国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい~目指せスローライフ~

外伝~シロ~

　師匠たちは、今頃どこにいるかな？

　僕は、弱いし幼いから連れてけないって言われちゃった。

　ほんとは、みんなについて行きたかった。

　だって、家族の知らない僕にとって……師匠たちが家族みたいなものだから。

　今でも、あの日のことは覚えてる。

　リンさんが僕の前に現れた、あの瞬間から——僕の人生は変わったんだ。

　◇

　……ぁ、勿体ない。

　今日も、料理人の人が食べられる食材を捨てている。

　内蔵の部分とか、薬草類とか。

　あれが食べられたら、お腹いっぱいになれるのに。

　でも一度言ったら叩かれたから、もう言わないけど……。

　僕は奴隷だから、文句を言っちゃダメなんだ。

　お母さんとかお父さん、兄妹ってどんな感じなんだろう？

　……僕も欲しいなぁ……。

　そんな日々を過ごして日、綺麗な身なりをした女性がやってきた。

　凄く綺麗で背筋が伸びてて、かっこいいって思った。

　すると、なにを思ったのか……僕の方に近づいてくる。

「あなた、少しいいかしら？」

「ぼ、僕ですか？」

「そう、あなたよ」

「な、何でしょうか？」

「少し身体を触ってもいいかしら？」

「は、はい」

　わけがわからないけど、言われるままに身体を触られる。

　な、なんだろ？ ちょっとくすぐったい……。

「ふんふん、悪くないですね」

「え、えっと……？」

「ごめんなさいね。あなた、ここの仕事はどう？」

「ど、どういうことですか？」

「私の主人が、あなたを雇いたいって。正確には、私が代理で頼まれたんだけど。戦ったり、働いたりするけど、無理強いだけはしないと私が約束するわ……炎狐の名にかけて」

　炎狐族……それは、僕達犬族に伝わる伝説がある。

　知り合いから聞いたことある。

　最強の獣人にして誇り高き炎狐族。

　強さ、美しさ、気高さを備えた種族だって。

　そして……自分が認め忠誠を誓った相手には全てをかける種族とも。

「ぼ、僕もやります！」

　気がつけば、僕は言葉を発していた。

　ここも嫌だけど、何より……僕も、この人みたいになりたい。

　あと、この人が言うなら、きっと立派な方に違いないし。

「いいのかしら？ 結構、大変なこともあるわよ？ 私の主人は無茶をする方だから」

「でも……好きなんですよね？」

「……へっ？ べ、別に、そういうアレじゃないから。ただ、私が付いてないとダメなんですよ」

　この人を見てればわかる、きっと良い関係なんだなって。

「あ、あの！ 僕もあなたみたいになれますか！？」

「私みたいに……ええ、頑張ればなれるわよ」

「が、頑張ります！」

「じゃあ、成立ね。これからよろしく」

　そして、師匠出会ったんだ。

　師匠は、僕に色々なものを与えてくれた。

　暖かい布団と、自分の部屋。

　美味しい料理を食べさせてくれたり、その調理法を惜しげなく教えてくれたり。

　何より、僕を普通の人として扱ってくれた。

　一緒に遊んだりふざけたりしてくれて……お兄ちゃんってこんな感じなのかなって。

　もちろん、レオさんやベアさんもお兄さんだよね。

　あと、リンさんはお姉さん。

　妹はラビちゃんかな？もしくは、お友達って感じ。

　僕はもう、一人じゃない。

　この人たちが、僕の家族なんだ。

　◇

　……そうだ、くよくよしてる場合じゃないや。

　今の僕にできることをしないと！

　そう決めた僕は、とある人の元に向かう……少し怖いけど。

「あ、あの！」

「うん？ 確か、シロと申したな？」

「ひゃ、ひゃい！」

　僕が話しかけたのは、バランさんって方だ。

　本来なら、僕が話しかけて良い人じゃないのはわかってる。

　あっちも気を使ってか、話しかけてくることもないし。

「そう、緊張するな……というのは難しいか。私は見た目が厳ついからな」

「い、いえ！ 師匠……マルス様から聞いてます！ とっても優しい方だって！ 小さい頃に、よく遊んでもらったって！」

「そうか、マルス様が……あのいたずら坊やがな……おっと、今のは内緒だ」

　そう言い目尻を下げる。

　やっぱり、この人も師匠が好きなんだ。

「えへへ、わかってます」

「それで、私に何か用だろうか？」

「ぼ、僕に剣の稽古をつけてくれますか！？」

「ふむ……なぜ、私なのだろうか？」

「えっと……今はリンさんがいなくて。そのリンさんが言ってたんです。バラン様が、剣の基礎がしっかりしてる方だって。あと、攻めよりも守りに強いって。僕、強くなりたいです。もう、置いていかれないように……そして、みんなを守りたいです。この先も、みんなと居たいから」

　リンさんがバラン様に稽古をつけてもらった時言ってた。

　王宮剣術？ってやつを、きちんとおさめてるって。

　僕が強くなれるのは、まだまだ先なのはわかってる。

　せめて、みんなの足手まといにならないように、守りの剣も覚えたい。

「なるほど。それならば、私が適任だろう……ふははっ！」

「ふえっ！？ び、びっくりしたぁ」

「すまんすまん。実はリン殿から頼まれていたのだ。もし……シロが自分から頼んできたら、稽古をつけやって欲しいと」

「リンさんが……」

「私としては全然構わなかったのだが……お主も、主人……マルス様を守りたいのだろう？」

「はいっ！ 僕に家族をくれたあの人に、恩返しがしたいんです！」

「うむ！ その意気やよし！ 稽古をつけるとしよう！ 言っておくが……やるからには厳しくいくぞ？」

「よ、よろしくお願いします！」

　よ、よーし！ がんばろ！

　僕だって、家族の一員なんだ！

　そのためには、守られるばかりじゃダメなんだ！