136話 マルス、訴える

その後、兄さんたちも軽く挨拶を済ませ……。


「では、お部屋にご案内いたします」


「あの! 少しいいですか?」


「うむ、何ですかな?」


「その、部屋割りとか……あと、獣人の扱いとか聞いても良いですか?」


これは俺にとって譲れない部分だ。

もしリンやレオやベアに、外にいろというなら——俺も外で寝る。

もちろん、ベットで寝たいけどね!


「出来れば外にと言いたいところですが……国王陛下から伝えられております。リンという炎狐族の女性と、獅子族のレオという男性も、我が国を救ってくれた功労者だと。故に、特別に許可を与えましょう。セシリア様、その二人がそうですかな?」


「ああ、そうだ。この私の目の前で魔物を倒してくれた恩人だ。そして、主人であるマルス殿を命がけで守っていた」


「なるほど、セシリア様が言うなら確かですな。では、そのように手配いたしま……」


「あ、あの! もう一人いるんですけど……」


「主人よ、気にするな。俺なら外で構わん」


「ダメ、俺が嫌だから。ベアだって、その場にいたら戦ってくれたでしょ?」


「……主人」


「い、いえ、しかし……ただの宿屋ならともかく、ここは国の重要拠点。ただでさえ獣人なのに、また一人増えるのは……」


「でも、一人だけは可哀想です」


「しかし……彼は熊族。恐ろしく獰猛で、暴れまわると噂……そんなのが屋敷の中で暴れ出したら……」


「彼はベアです」


「はっ?」


「熊族がどうかは知りませんが、少なくともベアはそんなことしません。見た目は怖いですけど、心優しい男です」


「い、いえ、しかしですな……」


「どうしてもというなら、俺は外で寝ます。その代わり、兄さん達をよろしくお願いします」


ここは譲れない。

今後、獣人達と暮らしていくためにも。

一度失った信頼を回復するには、ここで臆してちゃダメだ。

何より、ベアを一人にするなんて——俺自身が許せない。


「恩人を外になど……セシリア様」


「そう困った顔をするな、ワーレンよ。マルス殿はこういう方だ。差別をしないとは言わない。それは、上に立つ者として必要なことだ。だが、そういうマルス殿だからこそ、我が国を救ってくれたのだ。それこそ、損得勘定抜きにしてな」


いや!めちゃくちゃ欲に塗れてたけど!?

頭の中はお米とお魚でいっぱいだったし!


「確かに、不利な条約を結ばれてもおかしくない状況でしたな……なるほど、一理ありますな」


「ああ、マルス殿がその気なら見捨てて逃げることは容易だった。さらに、我が国を滅ぼすことも可能だっただろう。しかし、一緒にいるが……この者が私に恩を着せたことはない」


「ふむ……わかりました。私の一存で許可を与えます」


「感謝する。大丈夫だ、私も付き合いがあるが中々良い男だ」


「あ、ありがとうございます!」


「かたじけない」


ベアと二人で頭を下げる。

どうやら、セシリアさんのお陰で何とかなったみたい。

ほっ、恩を着せなくて良かったぁ。


「あ、頭をお上げください! ひ、ひとまずは待合室でお待ちください。すぐに手配をし直します……コホン! こうなったら乗りかかった船です。何か、ほかにご要望はございますか?」


「それでしたら部屋割りも決めて良いですか?」


「え、ええ」


「では、シルクとリンを。レオとライル兄さんを。俺とベアでお願いします。マックスさんはすみませんが、対応できるようにお一人でお願いします」


「はっ! もちろんです!」


「……獣人と人族の組み合わせですが……」


「はい、そうです。


「……参りましたな。試すつもりが試されることになりそうだ。ええ、わかりました」


やっぱり、この国でも獣人の扱いは良くないんだ。

さっきから、ちらほらと獣人の召使いらしき人たちが見えるけど……。

みんな、俺をみて驚いた顔をしている。

……変えるのは大変だけど、少しずつやっていくしかないよね。




その後セシリアさんと別れ、大広間に案内される。


そして部屋割りを確認するマックスさんを除き、俺達六人だけになり……。


俺は客室のソファーに文字通りめり込む。


「ふぁ〜疲れたぁぁ……!」


「ふふ、お疲れ様ですわ」


「マルス様、よく言いましたね」


「まあ、頑張ったかな」


「その……かっこ……よかった……ですの……」


「えっ? なに? なんか言った?」


すると……背中を叩かれる。


「イタイよ!?」


「マルス! よくぞ言った! 兄貴にも見せてやりてえぜ!」


「ほんと? 怒られないかな?」


「国王としてはどうかわからないが、兄としては喜ぶだろうよ。もちろん、俺もな」


「そ、そっか、なら良かった」


起き上がると、レオとベアがひざまづいていた。


「ちょ!?」


「ボスッ! オレは感動しやした! 一生ついていきやす!」


「主人よ、俺もレオと同じ気持ちだ。あの場面で、俺の味方になってくれたこと——生涯忘れることはないだろう」


「ううん、大したことないよ。逆だったら、味方になってくれたでしょ? 例えば、俺が獣人に囲まれたりさ」


「……クク、流石は主人殿」


「ボスは器が大きいっすね!」


「どうでしょう? 底に穴が空いてるだけかもしれないですが」


「リン? 聞こえてるよ?」


「マルス様ったら、肝心なことは聞こえないですのに……もう!」


「ドユコト?」


「「「「違いない」」」」


……なんかよくわからないけど、何だが疎外感です。


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