156話 双方の朝

 ……ぁぁぁァァァ!


 うわぁァァァ! ァァァ!


 シルクとキスをしてしまったァァァ!


 あの後、気まずくなり、二人で一言も話さずに、それぞれの寝室に向かった。


 俺はふわふわした気持ちのまま、気がついたら寝てしまっていた。


 そして、朝起きて……今更、あまりの恥ずかしさに悶えているところです。


「うぉぉぉぉ〜……! どうする? どうする? どうする——マルス!!」


「朝からうるさいですよ?」


「リン!? い、いつからそこに!?」


「さっきからずっとですね。とりあえず、おめでとうございます」


「な、何が?」


「いえいえ、ようやく少し前進したかと。何処かから今更という声と、もっと進めよという声が聞こえないでもないですが……私も含めて」


「どういうこと?」


「い、いえ、何でもありません。さあ、起きましょう。今日は帰る日ですからね」


「そういや、そうだったね」


 うーん、今回の旅も色々とあったなぁ。


 最後の衝撃が大きすぎて、いまいち思い出せないけど。


 ……あれ? そういえば、俺って王都に帰るんだよね?


 ロイス兄さんの結婚式に、オーレンさんが出ないってことないよね?


 皆さま……マルス君の余命は、あと僅かのようです。


 どうか、最後まで見守っててください。







 その後、嫌々ながらベッドを抜け出して、食堂に向かう。


 そして、その道中で……。


「あっ……マ、マルス様……あぅぅ」


「や、やあ、シルク……」


 俺の顔を見るなり、シルクの耳が真っ赤になっていく。


 それをみてると、昨日のことを思い出して、俺の体も暑くなってくる。


「そ、それにしても、良い天気だね」


「ふえっ!? ……えっと、今日は曇りですの」


 ……ほんとだ、雲が出て全然天気良くないや。


 おかしい、これを言えば会話が成立するって誰かが言ってたのに。


「あ、あれ? お、おかしいなぁ」


「……ふふ、マルス様ったら」


「はは……ごめんごめん」


「えっと……はしたない女の子って思いましたか……?」


「えっ? ……ううん、そんなことないよ。シルクはいつだって、一生懸命で可愛い女の子だよ——そして、俺の婚約者だよ」


「マルス様……はいっ! もう前言撤回させないですから!」


 あんまり、気の利いたこと言えなかったけど……。


 シルクが笑ってくれたから、ひとまず良しとしますか。




 ◇



 あぅぅ……どうしよう?


 お布団の中で、悶えてしまいます。


「き、昨日のことは、よく覚えてないですし……最後のアレ以外は」


 なんだか身体が熱くなって、マルス様に散歩しないかって誘われて……。


 気がついたら……キ、キスをされてしまいましたの。


「というより、思い返せば……わ、私から誘ったような……うぅ」


 淑女にあるまじき行為ですわ……!


 お、お父様や亡きお母様に、どう言えば……!


「確か、なんだかマルス様に腹が立って……」


 せっかく、また一緒に過ごせるようになったのに、全然何もしてくれないし。


 い、いや! べつに何かをしてほしいわけじゃなくて……。


「……多分、不安だったですの」


 私は、無理を言ってマルス様についてきた。


 マルス様は迷惑じゃないって言ってくれましたが……。


 マルス様はお優しいから、強く言えないのかと、心の何処かで思ってたのかも。


「だから、つい……あんなことを」


 でも、マルス様は応えてくださいましたわ。


 き、きちんと優しくしてくれましたし……はぅ。


 この後……ど、どんな顔して会えば良いですの?





 ひとまず、準備をしたら食堂に向かいます。


 その途中で、マルス様に出会ってしまいました。


 恥ずかしくて、どうして良いかわからなってしまいましたが……。


 マルス様が、いつもと違って緊張してるのが伝わってきて……。


 でも、マルス様もおんなじなんだなと思ったら、少し心が軽くなりました。


 何より、嬉しいことを言ってくれましたの……私のことを、元婚約者ではなく婚約者と。


 でも、お父様に認めて頂くにはまだ足りませんの。


 これからも、マルス様のお役に立てるように努力いたしますわ!






~あとがき~


皆さま、本作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。


カクヨムコンテスト7を受賞し、1月16日に発売する本作ですが、今回のカクヨムコンテスト8にも新作ファンタジー作品で参加しております。


「前世で孤児だった俺、今世では優しい家族に恵まれて~俺だけが使える氷魔法で異世界無双~」


https://kakuyomu.jp/works/16817330648084137986/episodes/16817330648155998568


という作品がございますので、もし興味がある方は、読んでくださると嬉しいです。

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