134話 道中の話

 英気を養った俺たちは、再び街道沿いに進んでいく。


 そんな中、俺は……空を見上げて叫ぶ。


「言っておくけど——まだまだスローライフは諦めてないんだからね!」

「はい? 誰に言ってるんです?」

「マルス様? 空に何かあるのですか?」

「いや、何でもないんだ。決意表明ってやつだよ。言霊ともいうし」


 なにやら、言わないといけない気がした。

 いつの間にか、みんな忘れちゃいそうだし……俺も含めて。






 再び、村々を訪問しつつ、これからの予定を聞いてみる。


「それで、この後はどうするの? 兄さん、知ってる?」

「いや、領主はお前だからな?」

「だってよく聞いてなかったし」


 何となく、視線を感じたので振り返ると……。


「シルク様、マルス様には伝えてなかったのですか?」

「リン、申し訳ないわ。一応、伝えましたし……確認しませんでしたけど、流石に知ってるものかとばかり……」

「いえいえ、シルク様のせいじゃないです。私がしっかり伝えるべきでしたね。マルス様の抜け具合は嫌ってほど知ってましたから」

「いえ、私がマルス様にしっかりお伝えすればよかったですわ。マルス様が人の話を聞かないのは知ってましたのに」


 ぐはっ……! 途轍もなくディスられてる!?


「おい、その辺にしとけ。マルスが死にそうだ」

「「はっ!?」」

「いいんですよ〜どうせダメな領主だもん」


 その後、気を取り直して……。


「仕方ないので、もう一度説明いたしますの」

「うん、よろしく」

「まずは村々を訪問しましたよね? セレナーデ王国に向かう街道の整備のために」

「ウンウン。村の人達に移住の説得するためと、これからの工事予定を伝えるためだね」

「はい、そういうことですわ。あとは村自体の様子ですの。今のところ、大きな問題はないです。というより、結局は食糧問題ですから」


 どこの村も飢えてはいるけど、意外と平和というか……。

 身を寄せ合って生きている感じだった。

 税金を取りに来る役人もいなかったのが、不幸中の幸いってことかな。


「ウンウン」

「しかしながら、問題は。食糧を供給したらしたで、新しい問題は出てきますし。税金しかり、食糧しかり、商品しかり……いざこざの材料は揃ってますの」

「もしかしたら、取り合いとかになるってこと?」

「はい。逆を言えば、飢えを凌ぐ為に協力して生活せざるを得なかったということですわ」


 なるほどなるほど……今までは取り合うことがないくらい大変だった。

 でも色々と潤ってきたら、欲が出てくるってことか。

 獣人と人の関係性も悪くなったりするかも。


「じゃあ、どうするの?」

「まずは村々の様子を把握することですわ。そのためには、我々だけでは無理ですの」

「ふんふん、いざこざとかがないか確認するためだね」

「ええ。なので、セレナーデ王国の関所にも協力してもらいますの」

「なるほど」


 ちょうど中間地点辺りに大きな町を作ればいいってことだ。

 そこで情報を共有したり、町で休憩していけば良い。


「それと、様々な物の量を調整することですわ」

「争いとかいざこざがないかってことと……調整?」

「その……いきなり与えすぎると問題があると思いますの。当たり前ですが、減った場合などに……」

「どういうこと?」

「………人とは慣れる生き物ですの。一度貰えてたものが減ると、不満が出てきますわ。だから量を調整して、与えすぎないように……私、酷いこと言ってますわ」


 シルクが言い辛そうに言う。

 きっと……俺のために。

 そういう人が貴重だってことは、前世の記憶があるからわかる。

 上の者に対して意見を言うって、大変だし勇気がいるから。


「ううん、そんなことないよ。ありがとね、シルク。前も言ったけど、それでシルクを嫌いになったりしないから安心してね。あと、そういう責任は……俺がとるからさ」

「マルス様……ふふ、では責任を押し付けますわよ?」

「うん、任せて。ただ、その前の面倒な段階は丸投げするからね?」

「もう! マルス様ったら!」


 そういう能力もない俺にできることは、責任を取ることくらいだし。


 人に任せる以上、それくらいは当然だよね。

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