155話 マルス、決めるときは決める

 みんなで飲んで騒いで、楽しい宴は続く。


 でも、それもいつか終わる。


 ……というか、呑み潰れて終わってしまった。


 その姿を、シルクとリンと眺める。


「……死屍累々って、このことだね」


「合ってますけど……違うかと」


「全く、困った殿方達ですわ」


 俺の目の前には、男達が積み重なって倒れている。


 ライル兄さん、レオ、ベア、マックスさんという面々が。


 呑んで騒いで、酔っ払って……倒れたってわけだ。


「えっと……治した方が良いでしょうか? 多分、明日の朝……酷いことになるかと思いますの」


「いやいや、そんなことで癒しの力を使っちゃダメだよ」


「そうですね、自業自得ですし。それより、マルス様は平気ですか? 初めて、お酒を飲んでいましたが」


「うーん、今のところ平気かな。初めてだし、大して飲んでないから」


 少し飲んだけど、美味しいってわけじゃなかったから、そんなに飲まなかったし。


「それなら良かったですの……ふにゃ」


「あれ? シルクも飲んだっけ?少し、顔が赤いみたいだけど……」


 よく見ると、ほんのり頬が赤くなっている……可愛い。


「わ、私も、成人してるから平気です……の」


「いや、ろれつが回らなくなってきてるし」


「どうやら、今になって酔いが回ってきたみたいですね。アレス様、庭に出て散歩でもしてきては? そうすれば、酔いが覚めるかと。まだ、お風呂にも入ってないから寝るわけにはいきませんし」


「でも、この状況はどうしよう?」


「私がやっておくので大丈夫ですから。シルク様を頼みましたよ?」


「うん、わかった。シルク、少し歩こうか?」


「は、はぃ……」


 少しとろーんとした表情をするシルクの手をひいて、俺は庭へと出て行くのだった。






 静かな夜の道を、ゆっくり歩く。


 そのまま歩いていると……シルクがふらつく。


「おっと、平気かな?」


「へ、平気ですの」


「うーん……少し、座ろうか」


「はぃ」


 優しくシルクをエスコートして、近くのベンチに座らせる。


 俺も隣に座り、大きく息を吸う。


 すると、同時に気持ちの良い夜風が吹く。


「気持ちいいね。風もそうだけど、静かで気持ちがふわふわして」


「ふふ、そうですわね。お酒も、たまになら良いかもしれません」


「……そっか、兄上に会うのか。なんか、色々あったなぁ」


「ほんとですわ……色々ありましたの」


 まだ、大して時間は経ってないのに。


 突然記憶を思い出して、国から追い出され……たどり着いたと思ったら領主になってて。


 そこから、沢山の出会いがあって。


 レオ、ベア、シロ、ラビといった獣人達。


 マックスさんやヨルさんなどの人族。


 ライラ姉さんやライル兄さん、ルリっていうドラゴンまで。


 そこにセシリアさんも加わって……楽しい時間だったなぁ。


「何より、びっくりだったのは……シルクが来たことだよね。まさか、追ってくるなんて思ってなくて」


「あ、あれは……マルス様が悪いですの。急に、勝手に決めて、出て行ってしまったから。私は、最初からついていくつもりでしたのに」


「うん、ごめんね。あの時は、そうした方が良いかなって、本気で思ってたんだ」


 あの時は、今考えると混乱していた気がする。


 突然記憶が蘇ったことで、自分のダメさがわかってしまって。


 だから、シルクみたいな良い子が、俺には勿体ないって本気で思ってしまった。


「わ、私は……ほんとに、もう会えないと……グスッ」


「え、ええと! ごめんなさい! 今は思ってないから!」


「……ほんとですの?」


「も、もちろん! その……追ってきてくれて、正直嬉しかったから」


「ほんとですか? 口煩いとか、厳しい事ばかり言う女って思ってません?」


「いや、前も言ったけど思ってないよ。いつも、ありがとうって思ってるし」


「……そ、そうは見えませんの!」


 酔っ払っているからか、少し子供みたいになっている。


 頬を膨らませて、そっぽを向いてるし。


「うーん、どうしたら信じてくれるかな?」


「そ、それは……た、態度で示してほしいです……」


 そう言い、俺の方を向いてくる……目をつぶって。


 ……あれ? これってそういうこと?


 リンエーモン! ……そうだ、リンが言っていた。


 シルクが待ってるって……俺でもわかる——ここで引いたら男じゃない。


「……ゴクリ」


「っ……」


 俺は震えるシルクの肩に、そっと手を置き……優しくキスをするのだった。







~あとがき~


皆さま、あけましておめでとうございます!(((o(*゚▽゚*)o)))


ようやく、マルス君とシルクに、少し進展がありましたね。


そして、書籍の方も、発売2週間前となりました。


近況報告にははっておりますが、こちらでもお知らせ致します。


ただ今、近況報告にてラフ絵を使ってキャラクター紹介をしておりますので、興味のある方は是非ご覧ください。


そして、ゲーマーズ様、アニメイト様、メロンブックス様にて書籍を購入して頂くと、それぞれ別の特典SSがございます。


予約等も始まっておりますので、よろしければご購入を検討してくださると嬉しいです。


それでは、引き続き『おとら』と『マルス君物語』をよろしくお願いいたします。

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