138話 作戦会議

 食堂に向かう際に……リンとシルクを見つける。


「あっ、マルス様。おはようですの」


「マルス様、おはようございます」


「おおっ! リン〜! シルク〜!」


 俺は嬉しくなり、思わず二人を抱きしめてしまう。


「きゃっ!?」


「ひやぁ!?」


「ありがとう! 二人共!」


「な、なんですの!?」


「お、落ち着いてください!」


 仕方ないので、二人を解放する。

 でも、そんなことで俺の熱は冷め止まないのです!


「シルク、君は素敵な女の子だ。君に出会えたことを感謝しないとね」


「ひゃい!? な、な、なにを言いますの!?」


「リン、君と出会えたこともね。本当に、俺についてきてくれてありがとう」


「えっと……頭でも打ちました?」


「ひどいなぁ……まあ、少し自分が恵まれていることに気づいたって事で」


 本来なら、貴族としてマリアさんの方が大多数の反応だ。

 そのことを忘れちゃいけないし、そうしない彼女に感謝しないといけない。

 リンに対しても、解放されていつでも逃げられるのに、ここまでついてきてくれた。

 それを当たり前だと思っちゃダメだよね。


「そ、そうですの? ……そんなのはこちらのセリフですわ」


「ええ、その通りかと。ねえ、二人とも?」


「ああ、主人がそれを言うかって感じだな」


「ほんとだよなぁ。それは、オレたちがボスに言いたいことっすよ」


「ははっ! まあ、それが弟の良いところだ」


「あっ、兄さんにレオ。おはよー」


「おう。さて……なにがあった?」


「うーん……後にしようかな」


「……わかった」







 その後、朝ご飯を食べて……セシリアさんを除いて一部屋に集まる。


 リン達がいれば、人が来たらすぐにわかるから安心だね。


 そして、軽く説明をすると……。


「なるほど……いや、難しい問題だな。ここは、関所とはいえ我が国の領土ではない」


「うん、そうなんだよね。言い方悪かったかな? 一応、あっちは現王女ってわけじゃないから強気で良いかと思ったんだけど……」


「いや、悪くはない。あくまでも、こちらの立場を示したに過ぎない。あとは、あっちが認める材料や……言い方は悪いが、何かモノで釣るか。賄賂と言ってはアレだが……まあ、そういうものが必要な時はある。そういうのは、お前は嫌いかもしれないがな」


「ほっ……良かった。いや、そんなことないよ。要は俺に対する敵愾心というか、嫌われないようにってことでしょ? うーん、あの人が気にいるモノ……俺が作った魔石かな?」


「それは食いつくだろうな。特に、あの熱風を込めた魔石とか」


「あっ! 確かに! シルク、どう思う?」


「……良い考えだと思いますわ。少しだけお会いしましたが、あの方は髪も長いしきっちりとお手入れをなさってましたの。その時間が短縮されるというのは魅力的に映ると思いますの」


「そっか、シルクが言うなら間違いなさそうだね。じゃあ、あとで魔石にこめとくかな。シルク、俺では説明不足になりそうだから任せるね」


「……う、嬉しいですの」


「はい?」


 何やら、シルクがもじもじしてるのですが?

 そして、可愛のですが?


「ふふ、嬉しくて照れてるんですよね」


「リン! ……そ、そうですの」


「うん? なにが良いことあった?」


「私、ずっとこんな感じで役に立ちたかったのですわ。こう、他国との話し合いで意見を求められたり……お仕事のお手伝いをしたり……」


「あれ? セレナーデ王国でも話し合いしたよね?」


「もう! あれは私に丸投げでしたの!」


 ……あれ? そういや……そうだったァァァ!

 俺ってば、シルクが話し合いしてる間に食べ歩きしてたっ!

 俺がしたことといえば、魔物退治くらいだったね……。


「ご、ごめんなさい」


「まあ、良いですの。アレはアレで、結果的に話し合いを優位に進められましたし……今回は一緒に話し合いをするのですか?」


「うん、その予定。一応、その事業を行う領主だしね。流石に、旅行気分の前回とは立場が違うよ。シルク、頼りにしてるからね?」


「ええっ! 私がお役に立ってみせますわ!」


 おっ、久々の自信満々シルクだ。

 うんうん、可愛いのも良いけど……こういうシルクも素敵だよね。


「さて……それで、どういう流れにする? お前の意見を尊重するし、尻拭いはするが……心臓に悪いことは言うなよ?」


「わかってますよー。とりあえず、言いたいことは伝えようかと思います。まずは、整備の協力を得ること。その際に、獣人が従事させられますよね? その、仕事を……」


「ああ、言いたいことはわかる。お前が嫌いな言い方だろうが、奴隷のような扱いを受けるだろうな。休みなく働き、粗悪な環境に置かれる可能性が高い」


「ですよねぇ……シルク、どうしよう? 」


「こちらの扱いと、あちらの扱いが違うと色々と問題がありますの。かといって、こちらが合わせるのは先のことを考えると悪手ですわ。上手く、折衷案に持っていくことが肝要かと」


「ふんふん、なるほどね。こちらの奴隷の扱いをわかってもらいつつ、あちらの扱いにもなるべく文句を言わないようにと……むずくない?」


「ええ、難しいかと思いますわ。でも、それをしたいのですよね?」


「……うん、俺の想いとしては」


「ならば、マルス様が仰ることは決まってますの」


 俺が皆を見回すと……無言で頷く。


「みんな——俺に力を貸してください」


 全員が力強く頷いてくれる。


 その時……。


「マルス様、おそらくセシリアさんが来ました」


 そして……ノックの音がする。


「入って良いですよー」


「失礼……マルス殿、そろそろよろしいか?」


「はい、お待たせしました」


「ふむ、どうやら迷いはないようだ。立場上、私は向こうにつくが……気持ち的には君を応援しているよ。向こうで、この目で確かめたからね」


「セシリアさん……ありがとうございます」


 そうだ、知らないから見たけどないから理解できないんだ。


 まずは、そこから始めないと。

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