144話 宴の準備
さて……そうなるとマルス君は大忙しです!
先程から、魔力を使い続けています!
疲れたよぉ〜! ……自分で言ったんだけどね。
「マルス様、さっさと椅子と机を作ってください。次はこの位置からです」
「ちょっ!? リン!? 引っ張らないでぇぇ——!」
俺たちにとっては、いつもの光景だけど……。
当然、他の人達にとってはそうではない。
先ほどから、戸惑いの視線を感じるけど……それはあえて無視する。
普段からこうですよ〜っていうことを示すために。
そして、俺が魔法で作った物を……。
「こっちだっ! 机はこの辺りに頼む!」
「あ、ああ!」
レオが獣人達に指示をしつつ、自らも率先して重たい机を運ぶ。
「マックス! 椅子を頼むぜ!」
「わかってる! では我々は椅子を運びましょう! 」
マックスさんが率先して椅子を運ぶことで、他の人々が動き出す。
無理矢理でもいい、今は少しでも交流することが大事だ。
いずれ、少しずつ理解していけばいいし。
ある程度、用意が済んだので……休憩です。
「マ、マルス殿! これはなんですの!? 私達にも是非流通をしてくださいませ!」
「マリア、落ち着け。マルス殿、すまないな」
「い、いえ」
「すみません、マルス様。私の独断でハチミツを提供しまして……」
「いや、私が悪いのだ。つい、話題に出してしまってな……」
なるほど……確かに自分たち用に壺を一つ持ってきてたね。
今回は交渉材料にするつもりはなかったけど……シルクの判断なら問題ないかな。
セシリアさんも、多分話題に困ってしまったのかも。
「いいよ、シルクの判断で。自分がとってきた物じゃないとかは気にしないでいいからさ」
「あっ——あ、ありがとうございますの……」
良かった、どうやら正解だったみたい。
おそらく、自分がとったものじゃないのに勝手に使っていいか迷ってたのかも。
「……本当に、随分と女性の方に任せるのですな」
「ええ、ワーレンさん。シルクは優秀な人です……いや、違いますね。シルクは、俺が信頼しているので」
「マルス様……」
「信頼さえできれば、あとは男性だろうが女性だろうが……獣人だろうが、関係ないと私は思っています」
「ふむ……」
「そうですね。例えば、そのハチミツですが、獣人の方々がいなければ取れなかったでしょう」
「何ですと? それはどういう……」
俺も椅子に座り、お茶を飲みつつ、ハチミツをとった経緯を説明する。
もちろん、闘気については話さない。
これは危険だと判断される可能性があるし、全員が使えるわけではないし。
「つまり、獣人のタフさと俊敏さ、匂いや音を聞き分ける能力が大事になってきます」
「なるほど……そもそも、ハチミツを発見するには熊族が必要と。もしかしたら、我らの国の森の奥にもあるかもしれない」
「ええ、その可能性はあります。そして、彼らは確かに気性が荒いのかもしれません。ですが、情に熱い一面もあります。我々がきちんと寄り添えば、答えてくれるかもしれません」
「ふむ……」
「そして魔法を使えない彼らのために、人族が協力して取り掛かる必要もあります」
「魔物や魔獣は手強いし、スケルトン系は魔法でないと倒せないからですか……」
「ええ。そして、そのためには……」
「きちんと人族と獣人族が協力することが肝要と……」
「そういうことですのね……」
マリアさんとワーレンさんが、宴の準備をする獣人と人族を眺める。
俺も眺めてみて……。
「こっちにも頼む!」
「スペースが足りない! 誰か、ここにある置物を……」
「では、我々が運ぼう」
「そ、そうか……」
人族と獣人族が、ぎこちなくも協力する姿がある。
別に、今はそれだけでいい。
彼らの視線が少し変わるのを確認した俺は、再び宴の準備に戻るのだった。
……疲れたけど頑張るよぉ〜!
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