152話 帰還の知らせ

……気持ちいい。


もう、ずっとこのままでいたいなぁ。


「マルス様」


「うーん……」


「マルス様ってば!」


「まだ寝る……」


俺の手が、何か柔らかいモノが触れる。


「ちょっ!? 何処を触ってるんですの!?」


「イタっ!?」


な、なんだ!? 何か起きたの!?


「もう!」


「……シルク?」


目を開けると、顔を真っ赤にしたシルクがいる。


ふむ……なにやら、手には柔らかな感触が残ってる。


「俺は何を触ったのだろう?」


「な、なにも触ってませんの!」


「いやいや、確かに柔らかいモノを……」


「触ってません!」


「そ、そう?」


「やれやれ、起きたみたいですね」


テントの中に、リンが入ってくる。


「やあ、リン。どうなってるかな?」


「ひとまず、回収は終わりました。あと、ついでに魔獣も出てきたので、倒しておきました。これで、夕食も平気そうです。ちなみに今は、ライル様が指揮を執っています」


「ふんふん……」


「ただ、マルス様が開けた穴が中々塞がらないですね」


「ありゃ、やりすぎたかな……埋めちゃうのは簡単だけど、どうせなら有効活用しちゃおうかな?」


「なんですか? また、何か企みですか?」


「人聞きの悪いこと言わないでよ。よっと……」


シルクの柔らかい膝から、頑張って起き上がる。


「シルク、ありがとね。お陰ですっきりしたよ」


「そ、それなら良かったですの」


「じゃあ、もう一仕事してくるね。リン、ついてきて」


「はいはい、わかりましたよ」


リンと共に天幕を出て、自分が開けた穴に向かう。


「ところで、俺はなにを触ったのかな?」


「多分ですが……お尻かと思いますが」


「えっ!? ……なんでわかるの?」


「シルク様の目線が、そちらへ行っていたので」


「ぐぬぬ……覚えておけばよかった」


「きっと、言えば触らせてくれるのでは?」


「えっ? そうなの? ……俺、オーレンさんに殺されないかな?」


「ふふ、それはどうでしょう。しかし、マルス様も……もう少し積極的になった方がいいかもしれないですね。シルク様も……まあ、待っているかと」


ふむ……リンエモンが言うなら、間違いないよね。


「積極的かぁ……どうしたらいいんだろう? 俺ってば、シルクに迷惑ばかりかけてきたから……大事にしたいし」


こんな俺を追ってついてきてくれた女の子だ。


そりゃ、俺だって男だし……色々とアレがアレでアレだけど。


それも、オーレンさんという言い訳をしてる部分はある。


「別にきちんと責任をとれば、オーレン様も文句は言わないかと。流石に、婚前交渉はあれですけど」


「し、しないよっ!」


「まあ、もう少しスキンシップしてもいいと思いますよ?」


「……そっか、わかった。頑張ってみるよ」


俺ってば、受け身ばっかりで、全然良いところないし。


ここらで、少し頑張るとしますか。





自分が開けた穴に到着したら……。


「よし、工事開始だ。人が来ないように見張っててね」


「いいのですか? 怖がられるのでは?」


「まあ、休憩もしたし大丈夫でしょ。それに、これくらいなら……よっと」


まずは空いた穴を半分で区切るように、土魔法で真ん中に石の柱を立てる。


さらに地面にも、固定した石を敷き詰める。


「これでよしっと。ここにお湯を入れて、周りを壁で囲めば……」


いつもの即席温泉の完成です!


「相変わらず、手際が良いですね」


「まあ、慣れてきたよね。今は適当だけど、ここをきちんとして温泉にでもしよう。この整備はすぐに終わるものでもないし。そしたら、働いてる人達も入ったりできる。もし整備されたら後でも、休憩所とかでも使えるように」


「なるほど、それは良いですね」


「じゃあ、手配をお願いね」


「ええ、わかりました」


その後、俺が天幕に戻ると……。


「マルスッ!」


「兄さん? どうかした?」


「姉貴から手紙が届いた!」


「な、何かあったの!?」


「急遽、兄貴の結婚式の日取りが決まったらしい」


「……はて? それがどうかしたの?」


「……おいおい、忘れてるじゃねえか。兄貴の結婚式には、お前だけが参加するって話だろうが」


「……そういや、そんな話もあったね」


ライラ姉さんは、都市バーバラに。


ライル兄さんは、揉め事を避けるためにお留守番。


報告を兼ねて……俺が一度、ロイド兄さんに会いに行くってことだった気がする。


「ったく……まあ、そういう俺も忘れていたわけだが」


「うーんと……どうしよう? これ、まだ途中だし」


「いや、もう大体は大丈夫だ。魔物も倒したし、信頼関係も出来てきた。それに、あと一週間は居られる」


「そっか。それじゃあ、出来るだけやって帰ることにするよ」


ロイス兄さんに会うのかぁ。


嬉しいけど……怖いなぁ。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る