109話 とある話

 翌日の朝、朝食をすませたら……。


 とある部屋の前に行き、静かにドアを叩く。


「ベア、レオ、起きてる?」

「へい、ボス」

「ああ、起きている」


 リンを伴い、部屋の中に入ると……。

 ベットに横になってるベアと、それを見守っているレオがいる。

 ちなみに、この二人は同じ部屋で暮らしている。

 畳10畳くらいの広さだけど、ただ寝るだけだから問題ないらしい。


「主人か……すまぬ、情けない姿を見せた」

「気にしないでよ。どう、調子は?」

「問題ない……どっかの馬鹿が寝ずの看病をしてくれたからな」

「おい? ひどくないか?」

「くく……冗談だ」


 何というか……意外と、レオは面倒見が良いよね。

 シルクの護衛もしっかりこなしてるし、ラビやシロの面倒も見てるし。


「それくらい言えるなら平気ですね」

「リン殿は元気だというのに、すまないな」

「いえ、私は怪我を負ってませんから——ベアのおかげです、ありがとうございます」

「なに、気にするな。主人から、リン殿も守るように言われていたからな」

「……へっ? マ、マルス様?」


 ……うん? そんなこと言ったっけ?

 ……言ったような気もする。

 確か、一緒に風呂に入った時だったかな?





 ◇



 あれは、いつもと同じように風呂に入って……。


 たまたま、ベアとレオと一緒になったんだ。


「あれ、二人とも」

「ボス、お疲れっす」

「主人よ、先に入ってるぞ」


 この二人も、大分生活に慣れてきたよね。

 最初の頃は勝手に入ったり、俺より先に入ることに抵抗があったみたいだけど……。

 今ではすっかり、自由に行動している。


「どう、鍛錬は?」

「きついっすよ! あの人族達はなんすか!?」

「うむ、俺とレオは獣人族の強い部類に入るが……あの人族三人には勝てん」

「まあ、我が国の次世代を担う人達だからね」


 リンと一緒に、この二人も兄さん達から稽古を受けている。

 本来の力を取り戻して、俺の役に立ちたいからって……。

 その行動よりも、その気持ちが嬉しいよね。


「やはり、人族は侮れんか……あの三人も、良き人族であるし」

「確かにな。俺たちを馬鹿にしないし、見下してもいない……ほんと、視野が広がったぜ」

「ああ、ベアの言う通りだ。もちろん、そうでないやつもいるが……それは仕方のないことだ」


 ふんふん……良い傾向だね。

 ベアは人族を憎んでいるから、どうなるか心配だったけど……。

 あの三人に会わせて良かった。


「ほんと、強い上に出来た人達だよね」

「くく……」「ははっ!」

「うん? 何で笑うのさ?」

「いや、オレ達にそう思わせた張本人が……」

「全くだ。相変わらず、おかしな主人だ」


 解せぬ……何故笑われるのだろう?

 それに、何だか疎外感です。





 その後、男だけということで……。


「しかし、あれっすね。シルク嬢はボスが好きっすね」

「へっ?」

「一緒にいると、いつも話してますぜ」

「そ、そうなんだ」

「ああ、俺もよく聞いている」


 自覚がないわけじゃないけど、人に言われると照れるよね!


「そ、それより! 二人はどうなの?」

「オレっすか……考えたこともないっすね」

「うむ……それどころではなかったし」


 そ、それもそうか……奴隷だったんだもんね。

 選ぶ権利もないし、そんな余裕もないよね。


「でも、これからは平気でしょ? 俺は許可するし」

「嬉しいっす!」

「うむ、考えてみよう」


 この二人は良い男だし、すぐに相手も見つかるよね。

 ……あっ、それこそ……うん、聞いてみよう。


「リンとかは? 二人から見てどう?」

「………まじっすか」

「………これは重症だな」

「へっ? な、何が? どうして、そんな目で見るの?」


 まるで、可哀想なものを見るように……。


「はぁ……そりゃ、リンさんは良い女っすよ。すんげえ美人さんですから」

「うむ……強いし、性格も良い」

「うんうん、わかるよ。だからさ、俺も良い人と一緒になって欲しいんだ」


 ほんと、リンには感謝してる。

 穀潰しと呼ばれる俺に、根気よく付き合ってくれた。

 でも、そろそろ自分の幸せを考えても良いはず。

 ベアやレオなら……あれ? なんかもやっとする。

 これはあれかな? 娘を嫁にやるお父さん的な?


「ベア、どうする?」

「いや……俺たちが言うわけにはいかんだろう」

「なにをコソコソしてるの?」


 俺が思案している間に、何やら内緒話をしていた。


「い、いえ!」

「あ、あれだ……リン殿は良き女性だが、戦友といった感じだ」

「そ、そうっす!」

「なるほど、そういう感じかぁ……確かに、三人で激しい稽古してるもんね」


 毎日傷だらけになって……本当に、リンは無理してないかな?

 一応、女の子な訳だし……差別をするつもりはないけどさ。


「あのさ……リンについて、ベアに頼みがあるんだ」

「なんだ?」

「役割からいって、一緒に前線に出る機会が多いと思うんだ。もし、出来たら……リンのことも守ってあげて欲しい。俺の大事な子だし、女の子だからさ」

「……くく、わかった」

「リンさんも大変っすね」




 ◇



 ……うん、言ったね。


「確かに言ったね」

「ふえっ!?」

「リン?」


 何やら、聞いたことない可愛らしい声がした……。

 いや、懐かしいと言うべきか。


「くく……主人は言った。リン殿は大事な女の子だから守ってあげて欲しいと」

「そうそう! 傷でもついたら大変だって!」

「っ〜!!」

「ちょっ!? リン〜!! どこいくの〜!?」


 急に部屋から飛び出していく!


「やれやれ、前途多難だぜ」

「そうだな。リン殿もあの感じではな」

「な、何が起きたの?」

「「………はぁ………」」


 そして、再び……俺を可哀想な目で見てくるのだった。


 一体……俺が何をしたというのだろうか?

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