119話 道中にて

 その後、他の村々を同じように回り……。


 話を素直に受け入れる所、そうでない所……。


 獣人の扱いが異なっているところなどはあったが……。


わずかながら食料を配ることもでき、おおむね良好である。


 ただ、一つを除いては。














 そう……俺の身体は限界を迎えていた。


「ちゅ、ちゅかれたァァァ! もう帰るぅぅ……!」


「がははっ! 何やってんだ!?」


 汚れるのも構わず、地面を転げ回る!

 真面目な顔をしてるのが、こんなに疲れるなんて!

 みんなから頭を下げられるのが、こんなにしんどいなんて!

 ロイス兄さん! 超偉い! 俺には無理!


「マ、マルス様!?」


「た、大変ですわ! マルス様がご乱心ですわ!」


「何回も同じ話をするのやだァァァ! みんなが崇めるみたいに見てくるのが嫌ァァァ!」


 単純に、疲れたっていうのもある!

 ただ、こっちとしては、申し訳ない気持ちで伝えてるのに……。

 みんな頭下げてくるし! 下手すると土下座しそうだし!


「ま、まあ、落ち着いて」


「マルス様、何がそんなに嫌ですの?」


「自分が偉くなったと勘違いしそうで嫌っ!」


「「はぁ……」」


「あの……マルス様は第三王子ですからね?」


「一応、我が国で最も偉い一族ですわ」


「わかってるけど!」


 俺ってば穀潰しだし! 前世の記憶が蘇った今、中身は庶民的なおっさんだし!

 バーバラでは、割と早い段階で扱いが雑になったし……あれ? それはそれでどうなの?


「いや、なんとなくだが……マルス殿の気持ちはわかる気がする」


「あれ? 意外なところから援護射撃が……」


 セシリアさんが、しみじみと頷いている。

 やだっ! 宝塚みたいで超イケメン! ……ダメだ! 精神が異常だ!


「ど、どういうことですか?」


 ライル兄さんが、めっちゃ不安な顔してる。

 大丈夫だよ、ライル兄さん、そういうアレじゃないから。


「いや、私も自国では畏れてな……対等な存在というのがいなかった。しかし、ここにきてからというもの、みんなが普通に接してくれる。それが、まさかこんなに心地いいとは思わなんだ。ただ、少しむず痒いというか……」


「そう! そんな感じです! ただ——真逆です……自慢じゃないですけど、俺は畏れることに慣れてないんです!」


「全くだ」

「全くですわ」

「全くですね」


 セシリアさんを除く三人から、呆れた視線を感じる。


「ひどい!? ぅぅ……」


「ま、まあ! いいではないか! 私も疲れてるし! というか、なぜ私がフォローに?」


「「「「ごめんなさい」」」」


 その時、四人の声が重なった。


 同時に、心も一致した……この人に迷惑をかけてはいけないと。


「そ、それじゃ……マックス殿!」


「はっ! シルク様!」


 それまで見守っていたマックスさんが駆け寄ってくる。

 ただ……笑いをこらえてるのはバレてるからね?

 頬がヒクヒクしてますからね?


「予定では貴族が治める小さい街での宿泊ですが、場所はわかりますの?」


「はい、この近くにトラスト男爵が治める町があります。私は以前、マルス様のことを知らせに参ったことがございます」


「では、そこに先ぶれを出してください。予定より少し早いですが、領主御一行がそちらに向かうと」


「はっ! 畏まりました!」






 その後、再び馬車に乗り……日が暮れる頃に町に到着する。


「こ、これはマルス様、ライル様。このような辺境の町に、ようこそいらっしゃっいました」


 町の入り口で出迎えてくれたのは、如何にもな小役人って感じの人だ。

 細っこいし、冷や汗をかいてヘコヘコしてる……悪いことしたなぁ。

 随分と気を遣わせちゃった。


「気にしなくていい。悪いが、今日はここで泊まらせてもらう」


「は、はい! ご案内いたします!」


 ……おぉ〜、兄さん格好いい。

 堂々としてて、まさしく王族って感じだ。

 うんうん、付いてきてもらって良かった。

 俺だけじゃ威厳も何もあったもんじゃない。


「ん? どうした、マルス?」


「兄さん、カッコいい!」


「な、なんだ? 急に……照れるぜ」


 そういうと、頭をぽりぽりとかいている。

 さて……援護射撃てもしてみるかな。

 後ろにいるセシリアに向かって……。


「ねっ! セシリアさん!」


「へっ? ああ、素敵な殿方だな」


「具体的にはどの辺ですかね?」


「そうだな……まず、偉そうにしない」


「ふんふん」


「それでいて堂々としている。豪快で話しやすいところもあり、兵士などにも好かれてるな。もちろん、私も話しやすくて助かる。あまりかしこまった感じは苦手なのでな」


「なるほど……案外、兄さんならセレナーデ王国でもやっていけそうですね」


「へっ? ……い、いや、それは、そのだな……うん」


 チラリと兄上の横顔を見ると……明らかに、にやけるのを我慢していた。

 兄さん! 頑張って! ここでニヤけちゃダメだよ!


「……どうもです」


 よし! こらえた! えらい!


 でもほんと……兄さんなら、あっちでも上手くやれそうだよね。




 その後、俺と兄さんが先頭で歩き出すと……急に、肩を組まれる。


「……マルス」


「どうしたの?」


「……ナイスだ」


「へへん! 俺は兄さんを応援してるからね」


「生意気な……だが、俺はいい弟を持ったな」


 ……そんなの、こっちの台詞だよ。


 でも、恥ずかして言えないマルス君なのでした。




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