131話 待望のお食事の時間

 ……お腹減ったなぁ。


 コトコトに煮込まれる鍋を眺めつつ、ひたすら空腹に耐える。


 空腹こそが最大のスパイスってね!


 ……いや、ただの言い訳ですよー。


 早く食べたいけど、完成しないだけです。


「……でも、そろそろいいかな」


 ホーンラビットの肉と野菜たっぷりのスープ……。

 鍋もいくつか用意したし……。

 これだけあれば、ここの住民くらいには行き渡るでしょ。


「リン、そっちの鍋は?」


「……こっちもいけそうですね」


 俺はホーンラビットの骨と、クズ野菜たっぷりのスープの仕込み。

 リンには、ホーンラビットの肉と、切った野菜類を炒めてもらった。


「じゃあ、仕上げちゃいますか」


「はい、ではお手伝いします」


「もちのろん、俺がザルを持つ側だよね?」


 俺には、こんな重たい寸胴持てないもん!

 ドバシャー!とこぼれる様子が浮かんできます!


「そんな自信満々に言わなくても……はぁ、たまには私の前でも男らしい姿見せても良いのに……」


「はい? どういうこと?」


「い、いえ! 何でもないです!」


 むぅ……どういうことだろ?

 リンは昔から、いつも言いたいこと言わないし。

 俺は察しが良くないから、気づかなくてみんなに怒られるし……。

 うーん……リンの前で男らしい姿……あっ。


「もしかして……リンもお姫様抱っこして欲しかった?」


「ひゃい!? そ、そ、そんなことないです! あり得ないです! 私はカッコいい女性を目指してるんですから!」


「そ、そうだよね! ごめんなさい!」


 はわわ……怒られちゃった。

 耳真っ赤だし……とほほ、本当に女性ってわからないや。


「うぅー……どうして私は……こう……」


「ごめんってば。リン相手だと気が緩んじゃうんだよね」


「……シルク様が相手だったら、そうしたんですか? その、カッコつけるために」


「ん? ……そうかも。まあ、俺はリンの前では気を張らなくて良いからね。安心というか……うーん、何だろ? 安らげる?」


 シルクの前で偽ってるとかではないけど、少しカッコつけたいのも事実だよね。

 リンの前では、リラックスというか……そんな感じかなぁ。


「……ふふ、そうですか……そうなんですね」


「うん? 何で笑ってるの?」


「いえ、何でもないですよ。ほら、さっさとやってしまいましょう」


 そう言い、ご機嫌に寸胴を持ち上げる。


 ……ほんと、女子ってわからない。






 ザルでこしたスープを、リンが炒めていた鍋に入れていく。


 違う鍋にも、同じように入れていく。


「このあとはどうするので?」


「あとは、少し煮込んで……」


 クルルーと可愛らしい音が鳴る。


「ハハ……もう少し待ってね」


「な、何のことですか?」


「いえいえ、何でもないですよー」


 まあ、人のことは言えないしね。




 そのまま、煮込んでいたら……。


「マルス様〜!」


「おや、シルク。どうしたの?」


「ライル様が、待ちきれんと……」


「ありゃりゃ……じゃあ、さっさと仕上げちゃいますか」


「お手伝いいたしますわ」


「じゃあ、シルクと作ったホワイトソース……下ネタじゃないからね!?」


「「はい??」」


「な、何でもないよ!」


 しまったァァァ!……俺の中のおっさんが顔を出してしまいました。

 ほっ……二人がそういう知識がなくて助かったぁ〜。




 ホワイトソースに馬の乳を足して……最後に、青物野菜を加える。


「メインのウサギ肉に、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、ほうれん草か……うん、上等だね。これなら栄養も豊富だし」


 確かウサギ肉はビタミン類が多く入ってるって聞いたことある。

 タンパク質も豊富だとか。


「わぁ……良い香りがしますわ」


「ええ……ゴクリ」


「だねぇ……お腹減った」


 三人で顔を見合わせて、すぐに行動を開始する。





 レオやベアに手伝ってもらい、鍋を運んでもらう。


 そして、マックスさんが人々を集めてくれた広場に向かう。


「マックスさーん!」


「おおっ! マルス様! お待ちしてましたぞ!」


「ごめんね。じゃあ、配るからよろしくね」


「はっ! 皆の者! マルス様が特性スープをお作りになった! 全員分あるので、慌てずに並ぶのだ!」


『ウオオオオオオ!』


 声が重なり、地響きがした気がする。


 どうやら、みんなも限界だったみたいです。


「俺が一番だぜ!」


「……兄さん」


「い、良いじゃねえか! 俺が仕留めたんだぜ!」


「はいはい、わかりましたよー」


「その、あれだ……セシリアさんの分もな」


「ああ、そういうことね」


 二人分よそうと、セシリアさんところに向かっていく。


「これ、俺が仕留めたんです!」


「ふふ、わかってるさ。実物を見ているのだから」


「そ、それもそうっすね!」


 ウンウン、この視察が良い方向に向かうきっかけになると良いね。





 次々と住民に配り……。


「マルスゥ! うめえぞ!」


「うむ……このようなスープ?いや、何だ? 初めて食べる……美味しい」


「ボス! 美味いっす! 肉が弾力あって俺好みっす!」


「だな。スープのようだが、具材の量が多く、我ら獣人族にとっても食べ応えがある」


 他の人たち見ると、皆が夢中で食べている。


 やっぱり、これ系にして正解だったね。





 そして……。


「よ、ようやく食べられる……」


「そ、そうですね……」


「お、お腹すきましたわ……」


 三人でテーブルに座り……シチューを口に入れる。


「……うまっ……」


「美味しぃ……」


「はわぁ……温まりますわ」


「そうだね、体の芯から温まる感じするね」


「栄養もありますしね」


「これ、私好きですの」


「なら良かった。パンとかにつけると良いよ」


「はっ……素敵ですわ!」


 その後は、パンをつけつつ、食べ進める。


 うん、美味い……作って大正解だ。


 とろとろになった野菜類と、時折主張する肉の存在感。


 何より、この寒空の下で食べるシチュー系は最高のシチュエーションだよね!


 シチューだけにね……さむっ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る