101話 ある意味で平常運転
着替えを済ませたら、俺も食堂へと向かう。
「シルク、おはよう」
「お、おはようですわ」
何やらモジモジしてるけど……はい、眼福です。
無意識のうちに谷間を寄せてますし、単純に可愛いです。
……よし! 領地開拓を頑張ろう!
男とは単純な生き物なのです!
そして、軽く食事をしながら……。
「それで、出発はいつにするのですか?」
「うーん……今日は、みんな調整中だからね。リンもでしょ?」
「ええ、ライラ様曰く……手強い相手だそうですから。私も、一ヶ月の成果をまとめる予定です。レオやベアも、今日のうちに万全の状態に仕上げると。マルス様の足手纏いにだけはなりたくないからと」
「そっか……うん、ありがたいね」
昨日は、我ながらチートを発揮したけど……。
みんな、それに頼りきるつもりはないみたい。
それぞれにできることを考えて行動する……きっと、それが正しい姿なんだよね。
「では、明日ですか?」
「そうだね。明日、出発しようと思う」
「そうですか……」
ん? なんだか、暗い顔をして……心ここに在らずって感じだ。
すると……リンが耳元で囁く。
「マルス様……不安を取り除いてあげないと」
「……なるほど」
そっか……シルクはついてこれないもんね。
癒しの力はあった方が良いけど……何かあったら、オーレンさんに合わせる顔がない。
「シルク、大丈夫」
「マ、マルス様?」
俺はシルクの両肩に触れ、こっちを向かせる。
「きちんと帰ってくるからさ……ねっ?」
「……はい、約束ですわよ?」
「うん、わかった。俺が約束を破ったこと……あるね」
つい、この間……今度は二人きりでデートだって言ったのに。
「ふふ、良いんです。ガツガツしてる殿方は苦手ですから」
「そ、そっか……」
あ、危なかったァァァ!
良かった! ヘタレで! ……少し複雑ですけど。
「でも……たまには良いですけど」
「そ、それじゃ……帰ってきたら、出かけようか?」
「はい!」
そう言って、満面の笑顔を見せてくれた。
ふぅ……どうやら、正解だったらしい。
女心というのは難しいです……。
食事を終えた後……散歩に出かける。
「ルリ、行くよ」
「キュイ!」
「ほんと、大きくなりましたね」
「まあ、一メートルくらいあるからね」
シルクは輸送隊と話があるので、リンと一緒に散歩する。
「キュ、キュ、キュ〜」
ふわふわと宙を浮かび、ご機嫌な様子だ。
「ところで、戦闘訓練はしないのですか? ドラゴンといえば、高位の存在で最強の魔獣とも言われてるみたいですけど」
「うーん……少し悩みどころだね。あんまり強いからって、無理矢理戦わせるのはなぁ……飛ぶ訓練は本人も楽しんでるけど、強いイコール戦いが好きって訳じゃないし」
「ふふ、なるほど。相変わらず、お優しい方ですね」
「別に、普通だと思うけど……俺たちに言葉はわからないけど、ルリの意思はあるわけだし。もちろん、本人がやる気なら問題ないけどね」
前世でも、自分の思い通りに育てようとする親や……。
ペットを、何かおもちゃのように扱う人達もいたけど。
あんまり、いい気分にならなかったし。
「ふふ……本当に、変わらないですね。私が戦いたいと言った時も、複雑な表情をしてましたからね」
「まあ……ね。今更だけど、無理してない? リンが強い種族なのは知ってるけど、それとこれとは話が別だし」
「いえ、無理も後悔もしていませんよ。むしろ、あの時の自分を褒めてあげたいくらいです。そのおかげで、こうしてマルス様のお役に立てますから……」
うーん……心配だ。
リンは、俺のことになると無茶するし……。
多分、主人としてほっとけない感じなんだろうなぁ。
「でも、最近も根を詰めてるし……」
「マルス様といえど、これだけは譲れません」
「そ、そう……俺に何か出来ることがあったら言ってね?」
「……大丈夫です……今、してもらいましたから。それに、この状況も……」
「へっ? ……何もしてなくない?」
「ふふ……ほら、行きましょう。ルリが待ってますよ」
ルリを追って、先に歩き出すリンの尻尾は……ゆらゆら揺れている。
つまりは、相当ご機嫌ってことだよね?
あれ? ……何したっけ?
考えてみたけど……よくわからない。
その後、散歩から帰ってくると……。
玄関の前で、二人が待っていた。
「マルス殿、戻ってきたか」
「マルス様、お帰りなさいませ」
「セシリアにシルク? どうしたの?」
「少し、良いだろうか?」
「はい、もちろんです」
「じゃあ、私はルリを連れて行きますね」
「キュイ!」
リンにルリを任せて、二人の後についていくと……。
厨房内に到着する。
「それで、どうしたの?」
「いえ、マルス様の確認を思いまして。セシリアさん、お願いしますわ」
「うむ……これなんだが、マルス様のお気に召すかな?」
そう言い、箱の中から何かを取り出す……。
黒い液体? 醤油とは違いそうだけど……まさか!
「よ、よく見せてもらっても!?」
「ああ、もちろんだ」
俺は恐る恐る……それを受け取る。
そして、ビンの蓋を開けて……確信する。
「ソ、ソースだァァァ!」
「ソース? それはわが国で一部の地域で作成しているタレだが……」
「い、いや! 文献にはソースって書いてありましたし!」
「そうなのか? ……まあ、良いか。どうやら、お気に召したようだし」
ふぅ……伝家の宝刀も、そろそろ厳しいなぁ。
いや……考えるのは、後でいい。
「もちろんです! シルク! これ買って! お願い!」
「わ、わかりましたわ! か、顔が……はぅ」
「わぁ!? ご、ごめん!」
いつのまにかシルクの両手を握って、思いきり顔を近づけていた!
「い、いえ……コホン! か、買い取らせて頂きますわ」
「ふふ、それは良かった。お酢を気に入ったマルス殿ならどうかと思い頼んでおいたのだ」
「セシリアさん! ありがとうございます!」
これで……トンカツ! 焼きそば! 色々食べられる!
なにより……今は、アレがある……冷凍しておいたアレが。
「でも……どうせなら、アレも欲しいよね」
ソースと仲良しと言えば……マヨネーズですね!
ふふふ……強い魔物かなんだか知らないけど……。
さっさと倒して、卵をゲットしないとね!
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