126話 成人したので

 ……やったかな?


 流石に、首を落としたから平気だと思うけど……。


「ふぅ……どうやら、仕留めたようですね」


「おう、そうだな」


「ほっ、良かった」


 魔獣の中には首がなくても、少しの間しぶとく生きる奴もいる。

 だから最後まで油断しちゃいけないってライラ姉さんが言ってたっけ。


「マルス様〜!!」


「ボスッ!」


「主人よ!」


 後ろから、三人の声が聞こえる。


「みんな、平気——へっ?」


「無事で良かった……」


「あ、あのぅ? シルクさん?」


 何やら……思いきり抱きつかれてるんですけど!?

 いい匂いするし……めちゃくちゃ柔らかいんですけど!?


「グスッ……」


「あ、あの……血がついちゃうけど……」


「そ、そうでしたわ! ごめんなさい! えっと……かの者の傷を癒したまえ」


 シルクから、ポワッと暖かいモノが流れてくる。

 なるほど、これが癒しの力なんだ。

 そういえば、俺ってばシルクの前で怪我とかしたことなかったし。


「わぁ……気持ちいいね」


「痛くないですか?」


「うん、平気だよ。ありがとう、シルク」


「い、いえ……お役に立てましたわ」


「おい、甘い空気のところ悪いんだが……俺も頼んでいいか?」


「ふえっ!? ふ、普通ですの!」


「へいへい、そうだな。お前らは、いつだって甘い空気だな」


「ち、違いますわよぉ〜!!」


「シルク!?」


「 リン! シルクを追え!」


「はいはい、仕方ありませんね」


 顔を真っ赤にして走り去るシルクを、リンが追いかける。


「ベア、倒した魔獣を担いでくれる? レオは、辺りの警戒をお願い」


「へい!」


「うむ、任せろ」


 二人が去った後……心を落ち着かせる。


「……ふぅ……」


 あ、アブナイアブナイ……あれ? 今までもあったけど、どうして今なんだろう?

 なんというか……息子がアレです……はい、今はかがめません。


「クク……お前もきちんと男だったんだな? まあ、そういう年頃か」


「むぅ……恥ずかしいですね」


「ははっ! 気にすんな! おそらく、血も出たし戦闘して興奮したんだろ」


「生存本能的なことですか」


「大丈夫だ、リンもシルクも気づいてないぜ。あいつらは初心だしな」


「なるほど、それでリンを遠ざけたと……ありがとうございます。まあ、二人共経験ないですし。もちろん、俺もですけど」


「あぁー……そういや、お前は成人した瞬間に王都から出て行ったんだな」


「そうですけど……」


「いや、普通は……王族のというか、ある程度の地位にある貴族の男子が成人したら、手ほどきを受けるんだよ——専用の女性からな」


「……はい?」


「そういや、お前はそういうのに興味なさそうだったから、後回しにされてたな。というか、ライラ姉貴が意図的に止めてたな……マルスには早いとかなんとか。まったく、姉貴にも困ったんもんだぜ。その時になって困るのはマルスだってのに」


「そ、そうなんですか?」


「ああ、いざって時に失敗しないようにな。それこそ、女性に恥をかかせてしまうだろ? あとは、俺たちは子孫を残すことが重要だからな。最初の失敗で、それ以降出来なくなる奴もいるらしいし」


「なるほど……一理ありますね」


 この世界では、もちろん映像や録画機能なんかない。

 本で説明するにも限界があるし……実践で教えるってことか。

 前の世界でも、最初に失敗した人はトラウマになるとか聞いたことあるし。

 ……まあ、俺はトラウマ以前に経験がないけど。

 あぁ……我ながら、虚しい前世だったなぁ。


「コホン……それで、その専用の女性というのは?」


「まあ、身元がしっかりした若い未亡人が多いな。子供がいて、旦那がいない場合だが。黙っていることと、その相手をする代わりに謝礼金をたんまり用意する形だ。無論、それを口外したら——まあ、言うまでもないか」


「なるほど……そうすればお互いに利害が一致しますね」


「そういうことだ。お前は……どうすんだろうな? シルクやリンは経験があるわけないし」


「あったら、俺は女性不信になりますよ!」


「ははっ! 違いねぇ!」


「笑い事じゃありませんよ! ……あれ? ということは、ライル兄さんやロイス兄さんも?」


「ああ、もちろんだ。ちょうど、お前くらいの時だな。おっと、相手は聞くなよ? それを知って良いのは一握りの人間だ」


「うん、わかってるよ。どっかで漏れたら大変だからね」


 親戚によっては、それを材料に強請ってくるかもしれないし。

 その親はともかく、育った子供が将来的に何か言ってくるかもしれないし。


「そういうことだ。まあ、今度王都に帰るんだ。その時に、兄貴にでも聞いておけよ」


「うーん……わかった」


 すると、ズシンと足音が聞こえてくる。


「主人殿、ライル殿、持ってきたぞ」


 振り返ると、ベアがホーンラビットを担いでいた。


「へ、平気? 重くない?」


「平気だ。だが、戦闘は出来んな」


「はっ、俺に護衛はいらないだろう?」


「ふっ、確かに」


「うし! マルス! 帰るぞ!」


「うん!」




 その後、戻ってきたシルクやリンと共に来た道を戻っていく。


「マルス様? どうなさったのですか?」


「マルス様、ぼけっとしてたら危ないですよ?」


「う、うん……気をつけるよ」


「「……変なマルス様」」


 うぅ……あんな話聞いたから変に意識しちゃうじゃんか。


二人の顔がまともに見れない!


 俺は童貞か! ……そうですけど何か?


前世も含めると、結構長生きしてるのに情けないや……とほほ。

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