113話 レッツパーティー!

 最後にアレを茹でて……これで下準備は完了だ。


「ボスッ! 声掛けしときましたぜ!」


「マルス様っ! 人族の方も完了いたしました!」


 丁度良いタイミングで、ヨルさんとレオが入ってきた。


「ありがとう、二人とも。それじゃあ、こっちも準備に取り掛かるとしよう。シロ、ラビ、ここは任せるよ?」


「はいっ! これをいっぱい作っておけば良いんですね!」


「頑張ります!」


「うん、お願いね」



 用意は二人に任せ……俺はシルクを伴い、屋敷の外へと向かうのだった。





 ◇


 館の外に出ると……。


「キュイー!」


 子供達と遊んでいたルリが、飛び込んでくる。


「おっ、遊んでもらったのか?」


「キュイ〜」


「ふふ、よかったですわね。大きくなりましたけど、まだまだ子供みたいですから」


「まあ、頭は良いから怪我をさせる心配はないしね。ルリ、一緒に行くかい?」


「キュイー!」


 俺は子供達に礼を言い、ルリも連れて歩き出す。






 そして、旧獣人街に向かうと……すでに人だかりが出来ていた。


 人族、獣人族関係なく……それぞれ会話を楽しんでいるみたいだ。


 すると…俺達に気づいた人達が近づいてくる。


「マルス様! シルク様! こんばんは!」


「今日も宴ですか!?」


「すごく楽しみです!」


「ふふふ……覚悟した方が良いよ? 今日のは食べ出したら止まらないからね」


「「「おぉぉ〜!!!」」」


 次々と挨拶されては、同じように返事を返していくと……。


「マルス様? 平気ですの?」


「ん? 何が?」


「そんなにハードルを上げては……」


「フフフ、平気だよ。あの魅力からは、誰も逃れられないから」


 マヨネーズを嫌いな人……いるかもしれけど、圧倒的にハマる人のが多いし。

 あれ? でも、この世界ではどうなんだろう?

 アレも食感が苦手って人もいたし……不安になってきた。


「マルス様? 汗がすごいですけど……」


「な、な、なんでもないよ! きっと大丈夫……だよね?」


「もう! だからハードルを上げすぎと申しましたのに!」


「ぐぬぬ……」


 一抹の不安を抱えつつ……俺は広場の中央へと進んでいく。


 そこでは、すでにリンとベアがいて……。


「マルス様、この辺りでいいですか?」


「この近くには集まらないよくに言っておいたが……」


 どうやら、二人で調理するスペースを確保してくれてたみたいだ。


「うん、ありがとう。これくらいあれば平気かな。じゃあ、引き続きお願いするね」


「了解です」


「ああ、任せろ」


「では、私はルリの相手をしてますわ」


「キュイキュイ!」


「うん、頼むね。初めて作るから、結構集中力がいると思うから」


 見張りを二人に任せ、俺は作業に集中する。


 そのために、まずは適当な椅子を用意して、そこに座る。


「えっと……石造りで熱に耐えられるように……窪みを作って……こうかな?」


 両手を合わせてイメージすると……。


「あれ? 失敗かぁ……」


 ぐにゃぐにゃした歪な形になってしまった……もう一度やろう。


 そして、何回か失敗を繰り返し……。


「よし! できたぁ!」


 五回目にして、ようやく納得のいくものが完成した。

 ……こういうもの作りは、繊細な魔法の鍛錬になるかも。

 あとで、ライラ姉さんに伝えとこ。


「出来ましたの? ……変な形ですわ」


「キュイ?」


「まあ、見慣れないだろうね」


「この板の中にある、小さな窪みは何ですの?」


「ふふふ、それこそが重要なのさ」


 そう……たこ焼きパーティーのためにっ!


 俺は、この日のために……キングオクトパスの足を取っておいたんだっ!






 そして、全ての準備が整い……全員が勢ぞろいした。


「じゃあ……焼いていくよ! シロ、よく見ててね」


 全員が頷くのを確認して……。


「よく熱したら、ここに油を数滴垂らして……用意してもらったものを注ぎ……」


 ジユワァァ!!と食欲を誘う音が、辺りに響き渡る。

 クゥゥ——!! これだよ! これ!


「じゅるり……ここに一口サイズに切ったオクトパスを入れると……良い? こっからが大事だからね?」


 みんなが静かに見守る中、魔法で用意した串を持ち……その時を待つ。


「……今だっ!」


 窪みにあるたこ焼きを、素早く返していく!


「よし! 良い色!」


 そしたら、再び待つ……。


「ま、まだですか?」


「リン、まだだよ。こういうのは、焼き目が大事なんだ。そうすると、カリッとして、ふわっとした食感になるから」


「な、なるほど……ゴクリ」


 リンだけでなく、みんなが待ちきれない様子だ。

 いつの間にか、俺の周りには人だかりが出来てるし……さて、いいかな。


「……よいしょっと……うん——完璧だ」


 焼き目、色共にイメージ通りだ。


「皿に盛って、ソースとマヨネーズをかけて……最後に青海苔をまぶして完成だ!」

「マルス様!」

「主人!」

「ご主人様!」

「師匠!」

「ボスッ!」

「ま、待って! 落ち着いて!」


 獣人族は、食欲が旺盛だ。

 どうやら、闘気を使うにはエネルギーが必要らしい。

 故に、食べる量が多いと……なんか、色々考えさせられる話だ。

 もしかして、彼らを飢えさせたのは……人族が有利になるため?

 ……今は、考察しなくていいや。


「まずは、リンから食べてね」


「へっ? ……良いのですか?」


「だって、これを切ったのはリンだもん。何より、リンには苦労ばっかりかけてるからさ」


「マルス様……」


「ふふ……リン、よかったですわね」


「はい、シルク様……では、頂きます——っ〜!!」


 口に入れた瞬間——リンの顔が歓喜に満ちた。


 そして、次々と口に放り込んでいく!


「あ、あふい……でも——止まらないっ!」

「ふふふ……それがたこ焼きさ。無限にいくらでも食べちゃうんだ」

「はいっ! おかわりですっ!」


 その満面の笑みがこぼれる姿は少女のようで……なんだか、胸が熱くなる。

 あれ? リンが可愛く見える? かっこいいではなく……アレェ???


「マルス様?」

「う、ううん! 何でもない! シロ! 手伝って!どんどんつくるよっ!」

「はいっ!」

「わたしもっ!」


 ラビとシロと共に、ひたすらたこ焼きを作っていく。


 そんな中、俺は皆んなの会話に耳を傾ける……。


「ウメェ! 酒が進むぜ!」

「かぁ〜! 大したもんだ!」

「なんと……マルス様には、このような才能も……」


 ライル兄さん達大人組は、酒を飲みながら満足げな表情を浮かべている。


「あら? ……美味しいわ、これ」

「うむ……シンプルだが、気がつくと口に入れているな……これは、売れるぞ」

「ええ、作り方は簡単よね。屋台とか出したら、おやつなんかにも良いわ」


 お姉さん組は、そんな会話をしていた。


「ボスッ! 美味いっす! このマヨネーズってやつ!」

「レオ! 使いすぎだっ! 俺の分が!」

「待ちなさいっ! 私だって、まだ食べたいです!」


 リン達は、マヨネーズが気に入ったらしく……取り合いをしている。


「……うん、相変わらず良い光景だ」


 これが見たいから、俺は宴をやりたいんだ。


 すると……恐る恐るといった感じで、シルクが近づいてくる。


「マルス様」

「ん? どうしたの?」


 何やら、モジモジしてますけど?


「その……マルス様、作ってばかりで食べてませんわ」

「うん、そうだね。でも、仕方ないよ。まだまだ待ってる人いるし」


 俺の眼の前では……都市中の人が集まって、行列をなしている。

 ヨルさんとマックスさんが交通整理してくれてなかったら……どえらいことになってたよ。


「で、ですから……ど、どうぞ!」

「……へっ?」


 そこには、串に刺さったたこ焼きさんが……。

 これは、まさか……全男子憧れの!?

 照れ顔の美少女からのアーンですか!?


「は、早く……」

「その……できたら、フーフーしてくれると嬉しいかな」

「ふえっ!? ……仕方ありませんわね……フーフー……」


 おおっ……なんかエロい。

 いや、そんな目で見てはいけない……見ちゃうけど。


「これで良いですの?」

「あとは、アーンって言って欲しいかな」

「……ア、アーン……」

「ア、アーン……はふっ、あつ……」

「お、美味しいですか?」

「お、美味しいです……」


 確かに美味しいけど……。


 それ以上に、なんだか幸せな気分になったマルス君なのでした。


 うん! 端的に言って——最高ですっ!

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