143話 マルスの作戦

 その後、俺がシルクの膝の上でうとうとしていると……。


「マルス様、皆さんがこちらに来ますわ」


「……ん? ありがとう、シルク……ふぁ……仕方ない、至福のだらだらタイムは終わりにしますか」


 シルクの膝枕なんか、結構レアだったりするし。

 当たり前の話、侯爵令嬢が結婚前に男性と接触することすらアレだし。

 辛うじて、俺が王族で婚約者?だから許されているだけだ。


「……またしてあげますの」


「……ん? 今、何か言った?」


「ま、また……してあげますって」


 両手はスカートの端を握りしめ、その顔は俯いているけど……。


 その耳はみるみるうちに真っ赤に染まっていた。


「そ、そっか……うん、楽しみにしてるよ」


「は、はぃ……」


 すると、ライル兄さんが近づいてくる。


「おい、人を呼んでおいてイチャイチャか?」


「ライル兄さん……もしかして羨ましい?」


「てめー! このやろ!」


「わぁ〜! 待ったっ! お願い!」


「チッ! 相変わらずすばしっこいやつだ!」


 俺と兄さんがおふざけしていると……。


 次にマリアさんとセシリアさんが、近づいてくる。


「……兄弟ってああですの?」


「マリア……そうかもな」


「そう……私達とは随分と違いますわ」


「そうかもしれない……だが、これからでも……」


「お姉様?」


「いや、何でもない」


 ……うーん、何やら複雑な感じだね。


「何かきっかけさえあれば、どうにかなりそうな気もするけど。


「おい、マルス。それで、何をしようってんだ?」


「全員揃ってからね……いや、来たみたいだね」


 振り返ると、残りの人たちも来ている。


 俺の仲間達と、マリアさんとワーレン殿、このメンツでやることは……。


「ワーレン殿、すみません」


「いや、構いませんが……いったい何を?」


「いや、実は……」


 俺はワーレン殿に許可を取る。


「なるほど……いや……断る理由はないですな。確かに、私自身も気になってるところでしたので」


「ありがとうございます。もちろん、押し付けることはしませんから。こういう形もあるよってところを見て頂けたらなと思います」


「了解致しました。では、お好きなようにやってみてください」


 許可を取った俺は、土魔法でお立ち台を作り、その上に乗る。


「はいっ! 注目〜!」


 全員の視線が俺に集まる。


 それこそ、庭にいる獣人達も。


「皆さん! こんにちは〜! はい! ……返事がない!」


「こ、こんにちは……恥ずかしぃ」


「こ、こんにちはですの……もう」


「ボスは相変わらずっすね」


「クク……そうだな」


「というか、魔法の無駄遣いじゃね?」


 まったく、男連中は反応もしないとは。


 まあ、いいや。


 シルクとリンの恥ずかしい顔を見れたしね!


「コホン! まずは集まってくれてありがとうございます! 改めまして、私の名はマルス! フリージア王国の第三王子です!」


 みんなが、そんなことは知ってるという顔をする。


 でも、これを言っておくことが大事だ。


「今日は、私達を歓迎してくれた皆さんにお礼がしたいと思います! 夕飯をご馳走したいので、そのことをお知らせするために集まって頂きました! もちろん、使用人の方々も含めてですのでご安心ください!」


 使用人の獣人達がざわざわしだす。


「ど、どういうこと?」

「わ、我々はどうしたら?」

「な、何をすれば……?」


 うーん……戸惑ってるね。


 さて、やるとしますか。


「皆さんには準備を手伝って欲しいです! マックスさん!」


「はっ! ここに!」


「レオと共に、獣人達に何をすればいいか伝えてください! ……マックスさんなら、俺のいうことがわかりますね?」


「なるほど……レオ! わかったな!?」


「そういうことか……あぁ!? 偉そうにいうな! 俺の方がボスのことわかってるぜ!」


「ほう? では見せてもらおうか」


「おう、良いぜ」


 使用人の獣人達の顔が、驚愕に染まる。


「あの人騎士の人だよね?」

「獣人なのに敬語使ってないわ……」

「相手も普通に接してるぜ?」


 よしよし……掴みはオッケーかな?


 まずは、レオとマックスさんと接していけば、少しはマシになるはず。


「次に……ライル兄さん! ベア! 二人には狩りをお願いします! この近辺にはブルズがいると聞きました!」


「うし! 任せろや! ベア! 足を引っ張るなよ?」


「クク……誰に言っているのです? そっちこそ、足手まといにならないでくださいよ?」


「はっ! 誰に言ってやがる! うし! そうと決まったら行くぜ!」


「おう!」


 二人は肩を並べて、外へと向かっていく。


「王族の人だよね?」

「でも、獣人と普通に接してるぜ……」

「マルス様も王族だし……」


 よしよし……みんな言わなくてもわかってくれてるね。


 ベアなんか、慣れない敬語なんか使ってるし。


 流石に、この状況で王族にタメ口はまずいからね。


「シルクにはワーレン殿とマリアさんを頼みます! 俺の流儀を教えてください!」


「わかりましたわ!」


 シルクならお偉いさんの相手も安心だ……俺なんかよりよっぽどね。


「リンは俺を手伝ってね!」


「はい、こき使います」


「違くない!?」


 すると……それまで表情をコロコロ変えていた彼らが……。


「クス……あっ」

「お、おい、笑うなって」

「い、いや、だって……」


 うんうん、馬鹿にされた笑いじゃないから良いね。


「な、何ですの?」


「ふふ、マルス殿はこちらが普段の姿だから気にしないで良い」


「……お姉様も変わりましたわ」


「そうか……だとしたら、彼らのおかげかもしれないな」


「……私も……」


 さて……こっちも上手くまとまるといいけど。


 ひとまず——宴の準備です!

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