七章 マルス、新規開拓を進める

114話 まったり

 たこ焼きパーティーも無事に終わった数日後……。


 俺はセシリアさんとライラ姉さん、そしてシルクと話し合いをしていた。


「マルス殿、本当に……作り方を教えてもらっていいのか?」

「はい、大丈夫ですよ。俺自身が考えついたわけではありませんから。そんなことでお金をとったり威張ったりはしませんよ」


 朝から、何か深刻な表情で話し合いがあるとか言ってくるから何だと思えば……。


 ようは、たこ焼きの作り方を教えてくれということだった。


 特許とかあるわけじゃないし、俺の発明じゃないし。


「しかし……あれは確実に売れる。我が国で作れば確実に……」

「ええ、間違いないわ。それに、私達の国でもね」

「まあ、そうでしょうね」


 なにせ、楽チンだし美味しいし。

 しかも、色々とアレンジができる。

 セシリアさんも『肉とか入れても美味そうだ』とか言ってたしね。

 多分、お好み焼きみたいになるんじゃないかな。

もしくは海鮮お好み焼き……じゅるり。


「……本当に、器が大きいのだな」

「へっ? いやいや、そんなことないですよ。それに、ただ単に底が抜けてるだけかもしれないですし」

「ははっ! それはいい!」

「ふふ、相変わらずね」


 その後——今まで黙っていたシルクが手を挙げる。

 真剣な王族の話し合いの邪魔をしない辺りは、流石は侯爵令嬢って感じだよね。


「シルク、どうしたの?」

「はい、マルス様。では、ここからは私が」

「ほう? ……私と貴女の話し合いか」

「はい、よろしくお願いいたしますわ——マルス様は甘いですから」

「おっと、それは怖い。父上からも、オーレン殿は怖い方と言われていたしな。その薫陶を受けていた貴女なら申し分ない」

「ふふ……ご期待に添えるといいですけど」


 そう言うと、少し怖い顔をして……。


 俺達から席を離して、セシリアさんと話し合いを始めた。


 どうやら、俺の仕事は終わったらしい。






 その後、邪魔をしないように……。


 姉さんと端っこの方でお茶をする。


「ふふ、なんだかんだで久々ね」

「まあ、そうですね」


 ライラ姉さんと、こうしてゆっくりお茶を飲むことなんか……。

 あれ? 二人きりだし……ここに来てから初めてかも?


「マルスは人気者だから、お姉ちゃんは少し寂しかったわ」

「そうなんですか? なんだ、言ってくれれば良いのに。俺でよかったら、いつでもお茶しますんで」

「まあ! なんていい子! どっかのバカとは違うわね! ひさびさに、穏やかに過ごせるわ」


 ……というか、ライラ姉さんとライル兄さんが揃うと騒がしいからなぁ。

 二人が別々にいれば静かなものさ……たまには、ああいうのもいいけどね。


「それにしても……あの子はいい子ね」

「へっ?」


 姉さんの視線は……シルクに向けられていた。


 シルクは俺達の視線には気付かずに、真剣に話し合いを進めている。


「では、こちらからはオクトパスや海産物を送り……」

「はい。こちらからは、そちらでは取れない卵を提供いたします。あとは、取れにくいとされるバイスンなど」

「なるほど……お互いの国にある物で交換ということか。我が国には森が少ないからな」

「はい。ただ、それぞれの価値は違うので、そこは要相談という形で……」

「ふむふむ……」


 聞き耳をたてる限りでは、そんな会話をしている。


「ほんと、頼りになるよね」

「ええ。でも、忘れちゃダメよ?」

「何をですか?」

「あの子が、


 ……俺だってそこまで馬鹿じゃない。


「もちろん……俺のためだよね?」

「ええ、そうよ。口煩いことも言うけど、それは貴方のためを思ってのことだわ。昔からね……もちろん、マルスにとっては苦い思い出もあるかもしれないけど」

「ううん、そんなことないよ。ずっと楽しかったから」


 俺が穀潰しと呼ばれるようになっても、離れなかったのはシルクだけだから。

 そういえば……他のみんなは、あっさり離れていったなぁ。

 だから、友達作るのも怖くなったのかも。


「そう……わかってるならいいわ」

「姉さんこそどうなの? 良い人いないの?」

「な、なにを言うのよ?」


 うわぁ……姉さんの照れ顔なんて初めて見た。

 ……少し楽しいかも。


「ほら、恋愛して良いって兄さんに言われたし」

「まあ、そうだけど……」

「ほら、バランさんとかゼノスさんとか……」

「私みたいな年増じゃ、相手が可哀想よ」


 えっと……確か、二人とは五歳離れてるんだっけ?

 別に前世からいったら、それくらい普通だけど。


「前も言ったけど、そんなことありませんよ」

「でも……ライル辺りにバカにされるわ」

「そんなこと言ったら、今度は俺がぶっ飛ばします!」

「……ふふ、ありがとう。じゃあ、お願いしようかしら」


 すると……席を立って、シルクが近寄ってくる。


「マルス様、少しよろしいですか?」

「うん、平気だよ。どうしたの?」

「白米というのが欲しいのですね?」

「そりゃもちろん!」

「あとは醤油、酢、塩……マルス様の魔石の価値からすると……値段はいくらに……」


 何やら難しいことを呟いている。

 うん、俺には全然わからないねっ!

 ん? 怠けてないで勉強しろって?

 いやいや、これは適材適所ってやつです。

 決して、俺が怠けたいからじゃないです……はい、ごめんなさい。

 よし……少し頑張ってみますか。


「お、俺にできることある?」

「……ないですわ」

「がーん!」


 目をそらされたよぉ〜!

 わかっちゃいたけど、何気にショック!

 でも事実だから仕方ないよね……すん。


「あわわっ!? ち、違いますわ! マルス様が使えないとかじゃ……えっと! ちがっ!」

「わ、わかってるって。うん、俺が悪かったよ」

「うぅー……」


 まあ、良いや。

 顔を真っ赤にして、慌てふためくシルクは可愛いし。


「大丈夫だよ、怒ってないから」

「ほんとですの? 嫌な女とか思ってません?」

「ううん、全然」

「うぅー……」


 それでもシルクは落ち込んだ様子だ……どうしよう?

 こんな時、リンエモンはいないし……。


「大丈夫よ、シルク」

「ライラ様?」

「そうだっ! ライラモンがいたっ!」

「「はい?」」

「いえ! 何でもございません!」


 俺が口を出すとろくなことにならないので、大人しく黙っていることにする。


「えっと……」

「さっきだって、シルクを褒めていたわ。頼りになるって」

「……ほんとですの?」


 俺はウンウンと頷く。


「昔から、シルクがいて楽しかったって言ってたわよ」

「うん、その通り」

「っ〜!! そ、そうですか……わ、私、頑張りますわっ!」


 そう言い、セシリアさんの元に戻っていく。


「フフ、可愛い子ね」

「はい、間違いないですね」


 俺と姉さんは顔を合わせ……微笑む。


 こうして……何とも言えない幸せな時間を過ごすのでしたとさ。





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