139話 話し合い開始

 案内に来てくれたセシリアさんについていき……。


 今では使われる事のなくなった応接室の前に到着する。


「ここを使うのは数十年ぶりだそうだ」


「なるほど……それくらい交流がないって事ですもんね」


「そういう事だ。正直言って、物置と化していたくらいだ。無論、マルス殿が我が国に来てからすぐに改装したので安心してくれ」


 そう言い、軽くウインクをする。

 ……どうやら、緊張してるのがバレたらしい。

 ほんと……この人がお姉さんになってくれたら嬉しいよね。

 そのためにも……何としても友好を深めないと。


「お気遣いありがとうございます……では、お願いします」


「うむ……」


 セシリアさんがドアをノックする。


「どうぞ、お入りくださいませ」


「失礼する。マルス殿も私に続いてくれ」


「はい、失礼します」


 セシリアさんの後についていくと……そのままソファーに案内される。

 セシリアさんは対面の右端に座り、真ん中にワーレン侯爵、左端にはマリア夫人が座っている。

 こっちは真ん中に俺、左にシルク、右に兄さんを座らせる形だ。

 基本的にはこの六人で話を進める感じのようだ。

 ちなみに、それ以外の人は後ろの方で立っている状態だ。


「すまないが、マルス殿……」


「いえ、セシリアさん。お気になさらないでください」


 多分、獣人達の席がないことを言っているのだろう。

 でも、今はまだ言っても仕方ないことだ。

 それに護衛としては、立っている方が正解でもあるし。


「うむ……ワーレン侯爵」


「何ですかな、セシリア様?」


「私は極力口を出さない方針だ。この先、マルス殿と……いや、フリージア王国と交渉するのは貴方だ。私は調整役だと思ってくれて良い」


「なるほど……わかりました」


 ……これはセシリアさんなりの援護だ。

 俺達の味方をしないと同時に


「俺も口出しはしないつもりだ。マルスに全権を委ねている」


「ライル殿……では、話し合いを始めてくれ」


 セシリアさんはそう言い、静観の構えを示した。

兄さんも腕を組み、静かになる。


「コホン……では、関所の主人でもある私がお話を進めてもよろしいですか?」


「ええ、構いませんよ」


「まずは、我が国と再び交易を行いたいという認識でよろしいでしょうか?」


 その瞬間、シルクが俺に目配せをする。

 俺は視線だけで頷き、少し体を引く。


「いえ、それは正確ではないです」


「ほう? オーレン侯爵の娘さんの、シルク殿といいましたな……その意味をお聞きしても?」


「はい、もちろんです。私達は交易を


 ……なるほど、その言い方の差は大きいや。

 ほんと、頼りになる女の子だよね。


「ふむ……ですが、困るのはそちらでは? 食糧不足も然り、人口不足も然り」


「もちろん、食糧不足も人口不足も問題ですが……それらは解決方法は見えていますので」


「……セシリア様?」


「私の口から言えることは、ブラフではないということだ。向こうは私を信頼して置いてくれている。故に、それ以上は言えん」


「なるほど……最悪、私達と交易しなくてもどうにかなると?」


「ええ、そうです。時間はかかりますが……何より、マルス様が良しとしませんので」


「マルス殿が……?」


 そこで、シルクとワーレン殿から視線を向けられる。


「そうですね。私としては、フリージア王国だけではなく、セレナーデ王国の方々にも幸せになって頂きたいと思っています。美味しい物が沢山ありますし、綺麗な景色、暖かい人々に触れましたから。その協力が出来たらと思っています」


「随分とお人好しですかな?」


「いえ、そうでもないですよ。結果的に隣国が幸せじゃないと、あとで我が国に敵対しても困りますから」


「……しかし、そちらから得るものはありますか? 確かに王都からの通知で氷の魔石や、ヒートという魔石を頂いたというのは聞きましたが……それでも、対価としてはどうでしょうか?」


 確かに、海産物や食料に比べたら低いかもしれない。

 そもそも、それらを受け取るために氷の魔石が必要だから渡したわけだし。

 つまり、半分は自分たちのためでもある。


「そうですね……ひとまず、こんなものは如何ですか?」


 俺は用意してあった魔石を取り出す。


「ふむ……これは?」


「まずは、お手本を見せますね。シルク、良いかな?」


「は、はい」


 その綺麗な銀髪に触れ、魔石を翳し……。


熱風ヒートウインド


「ふふ……あったかくてくすぐったいですの」


「これは暖かい風を送る魔石ですね。濡れた髪などを乾かすのに便利です。さて、どうですかね? ちなみに、これを作れるのは今のところ俺だけです」


「……これは……いや、その効果は……」


 侯爵はぶつぶつと考え込んでいる。

 でも、それよりも狙いだったのは……きたね!


「な、なんなんですの!? 暖かい風!? わ、私にも!」


「ええ、もちろんです。セシリアさん、お願いします」


 セシリアさんに魔石を渡し……。


「ああ、では……熱風」


「……はわぁ……これをお風呂上がりにされたら……」


「ええ、そういうことですね。マリア夫人なら、この素晴らしさがわかってくれるかと」


「え、ええ! もちろんですわ!」


 よしよし、これで掴みはバッチリだね!


 まずは女性から味方につけないと何事も上手くいかないってのが俺の持論だし。

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