102話 出発です
翌日の朝……準備を済ませ、獣人達が暮らしていたエリアにいく。
何故なら、魔の森へと続く扉を作ったからだ。
危険はあるけど、このエリアには人は住まないし……。
こうすれば、魔の森から直接魔物を誘い出すことも可能だからだ。
「マルス、無茶しちゃダメよ?」
「うん、ライラ姉さん」
「マルス、気をつけろよ? しっかり周りを頼れ。レオ、ベア、リンは俺達が鍛えておいた。最早、全盛期に戻ってきただろうよ」
「うん、ライル兄さん。色々とありがとう。ゼノスさんにバランさんも、みんなを鍛えてくれてありがとうございます」
ライル兄さんの側にいる二人に、相手が困らない程度に軽くお辞儀をする。
本当なら、こんな無償で奉仕させて良い相手じゃないんだ。
かたや魔法剣士で侯爵家嫡男、かたや若手の近衛騎士で最強と言われてる人だ。
「マルス様、頭をおあげください。本当なら私がお守りしたいですが……」
「ううん、バランさんには近衛をまとめてもらわないと」
「俺はついていっても良かったけど?」
「何を言ってるんですか? 嫡男である貴方を連れて行けるわけないです」
この人に何かあったら、オーレンさんの領地を継ぐ者が居なくなってしまう。
何より、シルクが悲しむ。
ここ一ヶ月の様子を見てたけど、物凄く仲が良い。
言い合いをしながらも、それぞれが心の中で認め合ってる感じかな?
「別に問題なくね? 最悪、マルス様が婿に入って継げば良いし」
「……へっ?」
「何を呆けてるんだ? 俺の可愛い妹と結婚しないと?」
その言葉に……俺は、リンと話しているシルクを見る。
「リン、頼みますわ」
「ええ、お任せください。この命に代えても、マルス様をお守りします」
「馬鹿を言わないでください。貴女も、無事に帰ってこないと怒りますわよ?」
「シルク様……はい、ありがとうございます」
……そうか、その可能性もあったのか。
全然、考えてなかったや。
すると、俺の肩を組んで……端っこの方に連れて行く。
「良い女じゃね? 好きな男の側にいる女に向かって、ああして本気で言えることが」
「す、好きな男……でも、そうですね」
「ところで……胸は揉んだか?」
「……はい?」
この人、何言ってんの!? 馬鹿なの!?
「その顔は揉んでないと……勿体無い、あんなに成長したのに」
「い、いや、そもそも結婚もしてないですし」
「かぁー! お堅い! 良いじゃんか、別に。いずれ貰ってくれるなら、少し早いか遅いかの違いだし」
……この人、本当にオーレンさんの息子? 軽すぎじゃない?
「そ、そういうわけにもいかないですよ」
「……触りたくないのか?」
「へっ? そ、そりゃ……触りたいですけど」
「なら——触ればいい。兄として、許可する」
「いやぁ……そういうわけにも」
触りないけど……そこで止まる自信がないし。
シルクのあれは……もはや凶器だよ。
「お・に・い・さ・ま?」
「げっ!?」
「し、シルク!? いつから!?」
「さ、先程からですわ……この——バカァァァ!」
「あべしっ!?」
盛大な平手打ちをくらい、ゼノスさんが吹き飛ぶ!
「も、もう! 何を吹き込んでますの!?」
「い、いや! 俺はだな! マルス様にリラックスしてもらおうと思って!」
「ほ、他に方法がありますでしょ!?」
「お、俺だって大変なんだよ! 孫か欲しいとか呟いてくる親父の愚痴を聞くの!」
「ふえっ!? お、お父様が!?」
初耳です……あのオーレンさんが、そんなこと言うとは。
「はぁ……どこの世界でも一緒ってことか」
「マルス様?」
「ううん、なんでもない」
ふぅ……アブナイアブナイ。
すると……何やら、シルクかモジモジしています。
「その……触りたいですの?」
「へっ? 何を?」
「だから……その、私の身体というか……」
き、聞かれてたァァァ!? どうしよう!?
「いやぁ? 別にぃ?」
「……マルス様?」
「……はい、ごめんなさい。だから、そんな目で見ないでください」
何やら、冷たい視線を感じます。
でも、男の子なんだから仕方ないよね!
「もう……その、あれですわよ? ……けっ、結婚したらいいですから……」
「ぐはっ!?」
何という破壊力! 最早ツンデレは何処に!?
そして、見事な天然ぶり!
恥ずかしがって縮こまってるから——はい、谷間が凄いです。
「マ、マルス様?」
「だ、大丈夫……ちょっと膝に来ただけだから」
「そ、そうですか……」
「うし! 頑張るぞ! 行ってくるよ!」
「ふふ……はい、お気をつけて」
シルク達に見送られ、俺たちは都市を出発する。
魔の森の前に来たら、真剣モードになる。
「主人、俺が先頭を行く。どんな攻撃だろうと、一撃は受け止めてみせる」
その筋肉隆々の肉体を、俺に示してくる。
元々体格良かったけど、さらに一回り大きくなっている。
さながら、ボディービルダーのようだ。
「では、私が次に。どんな相手だろうと、一太刀いれてみせます」
リンの佇まいは、最早達人の域に達している。
雰囲気っていうのかな? 凄みがある。
「僕は真ん中で、マルス様とラビちゃんをお守りします!」
シロは成長期ということもあって、体つきが逞しくなった。
ガリガリだったけど、肉がついてきて健康的な肉体だ。
昔のリンを彷彿させるね。
「わたしは音を聞きます! どんな音でも聞き逃しません!」
臆病だったラビも、少しずつ変わってきた。
きちんと言葉を発信するようになったし、目も合わせてくれる。
相変わらずドジだけど、それも含めて愛嬌だよね。
「なら、後ろの守りはオレに任せてくだせい!」
色々調べた結果、レオの能力はバランスが良い。
攻撃力、防御力、聴覚や嗅覚など……バランス良く優れている。
特に考えた陣形じゃないけど、結果的にベストを選んでいたらしい。
「みんな、頼りにしてるよ。それじゃ——行こう」
陣形を組んで、俺たちは魔の森へと入って行く。
覚悟しろ! 俺のスローライフを邪魔する者!
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