107話 帰還

 さて、無事にミノタウルスを倒した俺達だけど……。


 流石に、卵を探してる場合じゃなかった。


 マヨネーズも食べたいけど、ベアの傷が心配だ。


「主人、俺のことは気にするな」

「そういうわけにはいかないよ」

「なんの、これしきの怪我——くっ!」


 立ち上がろうとするが……すぐに膝をついてしまう。


「ほら、言わんこっちゃない。大丈夫だよ、明日以降またくるからさ。ベアの体の方が大事だよ。とりあえず、帰ってハチミツ食べよう?」

「主人……すまん」

「ううん、謝ることないよ。ベアがいなかったから勝てなかったかもしれないし。今回の立役者だもん」


 みんなを見ると……静かに頷く。


「そうだぜ! ほら! オレが運んでやる!」

「レオ……すまんな。お前には悪いことを言ったのに」

「はぁ? いつの話だよ」

「くく……お前と友で良かった。よくぞ、俺を連れ出してくれた。おかげで、人間にも良い奴がいると……知ることが出来た」

「ああ、そういうことか……へっ、気にすんなよ」


 何やら、男同士でわかり合っている……良いなぁ。

 熱い友情って感じで……友達かぁ。

 






 その後、ベアを守りつつ……何とか、都市に帰還するが……。


「ベア! しっかり!」

「……」


 先程から返事がない! 気を失っている!


「マックスさん!」

「はっ! すぐにシルク様にお伝えします!」

「ありがとう!」


 兵士達の様子を、たまた見に来ていたマックスさんに知らせ……。


「レオ! 急いで!」

「へいっ!」

「私も手伝います!」


 気を失ったベアを、リンとレオが急いで館へと運ぶ!






 そして、館の前に到着すると……騒ぎを聞きつけたのか人々が押し寄せている。


 すると、すぐに館からシルクが飛び出してくる。


「マルス様!」

「シルク! お願い! ベアを治して!」

「マルス様は!? お怪我は!?」

「平気! だとしてもベアのが優先だっ!」


 その時……何やらどよめきが起こった。

 でも、今は気にしてる場合じゃない!


「マルス様……はいっ!」


 シルクは何やら感動した様子で、ベアの治療にあたる。


「かの者の傷を癒したまえ——キュア」


 シルクが呪文を唱えると……血が止まり、傷が癒えていく。


「ふぅ……これで平気ですわ。ただし、癒しの力はあくまでも応急処置に過ぎません。すぐにベットに運んで看病をしなくてはいけません。そして、栄養のある食事を用意しましょう」

「わかった! みんなお願い!」


 俺の言葉に、ヨルさんやマックスさんも反応し……。


 みんなでベアを丁寧に運んでいく。


 これでベアは安心だけど……こっちも心配だ。


「シルク、平気? 無理してない?」

「は、はい……平気ですわ」


 前も言ったけど、シルクの癒しの力は万能じゃない。

 血を止めたり、傷を癒すことはできるけど、中身まではそうはいかない。

 頑張れば、それもできるらしいけど……シルク自身の体力を使う。

 姉さん曰く、自分の生命エネルギーを変換して癒してるって話だ。

 それが、癒しの力が異能と呼ばれる所以らしい。


「何がして欲しいことある?」

「で、では……そこで少し休ませてくださいますか?」

「うん、もちろん」


 シルクの手を優しく取り、庭のベンチに座らせる。


「と、となりに座ってもらえますか?」

「えっ? 良いけど……」


 俺が隣に座ると……左肩に重みを感じる。


「し、シルクさん?」


 どうやら、俺の肩に頭を乗せたかったらしいが……。

 あのぅ……何やら良い香りがします。


「無事で良かった……」

「……心配かけてごめんね」

「いえ、信じてましたから。でも……マックスさんが血相変えて駆けつけてきたので……驚いてしまって」

「……ああ、俺が怪我をしたと思ったのか」


 なるほど、それで血相変えて出てきたのか。


「ぁ——もちろん、ベアさんのことを心配しなかったわけではなくて!」

「わかってるよ。シルクは優しい女の子だもん」

「ふふ、先程の行動をしたマルス様に言われたくありませんわ」

「へっ? ……何かしたっけ?」

「……わかってませんの?」


 うん? 特に何もした覚えはないよね?

 それよりも、澄んだ瞳に吸い込まれそうになるので……。

 アブナイアブナイ……ゼノスさんが変なこと言うからだよ。

 手を出して良いとか……ァァァ! モヤモヤするぅ!

 俺だって、出せるものなら出してるよ!


「マルス様? 頭を抱えてどうなさったです? やっぱり、何処が具合が……」

「い、いや! 平気だから!」


 この無自覚ゥゥ! 下から覗き込むのは反則です!

 上目遣いプラス胸寄せ——あざといかっ!


「変なマルス様……あれ? ……いつも通りですわ」

「あの? シルクさん?」

「コ、コホン……それで何をしたかと言いますと」


 露骨に話題を変えられた!

 いや、良いんだ……確かに、俺は変だし。


「うん」

「自分より、獣人の方を優先したからですわ。それに、獣人の方に回復をかけてくれと……マルス様がダメと言えば、私は出来ませんから。だから、周りの人達も驚いていたのですよ?」

「ああ、そういうことね。そんなの当たり前のことだよ。ベアは俺たちのために身体を張ってくれたんだから。何より、大事な仲間だし」

「ふふ……その当たり前をできる人って少ないんですよ?」


 そう言い、微笑みながら……身を寄せてくる。


 なんで褒められてるか、よくわからないけど……。


 とりあえず、シルクが喜んでるからいっか。

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