111話 早く、こんな日々を過ごしたい

 ミノタウルスを討伐して三日が過ぎた。


 そんな中、俺はリンを伴い庭のベンチで日向ぼっこをしていた。


 これぞ、スローライフって感じだよね!


「いやぁ〜いい天気だね」

「はい、そうですね」

「もう、このままダラダラしてても……」

「ダメです」

「……ダメ?」


 良く良く考えてみたら、もうダラダラしても問題ないと思うんだよなぁ。

 セレナーデ王国との流通整備は順調だし、獣人と人族の関係もマシになってきたし。

 危険なミノタウルスを倒したから、他の冒険者達も奥に行けるようになってきたし。


「ええ、まだまだやることはありますから。例の飼育問題や、それに伴う食糧難……獣人と人族を一緒の地区に暮らし始めた弊害……何より、これでは認めてもらえませんよ?」

「オーレンさんかぁ……ゼノスさんは、その視察に来たんだもんね」


 一言も言ってないけど、きっとそういうことなんだろうね。

 シルクが俺に釣り合わないとか言ってたけど……。

 何だかんだ言って、シルクの相手として相応しいか確認するってことか……。


「はぁ……仕方ないね、シルクのためにも頑張るとしますか」

「そうですよ。そうでないと……私も前に進めませんから」

「ん? どういう——」


 俺がリンに問いかけようとすると……。


「マルス様〜!」

「おや? シルクだ……あっ! 後ろにいるのは!」


 俺はベンチから腰を上げて、二人のもとに駆け出す。


「ベア! もう平気なの?」

「ああ、主人よ。すまぬ、心配をかけたな。もういつでもいける」

「でも無理はしちゃダメだよ?」

「ああ、わかっている。リン殿、手合わせをしてくれるか?」

「ええ、もちろんです。では、ここでやりましょう」


 そう言い、二人が庭の中央で稽古を始める。

 といっても、軽い運動のようなものだ……もちろん、俺からしたら激しいけど。


「シルク、ご苦労様」

「いえ、大したことはしてませんわ。ベアさんの体力とやる気のおかげですから」

「そんなことないよ。毎日様子を見に行ってたし。ベアも言ってたよ、シルクは良い人間だって」

「えへへ……それなら良かったですわ」


 すると、キリッとした顔つきが崩れる。

 ウンウン、やっぱりツンよりデレが良いよね!

 いや、ツンがあるからこそデレが際立つというやつか。


「マルス様?」

「いや、何でもないよ」

「あっ——そういえば、マルス様に伝言があります。先程レオさんが狩りから帰ってきて、卵を手に入れたと仰ってましたわ」

「……なんだってぇぇ——!?」

「きゃっ!?」


 おおぉぉ——!! 待ちに待った卵が!

 あれは保存が効かないから、手に入れたら使い切るしかないし。


「も、もう!」

「ご、ごめん! じゃあ、行ってくる!」

「お待ちください! 私も行きますわ!」

「ほら! 早く!」

「はわっ!? て、手を引っ張らないでください!」


 居ても立っても居られず、俺はシルクの手を取り歩き出すのだった。







 そして、厨房へとやってくると……。


 そこには、シロに卵を渡しているレオの姿があった。


「レオ! よくやってくれた!」

「へいっ、ボス」

「師匠、これでなにを作るんですか?」

「よく聞いてくれた! これは……」


 すると……。


「あ、あのぅ……マルス様」

「どうしたの? 今から大事な話が——あっ! ごめん!」


 俺は慌てて手を離す……どうやら、ずっと握りっぱなしだったらしい。

 顔を赤くして、俯いてしまったし……。


「い、いえ! そ、それより! 何ですの?」

「えっと……そうだ! シロ! アレを作るよ!」

「……あっ! 卵がいるって言ってましたね!」


 シロは、魔法使い達が交代で凍らせている貯蔵庫に向かった。

 姉さんの指導のおかげで、何人か使えるようになった。

 これで、わざわざ俺がやる必要はなくなったってわけだ。

 いや——今はそんなことはどうでもいい。


「レオ、今日は——宴だ」

「はい?」

「領主命令だ。ヨルさん達と協力して、領民に知らせてほしい。場所は……今なら旧獣人街が空いてるから、そこで行うとしよう」

「は、はぁ……理由はなんすかね?」

「宴に理由なんていらないよ! あえて言うなら——宴が呼んでいる」


 とりあえず、宴がしたいんだよォォ!!!

 俺はアレが食べたいんだァァァ!

 どんだけ待ってたと思ってるんだァァァ!


「はっ? ……相変わらず変な人っすね」

「もう! 変な人で良いから! ほら! 早く早く!」

「マ、マルス様! 落ち着いてください! 何かしらの理由がないと、皆が困りますわ」

「むぅ……そういうもの?」

「はい、そうですわ。お金と時間を使うのですから。それに、うちには余裕があるわけではないのですよ? これから、どんどんお金もかかりますし」


 シルクの目は冷たい……厳しいけど、何も意地悪で言ってるわけではないし。


「うーん……ベアの快気祝いってことで! あと、一大行事を行うから決起会というか……ダメ?」

「……いいですわ、許可します」

「ほんと!? ありがとう! シルクは良いお嫁さんになるね!」

「へっ? ……ふえ〜!?」


 シルクが何やら奇声を上げたけど、今はそれどころじゃない!


「レオ! さあいけ! ボスの命令だっ!」

「へいへい、わかりやした」


 ふふふ……ようやくだ。


 我慢して、取っておいた甲斐があったねっ!

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