154話 最後の宴 その1
その日の仕事を終え、一度ワーレンさんの屋敷に戻る。
そして、明日の朝にはここを発つ予定だ。
つまり、ライル兄さん達としばしの別れとなる。
それを知ったワーレンさんが、自分の屋敷で最後の宴を開いてくれるそうだ。
それぞれ明日の準備を済ませたら、宴会会場に入る。
そこには、向こうの料理の数々があり、とても美味しそうだ。
しかも、あれは……パエリアではないか!
うそん? 前にセレナーデ王国に行った時にはなかったよ!?
うーむ、これは早く交流を深めていかないと。
俺の足がそちらに行こうとすると、リンとシルクに止められる。
「マルス様、どこに行くのです?」
「いや、パエリアが俺を待ってるから!」
「ダメですよ、これから挨拶がありますから」
「えぇ……そういうのは面倒かなぁ」
「もう! マルス様ったら! マルス様も挨拶をするんですからね?」
「へっ? 聞いてないよ?」
「さっき会場に入る前に言いましたし」
「そうですわ。もっと言えば、戻ってくる時もですの」
まずい……眠いのとお腹が減って、全然聞いてなかったし。
「どうしよう? 何話すの?」
「いつも通りでいいですよ」
「ええ。ほら、セシリア様が上がりましたわ。それに、マルス様を呼んでますの」
シルクの視線を追うと、壇上に上がっていくセシリアさんがいた。
そして、俺に視線を向けている。
「はぁ……よし、真面目モードで行きますか」
仕方ないので、俺も壇上へと上がっていく。
すると、セシリアさんが話し出す。
「皆の者、まずはご苦労であった。数十年ぶりに、フリージア王国と我が国の交流が始まったわけだが……少し急な出来事や予想外の展開もあったが、おおむね成功していると言って良いと思う」
「まずは、皆さんお疲れ様でした。セシリアさんの言う通り、ひとまず大きな怪我や争いもなくて良かったです。できれば、これからも良好な関係を築けていけたら良いなと思っています」
……お腹空いたよぉー、早く食べたいよぉ〜。
「うむ、こちらも同じだ。マルス殿、改めて感謝する。これも、貴殿のおかげだ。おそらく、ここにいる誰もが思っているだろう。我々姉妹のこと、獣人とのあり方、本当にありがとう」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。私は大したことはしてないですから。多分、皆さんが本当は思っていたことだったり、ボタンの掛け違いを指摘しただけですから」
めちゃくちゃ真面目な話してるけど……お腹の音平気かな? 聞こえてないかな?
というか、ライル兄さんこそこそと食べてるし! ずるっ!
「ふふ、相変わらずだな」
「それより、堅苦しいのはやめましょう。どうにも、そういった雰囲気は苦手なのです」
「ははっ! これは失礼した! そうであったな……では、最後に挨拶だけお願いしたい。今日が最後の夜だからな」
が、頑張って! オラのお腹! もう少しだけもってくれ! 三倍界王○!
「そ、そうですね……えっと、これから何かしらの問題は起こっていくでしょう。相手に苛立ったり、色々なことが上手くいかなかったり……その時は、一度立ち止まってください。自分が言われたらどう思うかとか、相手の立場になって考えてみてください。きっと、それだけで争いは減っていくはずですから。もちろん、皆さんが大変なのはわかっているつもりです。ですが、どうか力を貸してください。我々も、皆さんの負担が減るように動いていきますので」
多分、すぐには無理だ。
だって、みんな余裕なんかない。
でも、誰かがやらないといけない。
だったら、それは俺の役目だと思う。
今まで散々ダラダラさせてもらって、甘やかされてきた。
めんどくさいけど……それくらいはやらないとね。
「うむ、マルス殿のいう通りだ。我々も価値観の違いなどもあるが、上手く折り合いをつけてやっていこうと思う。それぞれの考え方を尊重しつつ、これからもやっていこう」
「はい、それで良いと思います。別に無理矢理仲良くする必要はないと思います。相手との適切な距離感と関係性を築ければなと」
「うむ、そうだな……さて、お腹が空いてる者も多いだろうし、この辺りにしておこう。では皆の者、ありがたいことに今日はワーレン殿が食事を用意してくれた——ひとまず楽しんでくれ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は全速力でとある場所に行く。
場所は、もちろん……パエリアをつまみ食いをしている兄さんのところだ。
「ちょっと!? ライル兄さん! 先に食べてずるいよ! セシリアさんにもばれてるからね!」
「けげっ!? まじか!?」
「壇上の上からは丸見えだよ! というか、俺も食べたいし!」
「主人よ、俺もいただこう」
「ボス、オレも食うっす!」
「では、私も」
ベアとレオ、マックスさんもやってくる。
明日からは、会えない四人だ。
「じゃあ、みんなで食べようか。というか——色々と食べ尽くそう!」
「「「「賛成!!!!」」」」
四人だけで、バイキング形式の食事を回っていく。
リンやシルクも、気を遣ってか、二人でにこやかに見ている。
こうしていると、領地でのことが思い出される。
「そういえば、最初はレオとマックスさんの仲が悪くてさー」
「ほう? そうなのか?」
「そうだよー。俺、大変だったんだから」
「「す、すみません」」
「ううん、もう仲良いから良いよ」
「「仲良くはないです」」
「「………」」
二人が気まずそうに顔を合わせる。
最初の頃が嘘のように、今では仲良しさんだ。
「ははっ! 息ぴったりじゃねえか!」
「うむ、全くだ」
「いやいや、そういうベアだって最初はひどかったよ? 警戒心がすごくてさ。俺なんか、目も合わせてくれなかったし」
「うっ……それは言わないでくれ」
「まあまあ、今は良いしさ」
ずっと睨んでたし、俺を信用してなかった。
でも、今ではそんなことないと思うし。
……ないよね? ないと信じたい。
「ほうほう? 俺の知らない話だな」
「まあ、色々あったから」
「じゃあ、こっちにいる間に、その辺りの話を聴くとするかね」
「では、ライルの兄貴。代わりに、ボスの小さい頃の話を聞かせてくれよ」
「むっ、それは楽しみだな。確かに、主人の小さい頃の話は知らない」
「では、私にもお聞かせください」
「ははっ! それも良いな!」
「いやいや! 困るから!」
俺のダラダラしてきた黒歴史が……あれ? 今と変わらない? そんなことないよね?
……まあ、それでみんなが仲良くなるなら良いかな。
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