149話 やりすぎた

 その瞬間、穏やかだった部屋の中に緊張が走る。


 俺もシルクの膝の上から立ち上がり、気持ちを切り替える。


「リン、数は?」


「それなりの数です! しかし、多すぎるというわけでもありません! 今はレオとベア、そしてマックスさん達が押し留めているので、時間的余裕はあります。ですが、死人はいませんが怪我人は何人か出ています」


「シルク!」


「ええ、わかってますわ!」


 すぐに、シルクが天幕から出て行く。


 これで怪我人は大丈夫だ。


 レオとベアには悪いが、少し時間を稼いでもらおう。


 俺とライル兄さんは顔を見合せて頷き、リンの話を聞く。


「リン、理由は?」


「おそらく、人々が普段いないところに大勢いたこと、森に入って木などを取ったからだと思います。その際に刺激を受けたか、匂いを嗅ぎつけたかはわかりませんが」


「じゃあ、スタンビードっていうほどじゃないのかな?」


「ええ。あくまでも、沢山の魔物って感じです。それも、一つの方角から」


 リンが近づいてきて、魔物が来ている地点を指差す。


 すると、ライル兄さんが難しい顔をする。


「ライル兄さん、どうかしたの?」


「いや……俺達の所為でもあるかと思ってな」


「どういうこと?」


「俺とベアは、この辺で魔獣狩りをしていた」


「ああ、なるほど」


 それならば納得がいく。


 獲物を求めて、こちらまで探しに来たってことか。


 そして、餌の集団……俺達を見つけたと。


「んで、どうする?」


「決まってるよ——蹴散らす」


「そうだな、俺たちがいて撤退など考えられないな」


「そういうこと。まあ、ライル兄さんには悪いけど……今回は俺にやらせてよ」


「ほう? どうする気だ?」


「魔法で一網打尽さ……リン!」


「はい、何でしょう?」


「そこまで俺の護衛を頼むね」


「ええ、お任せを。それが、私の使命です」


「んじゃ、俺は万が一に備えて後詰めでもしておくか」


「うん、お願いね」


 後のことは兄さんに任せ、俺はリンと共に天幕を飛び出す。


「マルス様、失礼します」


「恥ずかしいけど我慢するよ!」


 リンに抱っこされて、騒ぎがある方角に向かって行く。


 すると、人々が混乱の中で慌てており……そこから先に向かうと……。


 そこには、魔物の死体……魔石が転がっていた。


「来たか!」


「ボス! 来てくれやしたか!」


「マルス様っ! 皆の者! もう安心していい!」


 俺はリンから降り、三人に近づく。


「三人共、ありがとね。みんな、死んだ人は?」


「平気だ。いち早く気づいた俺達が押し留めた」


「うっす」


「こちらもです!」


「ありがとう……あとは、俺に任せてね」


 こちとらストレスが半端ないんだよォォ!!!


 せっかくの休憩時間だったのに!


 滅多にない、シルクのデレ膝枕だったのに!


「ふっ、頼りになる主人だ」


「ボスなら来ると思ったっす」


「おおっ! マルス様が本気を!」


「……まあ、いいか」


 なんか三人がよくわかんないこと言ってるけど……。


 ひとまず、前に出て……迫ってくる魔物達に意識を集中する。


「ふふふ……ここなら燃えるものはないし、人や建物もない——本気でいけるね」


「マルス様! きますよ!」


「おい! マルス! まだか!?」


「大丈夫、まだ平気……」


 もっと引きつけないと、いっぺんには仕留められない。


 そして、後ろには衝撃がいかないように。


「グガカ!」


「ゴァァァァ!」


「グキャ!」


 ゴブリン、オーク、スカル系か……上位種もいるけど問題なしと。


「まずは、後ろに被害がいかないように」


「私はお側を離れませんからね」


「俺もだ。お前に何あったら、姉貴に殺される」


「まあ、二人なら平気だね——サンドキャッスル砂の城


 まずは、避難した人々がいる方向横一列に防波堤を築く。


 これで、とりあえず安心だ。


「おい、もうくるぜ」


「うん、わかってる……膝枕の邪魔をするなァァァ!エクスプロージョン


「ギャロァァァ!?」


「グォォーー!?」


 広範囲指定火属性魔法エクスプロージョン。


 俺が決めた範囲内に爆発を引き起こす魔法だ。


 その威力は……暴風を伴う! つまり——俺自身も吹き飛びます!


「うひゃぁ!?」


「まったく! 世話の焼けるやつだっ!」


「ありがとう!」


 どうやら、兄さんに受け止められたらしい。


「では、飛んでくる残がいは私が!」


 リンが前に出て、岩などを拳で破壊していく!


 闘気をまとったリンなら、たわいもないことだろう。


「おいおい、なんつー威力だよ。後ろの壁にヒビが入ってきてるぞ?」


「えっ? それはまずいね!」


 俺は砂の城に再び、魔力を込めていく。






 そして、爆発が収まると……。


「……まいったぜ」


「マルス様……やりすぎです」


「ご、ごめんなさい!」


 そこには魔物は生き残っていなく、魔石が大量に落ちている。


 それはいい……ただ、問題は地面に大穴が開いてしまっていることだ。


 ひとまず、後ろの魔法を解除すると……。


『オ……オォォォ——!!』


 それを見た人々が、大きな歓声を上げる。


 そして、三人が近づいてくる。


「これがボスの力だぜ! お前ら、何かあっても安心しな!」


「皆の者! マルス様がいる限り安全だっ! 作業を進めていくぞ!」


「さすがはボスだな。このために、大技を仕掛けたってことか」


「……まあね! これで不安なく作業できるよね!」


 ……単純に、滅多に使う機会がない火属性魔法を使いたかっただけだけど。


 まあ、結果オーライってやつだね!







~あとがき~


今月の24日にアルファポリス様から『はぐれ猟師の異世界自炊生活』の二巻が出ることになりました!


スローライフ物語なので、もし興味のある方は、こちらも買ってくださると嬉しいです!

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