120話 男爵の街にて

 男爵さんの案内ついでに、街の様子を眺めてみると……。


「随分と……うん」


「まあ、仕方あるまい。男爵が治めるとはいえ、辺境のさらに端っこだ」


 建物なんかもボロいし、活気がない感じだ。


「でも……なんか、住民達の関係は悪くなさそう」


「うん? ……それもそうだな」


「リン、どう思う?」


「……そうですね、獣人達も特別虐げられてるわけではなさそうです」


「ふんふん、リンが言うなら確かだね……おや?」


 子供達が、トラスト男爵に近づいてくる。


「トラストさん! こんばんは!」

「ええ、こんばんは。ダメじゃないですか、きちんと下がってないと……」

「トラスト男爵、気にしなくて良い」

「そうですよ、子供は元気が一番ですから」

「……そうですか」


 兄さんの言葉によって、トラスト男爵が子供達と向き合う。


「ねえねえ!この人たちは誰!?」

「こら、いけませんよ。この方達は、とっても偉い方なのですから」

「どれくらい偉いの!?」

「私なんかより、もっと偉い方々ですよ」

「すげぇー!」


 うん……人当たりが良く、住民に好かれてるみたいだ。

 これが演技だったら大したものだよね。





 そして、貴族の屋敷とは思えない建物に到着する。


 二階建てではあるけど、ところどころが薄汚れている感じだ。


「すみません、大したおもてなしもできませんが……」


「いや、気にしなくて良い。屋根があるだけ助かる」


「そうですよ」


「それと……獣人の方々や、兵士の皆さんはどうなさるので?」


「うん? ああ、こんなに人数は入れないよね」


「はい。それに、こんな場所なので空いてる家もそんなになく……」


 俺は辺りを見回して……空き地があるのを見つけた。


「あの辺りのスペースって使っても良いですか?」


「え、ええ、構いませんが……」


「じゃあ、ちょっと行ってきます」


 さて……ささっとやりますか!


アースシェルター土のかまくら!」


 イメージを持って、地面に両手を置き——魔法を発動させる!

 すると……目の前には文字通り、大きな土のかまくらが出来上がっていた。

 これなら四人くらいは入れるかな。


「おおっ! こ、これが……噂の……本当だったのですね」


「ふふん、すごいでしょ?」


「ええ! まさか、これほどの魔法の使い手とは……」


「じゃあ、もう一個作るね。全員分用意しないと……あと、地面も柔らかくして過ごしやすいように……椅子なんかも必要か」


 もう一つ作り、地面に柔らかい土の床を敷き、個別で椅子を作る。


「ふぅ……これでよし! 大分上手くなったね」


 これも、姉さんとの鍛錬のおかげだ。

 イメージしたものが、そのまま形になってきた。


「さて、これで良いかな?」


「は、はいっ! ……マックス殿の言う通りでしたか」


「ん? どういうこと?」


 すると、マックスさんが前に出てくる。


「申した通りでしょう? マルス様は」


「ええ。先程から、お連れの獣人達との接し方を見ていましたが……とても自然体でした。平民にも優しく接していましたし、兵士の方にもこうして配慮をしております」


「えっと……マックスさん?」


「どういうことだ?」


「申し訳ございません! マルス様が平民や獣人に差別をしない方だとお伝えしたのですが……」


「なるほど、信じられなかったんだね。マックスさん、謝ることないよ」


「ふん……まあ、試されのは気に食わんが」


「マックス殿を責めないでくださいませ! わたしが悪いのです……見捨てられた地に長くいるもので」


「大丈夫ですよ、マックスさんを罰することはしませんから」


「ああ、むしろ……王族たる我々が謝るべきだな、すまなく思う。王都にいる兄上に代わり、謝罪する。そして、安心して良い……この地は、こいつによって生まれ変わる」


 そう言い、俺の方に手を置く……えっ!?


「お、俺ぇ!?」


「そりゃ、お前しかいないだろ。この地の領主はお前だ」


「そうですけど……まあ、頑張りますよ」


 はぁ……いつになったらのんびりできるやら。

 スローライフさん、もう俺のことはお忘れですか?

 お願いだから——もう少し待って!


「もし、それが叶うなら……長年の苦労が報われます」


「とりあえず、中に入ってからにしようぜ」


「し、失礼いたしました。では、こちらどうぞ」





 建物の中は意外と綺麗になっていて、普通の木造住宅の家みたいだ。


「では、女性は二階をお使いください」


「わかりましたわ。リン、行きましょう」


「はい、シルク様。セシリアさんも参りましょう」


「ああ、そうさせてもらおう」


 リンがいるなら、シルクとセシリアさんは安心だね。


 俺とベア、レオと兄さんは一階の部屋に通される。


 ちなみにマックスさんは、外で兵士達をまとめてくれるそうだ。


「……あのような貴族もいるのだな。そして、人族も……」


「ベア……」


 それまでずっと黙っていたベアが、ようやく口を開けた。


「元々獣人と助け合う人族、差別しない貴族……主人だけが特別じゃなかった。どうやら、俺の目が曇っていたようだ」


「でしょ? 俺なんか、大したことないよ」


「いや、それでも……俺を変えてくれたのは、間違いなく主人だ。改めて、感謝する」


「そ、そう……照れるね」


「クク……我が主人らしい」


 ベアの顔は、なんだかスッキリした様子だ。


 これで恨みが消えたなんて簡単には言えないけど……。


 ベアの気持ちも、少しは楽になったかな?

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