123話 編成とお見送り

 そして夜が明けて……。


 朝食を済ませた俺たちは、広間にて集まっていた。


「さて、朝ご飯も食べたし……作戦会議といきますか」


「ええ、そうですわね。では、私が話を進めますわ」


「うん、シルクにお願いするよ。相変わらず頼りになるよね〜」


「えへへ……コホン! えっと、まずは……誰が向かうかってことですわ。敵の正体がわからない以上、万全の状態で向かうべきですから」


 シルクの言う通りだ。

 黒い魔獣って話だけど……それだけじゃなんとも言えないよね。


「俺は参加するぜ」


「えっ? し、しかし、ライル様は……」


「シルク、俺からもお願い。兄さんを参加させてあげて」


「マルス、ありがとよ」


「マルス様……どうやら、話し合って決めたことみたいですわね。では——私も参りますわ」


 その言葉に……みんなが固まる。


「……えっ!? あ、危ないよ!?」


「ですが、王族お二人がゆくのです。最悪、私がいれば癒すことは可能です。万が一のことがあれば、私は国王陛下やライラ様に顔向けができませんわ。何より、王家を守る一族として看過できません」


 その言葉と瞳には力がこもっていた。

 ……シルクの立場からしたら、それも当然か。

 忘れちゃいけないけど、彼女の家は王家を守る筆頭貴族なのだから。


「ちっ……そうなるとダメか。ゼノスの妹であり、俺たちの妹分でもあるお前を危険にさらすわけにはいかないか」


「いえ、問題ありません。リンはマルス様とライル様を……レオさん、ベアさん……私を守ってくださいますか?」


「へっ? そ、そりゃ……」


「か、構わんが……」


 ん? どうして二人は戸惑ってるんだろう?

 今までだって、護衛したりしてたのに……。


「マルス様、お気づきですか?」


「リン?」


「シルク様が……


「……なるほど、確かに」


 今までは、事前に俺が頼んでいたっけ。

 もちろん、それまでシルクが二人を信頼してなったわけじゃないし……。

 それで何が変わるわけじゃないけど……二人からしたら嬉しいよね。


「では、よろしくお願いいたしますわ」


「「おうっ!!」」


 頭を下げたシルクに、二人が威勢良く応える。


「では、私は待っていよう。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないからな」


「では、私も残りましょう。客人であるセシリア様をお一人にするわけにはいきませんから」


「マックス殿、よろしく頼む」


 ウンウン、セシリアさんに何かあったら、セレナーデ国と交流どころじゃないもんね。


 すると……それまで端っこで黙っていたトラスト男爵が、前に出てくる。


「なんと……獣人に命を預ける侯爵令嬢様が……そして、王家に忠誠を誓うセルリア侯爵家……まだ御健在だったのですね」


「はい、我がセルリア侯爵家は変わっておりませんわ。そして、我が領地にも獣人はおります。いずれ、変わっていくでしょう」


「そうですか……そうなのですね……」


 そして、何やら考え込んでしまった。


 彼は彼で、複雑な胸中なのかもね。


 でもシルクのおかげで、少しは希望が持てたのかな?


 あとは、俺たちが王族として……民のために動くところを見せないとね!




 その後、準備を済ませ……。


 街の入り口にて、見送られる。


「では、行ってくる」


「お、お気をつけて」


「大丈夫だ、男爵。何かあっても、あなたが責任になるようなことにはない。何より、ここにいるのは最強の前衛と、最強の中衛、最強の後衛だ」


 兄さんは自分とリン、そして俺を指差す。


「俺たちで勝てない奴なら、誰でも勝てないってくらいの布陣だぜ。なっ、リン、マルス?」


「ええ、そうですね」


「仕方ないなぁ……頑張るとしますか」


「ああ、頼りにしてるぜ。何より、聖女もいるしな?」


「もう! ライル様!」


「ははっ! すまんすまん! ……シルク嬢、改めて感謝する。よくぞ、俺のわがままに付き合ってくれたな」


「いえ……実は、お兄様から言われてましたの。もしライル様がわがままを申したら、それに応えてやってほしいと。そして、それはバラン殿も承知していると。ただ、俺たちがいるとあいつは遠慮するからって……」


 おお……男と男の熱い友情だ……いいなぁ。


「あいつら……俺は馬鹿だな、あいつらのそんな気も知らずに……」


「ふふ。なので、私に礼を言う必要はありませんわ」


「いや、それは黙っていてもいい話だ……シルク嬢、お前になら可愛い弟を任せられるな」


「……ふえっ!? そ、それは、どういう……」


「ははっ! なぁに気にすんな! さて……いい気分だ! マルス!」


「うん? どうしたの?」


 兄さんは、俺と肩を組み……。


「今更だが、シルク嬢は良い女だな?」


「それは間違いないね。兄さんにも、早く春が来ると良いね?」


「へっ、生意気な弟だ」


「ほら、挨拶したら? こっち見てるよ?」


「お、おう……」


 すると、セシリアさんが近づいてくる。


「ライル殿」


「は、はい!」


「武運を祈っている。まあ、その……無事に帰ってくるといい……まいった……待つということに慣れていないものでな」


 おお……! 凛々しい人の照れる姿はいいね!


「必ず帰ってきます! マルスゥゥ!! いくゾォォ——!!」


「わわっ!? 待って! 引っ張らないでぇぇ——!!」


 俺は兄さんに引きずられ、街の外に連れ出される!


 ドナドナされるマルス君なのでしたとさ。

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