103話 前哨戦

 慎重に、魔の森に入ったけど……。


「うん、静かなもんだね」

「ええ。この辺りには、もう魔獣や魔物はほとんどいないみたいですね」


 冒険者や兵士たちのおかげだろう。

 この辺りなら、開拓を進めて良いかもしれない。

 見張り台や、狩りをする拠点とか作ったり。





 その後も進むが、特に問題はない。


 なので、リンと軽くお話をする。


「放牧なんかもありかな?」

「何ですか?」

「うんと……飼ってはいるけど、普段は自由にさせてる状態かな。草木があって、その方がストレスも少ないだろうし」

「なるほど……今ある都市を広げるのですか?」

「そうだね……獣人達が暮らしてた場所は、魔の森に接しているから……すでに工事を行って扉は作ってある。生まれた個体だけを、中で飼えば……」


 そうすれば、元々いた個体はストレスが減る。

 生まれた個体は、元々魔の森で過ごさなければ違和感はないかな?


「なるほど……住む環境が大事だというのはわかりますね」

「そうだよね。それは誰でもそうだよね」

「ですが、工事をしながら魔物や魔獣退治は難しいのでは?」

「うーん……検証をしてみないことにはわかんないけど。多分、魔獣に関しては問題ないと思う」

「それは何故ですか?」


 ……どうしよう? 前世の知識をどう説明する? いや、普通に言えば良いんだ。

 変におどおどするから、変な感じになるんだよね。

 別に良く良く考えれば、誰だってわかることだし。


「えっと、彼らには知性はあるかどうかわからないけど……本能はあるはず。そして、そこに行くと危険だと判断すれば、近寄ってこないと思うんだ」

「……なるほど、道理にかなってますね。では、魔物は?」

「間違いなく来るだろうね。でも、それならそれで良い。どうせ、魔物は駆逐しないといけないし」

「おびき寄せる餌にもなると……危険ですが、利点がありますね」

「うん、そう思う。まあ、シルクやライラ姉さんと相談するけど」


 その後、巡回している兵士達に挨拶をしつつ……進んでいく。


「みな、ここからは気をつけろ」

「うん、兵士達が巡回できないエリアだからね」


 ベアの言葉に、みんなが頷く。

 兵士達が巡回できない……つまり、敵が強いってことだ。






 そして……。


「ベアさん! 何かいます!」

「フンッ!」


 ラビの声に反応したベアが、両腕で何かの攻撃を受け止める!

 あれは……例のカマキリか!


「ベア! 隙を作ったら下がってください!」

「おう!」


 ベアが力ずくでカマキリを吹き飛ばすと……。

 まるでゲームのスイッチのように、ベアとリンの立ち位置が入れ替わり……。


「キシャァァ!」

「お前など——私の敵ではない!」


 尻餅をつきながらも攻撃を仕掛けようとしたやつは……。


「クカ……」

「ふぅ……」


 目にも留まらぬ速さで抜刀したリンによって……首を落とされていた。


「す、すごい! リン! 前は苦戦したのに!」

「あ、ありがとうございます……でも、ベアが隙を作ってくれたからです。あの攻撃を無傷で受けられるのはベアかレオくらいでしょう」

「いや、俺は受け止めることしかできん。リン殿の攻撃力あってのことだ。何より、ラビがすぐに気づいてくれたからな」

「えへへ……良かったですぅ」

「うんうん、みんな成長したね」


 すると……。


「シロ! オレたちも負けてられねえな!」

「はいっ! 頑張ります!」

「うんうん、二人とも頼りにしてるからね」


 いやぁ……助け合える仲間がいるって良いね!






 ということは……俺もザボってばかりじゃダメだよね。


「二時の方向から、複数の気配が!」

「同じく!」


 シロの鼻と、ラビの耳が何かを捉えた。


「複数なら、俺の番だね」

「では、私がお側に」


 ベアが少し下がり、俺とリンが前に出る。


「さて……来たね」

「ブルァ!」

「ゴァ!」


 上位種であるゴブリンジェネラル、オークジェネラルの群れが。

 さらには……後ろからどでかいトロールまでいる。


「さすがは森の奥地ですね。これは、普通の兵士では対応できません」

「うん、そうだね——邪魔だから消えてもらうよエアプレッシャー


 すでに魔法を放つ態勢に入っていたので、迫り来る魔物を風の圧力で潰していく!


「ゴァ!?」

「ブァァ!?」


 悲鳴をあげつつ、奴らが魔石になっていくが……。


「むっ? トロールが動いてる?」

「……多分、上位種かと。あの大きさと耐久力は」


 リンの言う通り、俺の魔法でも潰しきれていない。

 上から圧力がかかってるにも関わらず、ゆっくりと前へ進んでいる。

 多分、トロールジェネラルといったところかな。


「へぇ……それは、ルリに良いお土産が出来たね」

「ふふ、そうですね。随分と余裕がありますが……マルス様が仕留めますか?」

「うん、もちろん——焼けろフレイム

「グカァァァァァ!?」


 奴の足元に火柱が上がり、体を包み込む。

 上からの風、下からの炎により身動きが取れない状態だ。

 その結果……トロールジェネラルも魔石と化す。


「よし! 特訓の成果が出てきた!」

「ええ、あれでは逃げようがありません」

「まあ、頑張ってコントロールの訓練をしたからね」


そのおかげで、火属性魔法でも森を燃やさないように出来た。


 さあて……こっからが本番って感じかな。


 気合い入れて頑張るとしますか!







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