117話 真面目な回

 さて……何故か、お勉強会が始まってしまいました。


 この大陸の情勢とか、それに付随することとか……。


 いや、俺が悪いんだけどね! 全然勉強してなかったから!


「マルス様? 聞いてますの?」


「は、はいっ! 聞いてます!」


「仕方のない人ですね」


「うぅ……だって仕方ないじゃないか」


「で、ですが、領主ですから」


「でも、シルクの声聞いてると眠くなっちゃうんだ」


「ふえっ? ……た、退屈ってことですの?」


 そう言い、寂しそうな顔をする。


「ち、違うよ! こう、安心するというか……良い声だからさ」


 声も可愛いし、見た目も可愛い……あれ? 本当に、俺でいいのかな?


「そ、そういうことですの……えへへ」


 すると……隣にいるリンに、脇を突かれる。


「マルス様、私はどうですか?」


「リン? ……カッコいい?」


「……むぅ」


 すると、なんとも言えない表情をする。


 あれ? 何か間違った?


「クス……リン、マルス様は褒めてますわよ?」


「そうなんですか?」


「ん? そりゃ、もちろん」


「なら良いんです」


 よくわからないけど……耳がピクピクしてるからご機嫌らしい。


「話がずれましたわ。ですが、馬車の移動中にできることは限られていますわ」


「そこはお昼寝したら……」


「マルス様?」


「イエ、ナンデモアリマセン」


 何やら冷たい視線を感じたので、前言撤回する。


 まあ、シルクの声は好きだから我慢するとしよう。


「もう! コホン……では、マルス様が今いる位置は大陸のどの辺りですか?」


「えっと……西端に位置する?」


「大体合ってますわ。西側には山々が、上には魔の森があり……いわゆる、辺境という扱いになります。まあ、その……王都から距離がある分、国の中ではあまり重要ではない位置付けになりますわ」


「ふんふん」


「そのために、人は東側に流れていき、次第に廃れていってしまいました」


「ふんふん……セレナーデ王国との関係もあるよね?」


「ええ、その通りですわ。一番の理由は、ここから南に位置するセレナーデ王国との交易が盛んでなくなったからです。その頃は、栄えていたらしいと聞いたことがあります」


「えっと……俺たちは、それを修復するために動いてるんだよね?」


「そうですわ。廃れてしまった土地を蘇らすのが、これから始める一大行事です。道を作り、街を作り、人を集め……物を作り、流通して……その流れを作るのです」


「ふんふん。俺は今、そのために向かってるってこと?」


「ええ。領主であり、王族でもあるマルス様が出向くことで、この地に住む民や貴族達が本気だと感じることでしょう」


「なるほど……」


 うんうん、改めて整理できたかも。


 ここに住む人々は、見捨てられたと思っていたんだよね。


 もちろん、両親……前国王陛下も、どうにかしたいと頑張ってたみたいだけど。


 でも、それができなかった……ん?


「なんで、今までは出来なかったんだっけ? 確か、あちらの国が交流する理由がないって言ってたよね? でも、こっちにはいくらでも理由はあるよね?」


 今まではあちらの国では、我が国から得るものがなかったと。


 でも、いくらなんでもおかしい。


 それならそれで、新しい取引を考えればいいだけだ。


「マルス様、流石に……もう一つの国はご存知ですよね?」


「うん、帝国……ガルダ帝国だね」


 長きにわたり、我が国に侵略を繰り返す国だ。


 それを押し留めているのが、目の前にいるシルクのご実家だ。


 セルリア侯爵家が、東からくる侵略を防いでいる。


 国の北にある山や森から王都を守るのが、アトラス侯爵家だ。


 確か、兄さんの結婚相手の家らしい。


「はい。高い山に囲まれたかの国は、食料がないらしいです。海もなく、緑も少ないと……故に、唯一地続きの国……我が国を侵略してきます」


「分け与えれば……うちもないのか」


「そういうことですわ。魔物が増えたことで食料も減り、結果的にセレナーデ王国との関係も終わり……我が国も余裕がなくなったそうです。戦いは激化し、結果的に辺境を放ってしまったと」


「それを言えばいいのに……いや、聞かないか」


「その通りですわ。彼らには、それを確かめる術がありません。閉ざされた国である故に、我々が出し渋っているとしか思えないでしょう。唯一確かめる術があるとすれば……」


「うちに侵略して確かめることか……でも、そんなことは許容出来ないね」


 その間に、どれだけの民が犠牲になるか……。


 それに、仮に大使などを派遣させたとしても……信じないよね。


 何処かに隠してるとか思われるよなぁ。


「その通りですわ。それに、我が国のが恵まれてるのは確かですし……」


「なるほどねぇ……本当、辺境を担当してた人達がしっかりしてくれてたらなぁ〜。そしたら、こんな感じになってないんじゃない?」


「……本当ですわ。同じ侯爵家として恥ずかしいです」


「へっ?」


「この辺境を代々治めていたのは、残りの侯爵家……ボルドー家ですの」


「それって……ライル兄さんを王位につけたがってる?」


「厚顔無恥とはこのことですわ……! 辺境を見捨てておいて王都に帰り、そこで徐々に力をつけていき……あまつさえ、国の実権を掌握しようなど……!」


 シルクは目に涙を浮かべながらも……憤っていた。


 その姿に、俺は何も言えなくなってしまう。

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