幕間 ~長兄とは~

 さて……やはり、俺は舐められていたようだな。


 近衛騎士バランやオーレンがいなくなった途端、一部の貴族どもが動き出した。


 ここ最近の俺は、奴隷制度を緩和させる方針や、不当な富を民に返すことを訴えていた。


 おそらく、それが原因だろう。


 そして、俺の警備が手薄になったと思って襲ったのだろうが……甘い。





「がはっ! ば、バカな……」

「こ、こんなはずでは……」


 雇われた刺客が、俺を襲ってきたが……。


「舐めないでください。私は三代侯爵の一つである、武家の誉れアトラス侯爵家の娘。女と言えども、たかだが暗殺者ごときに遅れはとりませんわ」


 我が婚約者ながら……なんと頼りになることだ。

 棒一本で、刺客達を昏倒させてしまうとは……。

 男としては情けない気もするが……ほんと、正解だったな。

 アトラス侯爵家は、北にある領地を治めている。

 山と森から来る魔物から、国を守護する役目を担っている。

 故に、戦う術を持つ者が多いという。


「ほほっ、誰が弱いのでしょうか? これでも若い頃は、戦場にいたこともあるのですよ」


 そして、もう一人頼りになる存在がいる。

 そう……宰相であるルーカスだ。

 ちなみに、俺の隠し玉の一つである。


「さ、宰相が強いなど、聞いたことないぞ……」

「だからこそですよ。強いと知られていたら、意味がありませんから」


 ルーカスは、父上の代から仕えている。

 その父上から、俺はルーカスについて聞かされていた。

 いざという時に戦える人物だと。

 故に、いざという時のために、今まで伏せてきたというわけだ。





 その後、すぐに拘束し……あとは専門家に任せる。


「ロイス様、私、一度屋敷に帰りますわ。お洋服が汚れてしまいましたので」

「ああ、すまないな。今回は助かった。ローラ、君がいてくれてよかった」

「い、いえ! 勿体ないお言葉です! そ、それでは!」


 そう言うと、顔を赤くして足早に去っていく。

 さっきまでの勇ましさは何処へやら……可愛らしい人だ。


「ほほっ、上手くやってるようですな?」

「……政略結婚とはいえ、そう悪い気はしていない」


 ローラは俺を気に入ってくれているし、俺もそうだ。

 これは、とても幸運な部類に入る。

 それより、今は……。


「さて……釣れたか?」

「どうでしょう? 相手は……腐っても侯爵家ですから」


 そう、裏で手を引いていたのは……おそらく、残りの侯爵家であるボルドー家だ。

 セルリア侯爵家当主であるオーレン。

 ローラの父君でもある、アトラス侯爵家当主ロイガン。

 この二人は、俺を支持すると決めてくれた。

 しかし、最後のボルドー家当主……ゾルゲが問題だ。

 奴だけは、己の利権を手放そうとしない。

 獣人を虐げようとも、民がどうなろうと知ったことではないという姿勢だ。


「尻尾までは掴めないが、牽制にはなるか?」

「ええ、そうでしょう。何より、尻尾切りを図ると思いますが……それこそが重要ですから」

「ああ、奴の尻尾……つまり、国の中枢に住まう毒を排除できるということだ」


 侯爵家であり……薄いが王族の血が流れてる奴らは、国の中枢に入り込んでいる。

 そいつらは、俺に従いたくはないらしい。

 いや、己の利権を手放したくはないということだろう。

 故に俺を排除し、ライルを王位につけたがっている。


「優秀な王は、邪魔だということですからね」

「優秀かどうかは別として、兄弟で一番向いていることは確かだ」

「はい、その通りですな。ロイス様は、己を客観的に見れる方ですから。何より……残酷になれる方です」


 ……そう、それが俺が国王になった理由だ。


 ライル、ライラ、マルス……どれも、俺なんかより才に溢れた者達だ。


 しかし……優しすぎる。


 平時においては、それはとても大事なことで……。


 兄としても、とても嬉しく思う。


 しかし、国王とは……そうも言っていられない。


 ならば長兄として、俺にできることは……。


 仮に、この先俺に何かあって、他の誰かが継ぐことになっても良いように……。


 この国の膿を取り出すことだ。


 そのためなら、俺はいくらでも泥を被ろう。


 それが、両親に誓った——俺の誓いだ。




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