133話 出発です
翌日の朝になり、ゆっくり休んだ俺たちは……。
トラスト男爵に挨拶をすませる。
「トラストさん、どうもお世話になりました」
「い、いえ! お世話になったのはこちらです!」
「いえいえ、こうなったのも我が王家に責任の一端がありますから」
こちらの言い分はともかく、この土地を見捨ててしまったのは事実だ。
この方達からしたら、ひどい扱いだと思うよね。
「マルス様……いえ、我々も悪かったのです。訴えても無駄だと思いこみ、今まで過ごして来てしまいました。日々の生活に精一杯でしたが、もっとできることがあったと……今更ながらに思います」
「無理もないですよ。生きることに精一杯だったら、他を省みる余裕なんかありませんからね。まずは衣食住揃って、それからの話しです」
「まさか、王族の方にそう言って頂けるとは……」
「一応、責任持って……この地を変えるつもりでいるから」
「ありがとうございます……! では、引き続き視察ということで?」
「あっ、そっか。そういや、視察の途中だったね。すっかり忘れてた。これから何するんだっけ?」
やばっ、すっかり帰るつもりになってた。
何だかんだ言って、結構密度高かったし。
「マ・ル・ス・様?」
「ご、ごめん! シルク! 睨まないでよ〜!」
「まあ、仕方ありませんね。マルス様ですから」
「リン? それはそれでひどくない? ねっ、みんな」
俺が男衆三人組に視線を向けると……。
「うむ、リン殿が正しい」
「へい、そうっすね」
「ははっ! 間違いねえ!」
だめだっ! この人たちはアテにならない!
こんな時は常識人に聞くべきだっ!
「ねっ!? マックスさん! セシリアさん! 仕方ないよね!?」
「……すまん、私には何も言えん」
「……俺もです」
「やめて!? せめて突っ込んでよぉ〜!?」
真面目な二人に目を逸らされてしまいました……すん。
すると、後ろからすすり泣くような声が聞こえる。
「うぅ……」
「はい? トラストさん? 何で貴方が泣いてるの? ……俺が情けないせいかな!? いや! あの! ロイス兄さんは立派な方ですから! 俺とは違いますからね!?」
「い、いえ……すみません。とても素晴らしい光景だと思いまして……マルス様はお優しい方ですね」
「いや、めちゃくちゃいじられて泣いてましたけど?」
「いえいえ、それが素晴らしいのです……老いぼれの私にも、希望が見えて来ましたな」
何かよくわからないけど、琴線にふれたらしい。
まあ、悪く思われてないならいいや。
「何言ってるんですか、まだまだお若いですよ。トラスト男爵には、この地を良くするために働いてもらわないと。もしかしたら、この地の責任者に任命するかもだし——無論、俺が楽するためにね?」
「それはそれは……では、全身全霊をかけて貴方にお仕えいたします」
しめしめ……これはいい拾い物もしたかも。
能力も悪くないし、ここまで民を見捨てなかった人だ。
この人が手伝ってくれれば、俺のスローライフの夢に一歩近づくね!
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