105話 ベアの戦い


 ……くっ!? 強い!?


「ブモォォォォ!」

「ハァァァァ!」


 闘気をまとい、攻撃を必死に受け止める!

 斧が当たる部分には特に重点的に……。

 あとは一歩も引かないために、足腰を中心的に……。

 そして、隙をみては……拳打を食らわす!


「フンッ!」

「ブモッ?」

「チッ、この程度ではダメか」


 当たりはするが、全く動じていない。

 むしろ、俺の拳が痛みを感じているくらいだ。

 おそらく、物理的な攻撃ではダメだろう。


「ブモォォォォ!」

「ゴハッ!?」


 俺の闘気をもってしても——このダメージか!

 身体中が軋み、悲鳴を上げている。

 これは、レオでは厳しい。


「ブモォォォォ!」

「舐めるなァァァ!」


 拳の連打を繰り出し、一歩も引かずに殴り合う!


「ブモッ!?」

「俺の後ろには仲間がいるのだ! 貴様などにやらせはせん!」


 ……まさか、この俺が人族のために体を張るとはな。


 「ブモォォォォ!」

「ぐはっ!?」


 く、くそ……血を流しすぎたか……意識が朦朧としてくる……。







 ◇





 ……ああ、この記憶は……あの頃の自分か。


「全ての人族が憎い」


 奴らは徒党を組んで獣人族を虐げる。


 平民たちは、自分達が楽をしたいがために……。


 やりたくない仕事や、憂さ晴らしを獣人族に押し付ける。


 自分より下の者を作って、優越感に浸っているのが見え見えだ。


「そして、上にいる奴らもクソだ」


 獣人族が奴隷化されているのに……何もしない。


 それどころか、平民たちの矛が自分たちに向かないように獣人族を利用している。


 くそったれな生き物だ……そう、思っていた。





 そんな態度をとっていた俺は、過酷な労働を強いられた。


 そこでも反抗的な態度をとり、ついには扱いきれないとされ……。


 ほぼ牢屋のような場所に閉じ込められることになった。


 そこにはたまにレオも放り込まれ、よく話をしていたものだ。


 お互いに認め合う友人のような関係だと思っていた……あと時までは。


「レオ、見損なったぞ」

「い、いや! 違うんだ! ベア!」


 最近見なかったレオは、人間に付き従っていた。

 身綺麗にされ、何やら見たことない獣人の女と一緒に俺を勧誘しに来たらしい。


「何かだ? 同じく人間を憎む同士だと思っていたが……」

「オ、オレだって憎んでる! でも、それだけじゃダメだとわかったんだ!」


 その瞳と言葉には力があり……俺を惑わせる。

 何だ? この変わりようは? 俺と同じように人族を恨んでいたレオが……。


「フンッ、そんなことは知らん」

「なるほど、視野が狭いですね」

「何だと? 人間に媚を売った獣人が何を言う?」

「何度でも言いましょう。視野が狭いと……人族は、あなたが思うような者達ばかりではありません」


 な、何だ? こいつの瞳からも……言い返せない圧力を感じる。

 し、しかし……俺は認めるわけにはいかない。

 母を殺され、幼き頃より奴隷として生きてきたのだから。






 だが……気になるというのも事実だ。


「お前達の仲間になる気は無い。だが、そこまでいうのなら会ってみよう……そのマルスという人族に」

「ベア! ああ! それだけでいい!」

「はい、会えばわかりますからね」

「随分と自信があるようだな……」






 その後……俺はマルスという人族に会う。


 俺が無礼な態度を取っても、まるで意に返さない。


 怒ることも、ビビるわけでもなく……ただただ、普通に接してくる。


 獣人を側近にしたり、獣人のために色々したり……。


 かといって、媚びるというわけでもない。


 人族にも平等に与えて、みんなでワイワイする姿がある。


 なるほど……こんな人族もいるのか。


「レオ」

「おう、どうだ?」

「まだわからないが、ひとまず謝る……裏切り者といってすまなかった」

「い、いいんだよ! わかってくれたらよ」

「感謝する……しかし、まだ許したわけでも認めたわけでもない」

「ああ、わかってるぜ」


 俺はその日から、マルスというやつの世話になることにした。


 見極めてやろうと……その行動が、うわべだけじゃないということを。





 その後、俺はハチミツを一緒に取ったり……。


 そのハチミツを一緒に食べたり……。


 一緒に戦い、一緒に寝て、一緒に風呂に入る……。


 その過程で……憎しみが少しずつ溶けていくのがわかった。


 そして……奴を信じるようになってきた。


 この男になら、全てを賭けても良いのでは?


 きっと、この腐った世界を変えてくれると。


 いや……もし、世界を変えることができなくてもいい。


 俺は、単純に……このマルスという人族が気に入ったのだ。


 ならば、この最強の肉体を持つという熊族の力……。


 ——主人のために使ってみせようぞ!!





 ◇



 ……そうだ! ここで倒れるわけにいかぬ!


「ブモォォォォ!」

「オ——オオオォォォ!!」


 全身に闘気をまとい、やつの攻撃を受け止める!


「ベア!」

「主人よ! 必ず隙は作る! 俺を——信じるがいい!」

「ベア……わかった! リンもいいね!?」

「はいっ!」


 ……嬉しいものだ。


 信じてもらい、頼ってもらえることは。


「ブモォォォォ!」

「ミノタウルスかなんか知らないが……」


 主人との約束のために——覚悟してもらおう!

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