132話 次男と末っ子

たらふく食べ、少し休憩したら……。


待望のお風呂の時間ですね!


やっぱり元日本人としては、疲れた日には特に欠かせないよね!


まずは功労者ということで、俺とライル兄さんの二人で入ることになる。


……きっと、気を遣ってもらったんだよね。


未来のことはわからないけど、俺と兄さんがこんな時間を過ごせるのは……。


もしかしたら、そんなにないのかもしれないから。


「ふぅ……今日は疲れたなぁ。森に行って戦って、大立ち回りして、帰ってきたらご飯仕込んで……」


「確かにそうだな……だが、楽しかったぜ?」


「ほんと、楽しそうだったよね。あんなの、俺には無理だよ」


両手に剣を持って、あんな猛獣と真正面から戦うなんてね。

あれは……周りの人が心配するし、止めるに決まっているよねー。


「クク……しかし、久々の感覚だったぜ。あの高揚感……たまんねえぜ」


「もう! あんまり無茶しちゃダメだからね!」


アレ? 今の俺、ツンデレっぽかった!?

やだっ! マルス君ったら! ……俺も高揚してるかも。

今日は色々あって疲れてるしなぁ〜……ナチュラルハイってやつかな?


「ははっ! そりゃ、お前とは鍛え方が違うぜ。ほんと、同じ親から生まれたのに、まるで似てないしな」


「ほんとだよね〜でも……ライル兄さんに似てたら、ライラ姉さんとロイス兄さんが可哀想だよ」


「おい? どういう意味だ?」


そういい、俺の頭をガシガシと揺さぶる。


「わわっ!? そういうとこだよ! こんなのが二人もいたら大変だよ!」


「ははっ! いや、お前が二人でも困るが?」


「……それはそうかも。でも兄さんも、可愛い弟がいて良かったでしょ?」


冗談めかして言うと……兄さんの表情が変わる。


「ああ、そうだな……お前が生まれた時、みんな嬉しかった。兄貴や姉貴ももちろんだが、もしかしたら俺が誰よりも喜んだかもしれん」


「……そうなの?」


「兄貴のことは嫌いじゃないが、真面目な人だったし、王太子としての役目もあった。姉貴のことも……まあ、嫌いじゃない。だが女の子だし、やはり勝手が違う」


「まあ、そうだよね」


「だから、お前が生まれた時思った。これで遊び相手ができると。そして、俺の気持ちをわかってくれる存在ができたと……スペアとして生きる俺を」


「そっか……ごめんね」


「あん? どうして謝る?」


「俺ってば、こんなんだし……兄さんの気持ちわかってなかったし、全然遊んでなかったよね」


俺が、もっと早く魔法の鍛錬をやってたら……きちんと記憶を最初から持ってたら……。

何か、変わっていたのかな? もっと、きちんとやれたのかな?

両親だって……死ぬことはなかったのかな。

こんなこと、誰にも聞けない。


「何言ってんだよ。確かに魔法というか、戦う意味での遊びは出来なかったが……お前は俺と遊んでくれただろうが。一緒に駆けっこしたり、かくれんぼしたり、木に登ったり、一緒に怒られたり……お前が俺の周りをチョロチョロして、それにどれだけ救われたか」


「うん……俺も楽しかったよ。よく二人で怒られて、反省部屋に入れられたっけ」


「そんなこともあったな。お前だけ姉貴が『マルスが可哀想よ!』とか言って出してあげたりな?」


「うっ……で、でも! きちんと兄さんも出してくれるように頼んだよ!」


「ははっ! そうだったな! ……いやぁ、懐かしいぜ」


「俺だって、ライル兄さんに救われたよ。兄さんだけが、俺を否定しなかったから」


ライラ姉さんも優しかったけど、厳しいところはあったし。

ロイス兄さんは……うん、よく叱られたし。


「そりゃ、そうだ。自分がされて嫌だったことを、何で可愛い弟にしないといけない?」


「兄さん……」


「 俺なんか酷かったぜ? 『貴方に何かあったらどうするのですか!?』とか『もっと、自覚を持ってください』とか……少しやる気を出したと思えば、兄貴の陣営に『兄を退けて王位を狙ってる』とか、兄貴の敵対陣営に『共に国を変えましょう!』とか勧誘されるし。まったく、どうしろってんだ」


「うわぁ……めんどくさ」


「だろ? だから、お前には自由に生きて欲しかったんだよ。もちろん、兄貴や姉貴もな」


「ありがと、ライル兄さん」


「おう……らしくないこと言ったな。ほら、茹で上がる前に上がろうぜ」


「うん、そうだね」


風呂から上がった兄さんを見て思う。


そのたくましい背中に、何度助けられたことかと。


転んだ時も、木から落っこちた時も、いつも受け止めてくれた。


怒られた時も、いつも背中で守ってくれた……半分、無理矢理だったけど。


「兄さん」


「あん?」


「俺は、もう大丈夫だから。兄さんは、自分のことを優先していいからね。今度は、兄さんが……自由に生きていいから」


「……マルス……だが……」


「スペアとか、兄さんに男子が出来るまでとか、そんなこと考えなくていいから」


「しかし……」


「最悪の場合、この頼れる末っ子がいますから」


「……馬鹿言え……」


兄さんには、本当に世話になったもん。


だから、今度は俺が兄さんの幸せのために。


それが、俺が思う兄弟ってやつだと思うから。

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