127話 尻に敷かれる兄弟?

無事に街に到着する頃には、すっかり日が落ちていた。


馬車を降り、ここからは徒歩で帰宅する。


「お、お腹すいたぁぁ〜!!」


「腹減ったぜぇぇ!!」


「ふふ、お昼も少ししか食べてませんもの」


「そうですね。それに、動きましたから」


「オレは、特に何もしてないっすから平気ですぜ」


「俺もだな。今回は見ていただけだ」


「じゃあ、二人とも先に行って伝えてきてくれる?」


「うむ、任されよう」


「へいっ」


二人を送り出し、俺たちもゆっくりと街を歩いていく。


「そういえば、ライル様の傷は良かったのですか?」


「「「あっ——」」」


リンの一言に、三人が固まる。


「わ、忘れてましたわ! すぐに治しますの!」


「いや、もういいぜ。すでに塞がってきたし、ここはもう安全だ。何より、お前のそれは有限だ」


「そうですけど……」


「なら……セシリアさんに手当てしてもらったら?」


少し姑息だけど、とにかく二人の時間を作らないことには仲良くなれないし。

相性が良いか悪いかも、付き合っていかないと判断できないしね。


「なに? ……なるほど、それはいい考えだ」


「まあ! 素敵ですわ!」


「じゃあ、俺とシルクから言おうね。兄さんが言ったんじゃ、なんかやらしいし」


「はい、そうですわね」


「おおっ! 俺は良い弟と妹を持ったな!」


「もう! 気が早いですわよ!」


「イタイ!? なんで叩くの!?」


何故、今……背中を叩かれたのだろう?

そして、なんで顔が赤いのかな?


「い、言わせないでください!」


「はぁ……前途多難ですね」


「リン、シルク……アホな弟が苦労をかける。すまん、兄として謝るぜ」


「いえ、良いんですの」


「ええ、わかってますから」


「うぬぬ……げせぬ」


仲間外れ感が半端ない、マルス君なのでした。





無事に男爵の館に到着すると……。


「か、帰ったか」


セシリアさんが、玄関の入り口にいて……何故か、もじもじしている。

その後ろには、ベアとレオがいて……俺たちに目配せをする。


「二人とも、どうしたんだろ? おー——はれ?」


「はい、行きますわよ」


「ええ、行きましょう」


「あ、あの? リン? シルク?」


両腕にシルクとリンの腕が絡み……何故か引き攣られています!


うん、よくわからないけど……とっても素晴らしい感触なのは間違いないね!





そのまま、ベアとレオのところに到着する。


「ナイス判断っす、姉御」


「うむ、シルク嬢もな」


「なになに? ドユコト?」


「さっき言ってましたよね? 怪我を手当てさせるとか」


「うん、言ったね」


「その延長線上のお話ですわ。というか、私達が言うまでもなかったようですね」


俺は後ろを振り返り……納得する。


そこには、あちこち怪我をしている兄さんを心配している女性がいた。


「へ、平気なのか!? 怪我してるじゃないか!」


「へ、平気っすよ! 俺、頑丈なんで!」


元気さをアピールするために、兄さんがマッスルポーズをとる。

すると、当然ながら……そうなりますよねー。


「馬鹿者! 力を入れるな! 血が出るだろう!」


「す、すみません!」


「ま、全く……仕方のない殿方だ。しかも、泥だらけじゃないか。ほら、こっちに来てくれ」


「えっと……?」


「動かないでくれ——清涼なる水よ」


セシリアさんの手から水が流れ、兄さんの身体を洗い流していく。


「ひとまず、これで良いだろう。癒しの力とまではいかないが、多少の効力はあるはずだ。あとは、傷口を塞がないといけないか」


「も、もういいっすよ!」


「何を言っている? さあ、こっちに来るといい」


「は、はい!」


セシリアさんに手を引かれ、兄さんが連れて行かれた。

ふむふむ、年上のお姉さんには逆らえませんよねー。


「ありゃりゃ、こりゃ尻に敷かれそうだね〜」


「主人よ、それはブーメランというやつでは?」


「全くだぜ。後ろの二人を見てくだせい」


「えっ?」


俺が振り返りると、二人できゃっきゃと話していた二人が……。


「「マルス様?」」


同じように、首を傾げていた。


……うん! 逆らえる気がしないね!


どうやら、兄弟揃って尻に敷かれるタイプのようです。


……ロイス兄さんは、どんな感じなんだろう?


まだ婚約者の方に会ったことないし……楽しみな気もするし、怖い気もするけど。

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