118話 訪問
……その後、少し待つと……。
「ご、ごめんなさい……」
「ううん、気にしないで。シルクが優しい子だってことだから」
「そうですよ、シルク様」
「あ、ありがとうございます……私も少し感情的になってしまいましたわ。ところでマルス様、今の流れで理解できましたか?」
「えっと……」
よし、まずは流れを整理してみよう。
昔、辺境はボルドー家が代々治めていた→でも大量の魔物出現により徐々に衰退する→するとセレナーデ王国との交易も徐々になくなる→さらにセレナーデ王国は我が国に侵略する意味はないが、帝国には意味がある→だから、帝国との戦争のために結果的に西側を放置することになったと……。
「こんな感じ?」
「ええ、大体合ってますわ」
「でも、そもそもの衰退の理由って……奴隷制度だよね?」
「ええ……今ならわかりますわ」
「多分、昔は獣人達と人族は協力し合っていて……でも、いつからか差別化されて……人族が獣人を奴隷として扱うようになった」
「はい、そうですわね」
「その結果、労働力を確保は出来たから一時的には良くなったんだと思う……あくまでも人族にとってね。リン、ごめんね。あんまり楽しくない話だけど」
「いいえ、平気です。お二人が、その流れを変えたいと思っていることを、誰よりも知っていますから」
「うん、もちろん」
「もちろんですわ!」
「でも、長い年月が経つと……歪みが出てきた。獣人達と人族とで協力し合ってたから、魔物の数を減らすことが出来ていた。でも、そうじゃ無くなった。虐げられた獣人は弱くなり、人族も戦う機会が減り弱くなったのかも」
「そして、一度そうなってしまうと……元に戻すのは難しいですわ。いつしか、奴隷を使うことが前提とした生活になっていたそうですし」
「そうだよね。人のこと言えないけど……一度楽を覚えると、中々抜け出せないよね」
「ふふ……それに気づけただけ偉いですわ。個人的には、何より……奴隷という隠れ蓑を使って、民を虐げる貴族が許せませんわ」
「あれだよね? 自分より下を作って……民達は、奴隷よりはマシって思わせるってことだよね?」
「はい、その通りですわ」
「そもそも、魔法の首輪を作ったから……誰が作ったんだろうね?」
「それは……わかりませんわ。もう、何百年も前のことですから」
「そっかぁ……おっと、暗くなっちゃったね。とりあえず、やめにしようか?」
「そうですわね……ごめんなさい、私のせいですわ」
「ううん、整理できたし良かったよ。それに、真面目な話じゃないと……俺、寝ちゃいそうだし」
「ふふ……マルス様ったら」
「ですが、その通りですね」
再び笑顔になったシルクを見ながら、馬車は進んでいく。
そして、道中の村々に挨拶をする。
挨拶のついでに、一番大事な仕事を任された。
「というわけで、みんなには悪いんだけど……住むところを変えてもらっていいかな?」
人がバラバラになった結果、今は小さい村がいっぱいある状態だ。
これでは人口の数も測り辛いし、護衛や統治するのも一苦労だ。
だから、街道を整備したあかつきには、そっちに街を作る予定になってる。
彼らには、そこに住んでもらおうというわけだ。
「す、住むところをですか……」
代表して、村長のお爺さんが答える。
「はい、やっぱり困りますかね? 何か疑問があれば、お答えしますよ」
すると、周りの顔色を伺う……そりゃ、怖いよね。
いきなり王族が二人もいて、兵士もいるし。
「大丈夫ですよ。何を言っても」
「その、あの……私達の生活はどうなるのでしょうか? か、過酷な労働を課せられたり……」
「そういうことはしませんよ。もちろん、普通に働いてはもらいますけど。そうですね……最終的には、朝起きて家族とご飯食べて、仕事に精を出し、お昼ご飯を仲間と食べて、午後の仕事に取り組み、日が沈む頃には帰るという生活を送ってもらいます。もちろん、最低でも週に一回は休みを取ってもらいます」
俺は事前にシルクから言われたことを伝える。
本当なら週休二日にしたいけど、最初は無理だと言われた。
……うわぁ〜ん! 俺は週休四日がいいよぉ〜!
……そのためには、今は頑張るしかないか。
「そ、そんなにいい暮らしを……? 食料は何処から?」
「えっと、まずは領主が冒険者ギルドに食料調達の依頼を出します。そして、魔の森にて冒険者が依頼をこなして……領主としてそれを受け取ります。さらに、それを商人に買い取ってもらいます。そして、それを街道沿いの町に売りに来ます。みなさんは、それを買う形になるかと」
色々と穴はあるけど、ひとまず説明する。
多分、これで経済が活性化する……はず。
「で、ですが、お金が……」
「へっ? う、うん、もちろん、お給料もあります。それに食材は、次第に安くなっていくはず。あと、住むところはこちらで用意しますので」
現代でもそうだったけど、結局少ないから高くなる。
きちんと定期的に取れれば、次第に価格は落ち着くはず。
「住みます! 是非住まわせてください! なあ! みんな!」
「はいっ! お願いします!」
「住むところまで用意してくれるなんて!」
ふむふむ、反応は上々といったところかな。
ただ、問題はここからだ。
「ただし! 条件があります!」
「な、なんでしょうか?」
俺の一言に、村長が震えながら……。
「わ、若い娘をよこせとか?」
違うから! シルク!? つねらないで!
リン! なんで睨むの!?
「そんなことしません!」
「ほっ……そ、それでは?」
「貴方達には、獣人達と同じように暮らしてもらいます。この後ろにいる獣人達は、俺の友です。皆さんにも、すぐにとは言いませんが……良き隣人となれるように努力して欲しいんです。もちろん、獣人達もです。恨みを忘れろとは言わないけど、これから先の子供達のために力を貸して欲しいです」
「……き、聞いたか!? みんな!?」
「も、もう、仲悪い振りしなくていいんだ!」
「うぉぉぉ!! マルス様! 万歳! 貴方は素晴らしいお人だっ!」
「……はい?」
その後、詳しい話を聞くと……。
どうやら、巡回の兵士達に怒られると思い、仲が悪いふりをしていたらしい。
最初はそうだったけど、この小さな村で国や領主が頼れない状況下……。
否応無しに、協力していくうちに友情が芽生えたらしい。
「な、なるほど……それなら良かったです。もちろん、獣人達にも仕事や家を用意する予定ですので安心してね」
『あ、ありがとうございます!!』
今度は、獣人達が土下座をしてくる!
「や、やめて! お願い!」
はぁ……なんか、人に頭を下げられるのって疲れるよぉ〜!
フハハッ! とか偉そうにできたらいいけど……うん、無理だね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます