140話 説得?

 その喜ぶ姿を見たからか、ワーレンさんの顔つきが変わる。


「マリア……それほどか?」


「ええっ! 貴方! これは売れますわ! というより、私が買い占めたいですのっ!」


 ふふふ……良い食いつきだね。

 これを今のところ使えるのは俺だけだ。

 つまり、やらしい話……売るなら早い方がいいよね。


「それほどか……マルス殿、意外と政治というものがわかってるようですな?」


「いえいえ、素人ですよ。ただ、この世の半分くらいは女性ですから」


「……食えない方だ。そして、この貴族社会において……それを言えるとは」


 まあ、基本的に男性が強い世界だし。

 俺のいた世界も男性が強いけど、少しずつ女性進出も進んできている。

 でも、この世界はほとんど男性優位だ。


「私は女性進出も視野に入れてますので。才能のある方はたくさんいます……私の隣にいるシルクのように」


「マルス様……」


「ふむ……たしかに、シルク嬢は優秀ですな。そして、女性にも優秀な人がいることは確かだ……無論、それを良しとしない人達もいますが」


「ワーレン殿は、どうお考えですか?」


「女性は政治の世界に関わるべきではないとは申しません。それは、隣に妻を座らせてることからも理解して頂けると」


 ……確かに。

 言質を取られないような言い回しをしているけど……。

 他の頭の固い人だったら、この話し合いの場に女性を連れてこないかも。


「ええ、そうですね」


「しかし、その道も険しいですぞ? 確かに、女性の力や影響力があることは認めますが……」


「そうかもしれないです。でも、そうしないと先には進めないと思ってます」


「この間お会いした時……国王陛下も同じようなことを仰ってましたな。そもそも、そのためにセシリア様にそういう教育を施したと」


「うむ。無論、男子がいないことも原因だったが……しかし、父上も女性進出については考えていた」


「そうですわね……私が嫁ぐ時も、色々と勉強させられた記憶が……」


「何を言うか。お主はサボってばかりだったではないか」


「う、うるさいですわ! だって、お姉様ばかり外に出てずるいです! 私はお稽古ばっかりで中々外にも出られなくて……」


「仕方ないではないか。お主が動けば護衛がいる。それに、たまには外出出来てたろうに」


 あぁ……そういや、この姉妹も複雑なんだっけ?

 王子がいないので男のように育てられたセシリアさんと、嫁ぐための王女として育てられたマリアさん。

 仲が悪いってわけではなさそうだけど、色々と複雑なんだろうなぁ。


「コホン! ひとまず、その魔石の効果はわかりました。しかし、それだけでは……我々には塩もございますからね」


「いえ、この魔石の効果はこれだけじゃないです。よく考えてください……これを部屋の天井に設置すればどうなりますかね? さらには、代わりに冷たい風を込めれば?」


「………はっ! へ、部屋全体が……」


「ええ、そうです。いずれは専用の入れ物を作って、その中に組み込む形にする予定です」


 つまり、俺が考えているのはクーラーだ。

 火と風による暖かい風と、水と風による冷たい風。

 そうすれば、一年を通して過ごしやすくなるはず。

 といっても……最初から考えてたわけじゃないけどね。


「むむむ……」


「ちなみに労働環境も良くなるので、効率も上がるかと思います」


「そうですね。出産する際にも役立つかと思いますの」


「おっ、シルクの言う通りだね」


 安全に出産できれば、人口も少しずつ増えていくしね。

 ……我ながら 良い開発をしたね!


「……私の負けですな。いや、我々に得がありすぎる。そのうち肉も輸出してくれるということですし……何が望みですかな?」


「私は腹の探り合いは得意ではないので、単刀直入に言います。道の整備作業には、どうしても獣人方の力が必要です」


「うむ、その通りだ。力仕事は、彼らの方が適している。無論、我々からも貸し出すつもりだ」


「しかし、その作業中の獣人の扱いは——私達に一任して頂きたいのです」


 俺の今回の一番の狙いはこれだ。

 こっち側の獣人達と交流させることで、双方の固定観念を覆す。


「うむ……奴隷解放を目指してるのですか?」


「いえ、そこまでは無理かと。そのおかげで生きている方や、それに満足している人もいるでしょうから」


 奴隷いっても様々だ。

 虐げられてる者もいれば、手厚く雇われる者もいる。


「ふむ」


「ただ、選ぶ権利はあって良いと思います。解放されたい者は、相当する働きをするとか……それが人権というものかと」


「しかし、我々人族の負担がかかりますが……」


「それも先ほどの魔石で緩和されるはずです。髪を乾かす者や、薪を用意する者、火の番をする者などが必要なくなります。それは人件費の節約にも繋がるかと」


「……一理ありますな」


「意識改革をしたいんです。獣人達と、人族達の……せっかく、二つしかいない種族なのですから仲良くしたら良いなって……甘いですかね?」


「……一晩時間をくださるか?」


「ええ、もちろんです」


「では……ひとまず解散と致しましょう」


 ふぅ……とりあえず、言いたいことは言えたかな?


 あとは……答えを待つだけだね。

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