147話 溶けた氷と腫れた頬

 次の日……シルクとリンと一緒に庭でのんびりとする。


「うーん……気持ちいいね」


「そうですね」


「ふふ、わかりますの」


 こっち側は比較的に暖かいので、すでに春の陽気に近い。


 というより、我が国もそろそろ冬が終わるだろう。


「まさしく、今しかないよね」


「確かに、この時期が一番いいでしょう」


「作業をするなら、これ以上はない季節ですわ」


「……良かったよね」


「ええ、本当ですの」


 三人で顔を合わせ、思わず微笑み合う。


 とりあえず……俺の頬が腫れていることはスルーして。


 それも含めて、朝の出来事が原因だ。









 ◇


 ……眠い。


 昨日は、よく働いたし……。


 今日は、のんびりと惰眠をむさぼるとしよう……。


「……スゥ」


「マ、マルス様! 寝ないでください! 起きてくださいませ!」


 ……あれ? どっかから声が……それより寒い。


「うーん……お布団がない……?」


 とりあえず、近くにある暖をとらないと……。


「ひゃっ!?」


 ……柔らかくて、いい匂いがする。


 これは素晴らしい……ずっと触っていられる。


「やっ……! そこはダメですの……!」


「シルク様? マルス様をさっさと起こさないと……お邪魔しました。では、私は見張りをしているので。そんなに時間は稼げませんが……」


「リ、リン!? 違いますの!」


「はいはい、わかってますよ。マルス様、失礼しますよ」


 あぁ! 素晴らしい何かがなくなった!?


「ふぁ……もう折角気持ちよく寝てたのに……あれ? シルク?」


「マ、マルス様……」


「私が許可するので遠慮なくどうぞ」


 ……ん? なんだ? 寒気が……。


「や、やあ、シルク——その振り上げた腕はどうするのかな?」


「マ、マルス様のバカぁぁぁ!!」


「ヘブシッ!?」


 平手打ちをくらい、俺は再びベットに沈むのだった……。


 マルス、死す——次回作にご期待ください。








 ……痛いです。


 なんとか、生きているマルス君です。


 どうやら、シルクを抱き枕にしちゃったらしく……。


 朝起きたら頬が腫れていたんですよぉ〜。


「なぁーに!?やっちまったな!」


「もう一発くらいますの?」


「反対側も腫れちゃいますよ?」


「……ごめんなさい」






 気を取り直して、食堂に行くと……。


「あれ? マリアさん?」


「お、おはようございます」


 そこには、セシリアさんと食事をする姿があった。


 何より、獣人に混じってご飯を食べている。


 普段は自分の部屋に持ってこさせるって話だったはず。


「ふふ……まあ、そんな顔をしてやるな。マリアも反省してるようだしな?」


「お、お姉様!?」


「いいではないか。昨日だって一緒に寝たではないか」


「あ、あれは……だって、久々でしたもの」


「ほら、昨日言っていただろう? マルス殿に言うことがあると」


「俺にですか?」


「その……失礼な態度をとって申し訳ありませんでした。マルス様のおかげで、こうしてお姉様と仲直りができました。ましてや私は降嫁した身分なのに、現王子であるマルス様に偉そうな口をきいてしまい……」


「はい、そこまでにしましょう」


「ですが……」


「私はそこまで偉い人間ではないですから。ですが……もし、少しでも感謝しているなら、俺のやることに協力してほしいです」


「ほら、こういう方だと言っただろう?」


「そうですわね……ええ! わかりましたわ!」


「ふふ、随分と変わるものだ」


「も、もう!お姉様ったら……」


 ……すっかり、姉に甘える妹って感じになってる。


 どうやら、長かった氷は溶けたみたいだ。


 きっと、何処かですれ違ちゃったんだろう。


「……ところで、その頬は?」


「私も気になってましたの」


「……キカナイデクダサイ」


 我ながら、なんとも締まらない格好。


 でも、どうやら……姉妹の氷は溶けたみたいです。





 ◇


 ……ということがあったとさ。


 腫れた頬に氷を当てつつ、出来事を思い出した。


「いやぁ〜本当に良かった良かった」


「仲が良いに越したことはないですからね」


「ええ、そうですわ。何より……これで大きな障害が消えましたの」


 そう、それが一番大きい。


 彼女を味方につけることが、一番困難だと思っていたから。


 ワーレンさん自体は、道理を説けばどうにかなると思ったけど。


「まあ、別に狙ってやったわけじゃないけどね」


「それがマルス様らしいですね」


「ふふ、そうですわ。いつも、そうやって周りを幸せにしてくれますの」


「……照れるね。さ、さて、これからどうするかなー」


「あら……照れてますわ」


「マルス様は褒められ慣れていませんから。それで、これからどうするのですか?」


「うーん……とりあえず、街道整備を進めていくよね。できれば、冬が終わる前に」


「冬が終わって暖かくなると、隣国が攻めてくるかもしれないですね」


「言えてますの。こっちの警備や整備に人を割けるのも今のうちですわ」


「そういうことだね。というわけで、午後から頑張るとしますか」


「氷、溶けてますね?」


「あっ、ほんとだ」


 頬に当てていた氷水が溶けていた。


「……治しますの」


 シルクの手が頬に触れ……痛みが引く。


「ありがとう、シルク」


「い、嫌ってわけじゃなくて……せ、責任とってくださいね?」


「は、はい! 頑張ります!」


 デレたシルクの破壊力は凄まじく、俺は早いところ開拓を進めることを決意する。


 スローライフイチャイチャ生活するために!


 ……たまには言わないとね!


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