128話 テンプレ?

 その後、着替えだけを済ませて……。


「はいっ! 宴の準備をします!」


「おっしゃァァァ!」


「腹減ったっす!」


「うむ!」


 俺の声に、男子達が元気よく反応する。

 そりゃ、朝から動いてたからね!


「全く、男どもは……」


「まだ、お風呂にも入ってませんの」


「まあ、仕方ないですよ。みんな、お腹空いてますからね」


 女子達は、そんなことを言っているが……俺にはバレバレである!

 特に——尻尾が生えている女の子とか。


「フフフ、そんなことを言って良いのかな? リン——先程から、尻尾がユラユラしてるけど?」


「はっ!? し、してませんよ!」


 今更尻尾を止めても、もう遅い。

 リンは食いしん坊さんだからね!


「セシリアさんも、お腹減ってますよね?」


「な、なんのことだ?」


「聞いてますよ。ライル兄さんが心配で、昼ご飯ほとんど食べてないんですよね?」


 さっき、護衛をしていたマックスさんが言ってたし。

 それに、ずっとそわそわしてたって。


「そ、そうなんすか!?」


「くっ……べ、別に、ライル殿だけではなくて……待つことには慣れていないんだ」


「ふふ、わかりますわ。私も待っていたら、気が気じゃなかったでしょうし」


 そして、もう一人も……食いしん坊さんなのを知ってます。


「シルクさんや?」


「な、何ですの?」


「口の端から、よだれが出てるよ?」


「ふえっ!? お腹減ってるとはいえ、そんなはずは……」


「うん、出てないよ」


「……マルス様?」


 その目は……笑っていなかった。

 気がつけば、俺は腰を九十度に曲げていた。


「ごめんなさいぃぃ!」


「も、もう!」


 そのまま、俺に近づいてくる気配がする。

 そして、叩かれるのを覚悟した次の瞬間——キュルルーという、可愛らしい音が鳴る。


「はうっ!?」


「ほ、ほら! お腹空いてるじゃんか!」


「っ〜!! マルス様のバカァァァ!」


「ギャフン!?」


 結局ぶっ叩かれる羽目に……とほほ。





 さて、何とかシルクのご機嫌をとって……。


「じゃあ、作っていこうか」


「主人、解体は済んでいる」


「ありがとう、ベア。えっと、これの元になるホーンラビットはどうやって食べてるの?」


「基本的に、その場で丸焼きです。というより、そこまで食べる部位もないですし」


「あとは、そもそも出回ることが少ないですわ。逃げますし、食物連鎖の下の方ですから」


「なるほどね」


 確かに前の世界でも、うさぎは身が少なかったっけ。

 見た目の可愛らしさと、割りに合わないから日本ではほとんど売られてなかったし。

 あとは、他の生き物の餌になるから食べる機会が少ないってことか。


「マルス、お前のことだ……何か、美味い当てがあるんだろ?」


「まあね! シロもいないし、俺が作らないとね」


 兄さんとベアには、薪を用意するのを頼み……。


 レオとマックスさんには、住民の整備をしてもらう。


「じゃあ、作ろうかな。リン、手伝ってくれるかい?」


「ええ、もちろん。ふふ、料理するのも久々ですね」


 確かに、シロが来てからリンが料理する機会は減ったかも。

 前は、俺に作ってくれてたけどね。


「では、私も手伝うとしよう。私は何をすれば良い?」


「そうですね、では野菜を切ってくれますか?」


「承知した」


「わ、私もやりますの!」


 シルクが、フンスフンスと気合を入れている……可愛いなぁ。

 危ないけど、今はセシリアさんいるし。


「じゃあ、セシリアさん、シルクを任せます」


「うむ、任された」


 ウンウン、見るからに出来そうなセシリアさんに任せておけば安心だね。

 シルクは、野菜なんか切ったことないだろうし。

 でも年上で、しっかりしたセシリアさんが付いてるなら平気でしょ。









 その後、自分の作業をしていると……。


「こうですの?」


「違う——こうだ」


「こうですの!」


「そうだ」


 はい——フラグ発生ィィ——!!

 ズドン!という、およそ物を切るとは思えない音がしたんですけど!?


「ちょっと!?」


「どうした?」


「どうしたんですの?」


 包丁を握ったまま、二人が首を傾げている。

 その下には……見るも無残な姿の野菜たちがいた。

あらやだ! スプラッタだわ!


「せ、セシリアさん? つかぬ事をお伺いしますけど……料理の経験は?」


「あるわけがなかろう。私は、これでも第一王女だぞ?」


「それで何で自信満々だったの!?」


「いや……何となく、できるかなと思ってな」


「はい?」


 あれ? この人だけはまともだと思っていたのに……。

 いや、まともであれば……俺たちと付き合えないか。


「ま、マルス様」


「うん? どうしたの?」


 シルクが、俺の服の端を掴んでくる。


「平気ですわ! 私だって一人でも出来ますの!」


「その自信は何処から!?」


「だって……私だって……むぅ……」


 シルクが、口を膨らませて……何やらもがもが言っている。


「はいはい、仕方ありませんね。私がセシリアさんを補佐しますから。幸い、野菜たちも形が悪いだけですから」


「す、すまぬ……私も、少し覚えたいと思っただけなんだ」


「わ、私も……」


「……じゃあ、覚えながらやっていきましょう」


 中々骨が折れそうだけど、仕方がないよね。


 セシリアさんは、兄さんに食べさせたいんだろうし……。


 いくら、俺が鈍くても……シルクが、何の為に覚えたいかくらいはわかるから。

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