さん一人に背負わせないから」
俺が穀潰しということが撤回されれば、兄さんの負担も減るはず。
今ままでは、兄さんに甘えすぎた。
ここからは、俺が少し頑張らないと……スローライフを送る前にね。
「……馬鹿野郎……いらん気を使いやがって……お前は、俺達に甘えてれば良いんだよ……!」
「兄さん……」
すると、兄さんが俺を強く抱きしめる。
「……だが、あんがとよ。俺は、良い弟を持ったな。マルス、元気でな。ただ、無茶だけはするなよ?」
「俺こそ、良いお兄ちゃんを持ったよ。兄さんこそ元気で……無茶しないでね……?」
俺の目からも、自然と涙が出てくる。
記憶を取り戻してから、初めて沢山の時間を過ごした。
その思い出が、頭の中で流れていく。
「ああ、わかってるよ」
「あと、セシリアさんのこと応援してるから。それも含めて、幸せになって良いから」
「ちっ、生意気な奴だ……んじゃ、またな」
「うん、またね」
名残惜しいけど、兄さんから離れて、すぐに二人が待っている馬車に乗り込む。
そうしないと、いつまで経っても離れられそうにないから……。
~あとがき~
皆さま、おはようございます。
先日より本作品が、全国書店にて発売中となっております。
各通販サイトでもご購入できるので、よろしければ検討して頂けると嬉しいです。
夜のみつき様のステキなイラスト、加筆や追加イベント、エピローグなどもございますので、満足して頂けるかと思っております。
それでは、これからも『マルス君物語』をよろしくお願いいたします。
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