100話 平和な時間
ん……なんだ? 息苦しい?
そして……柔らかなものに包まれてる?
「ムグゥ……」
「スゥ……」
……そうだった。
あの戦いの後の夜、姉さんが一緒に寝ようって言ってきて……。
恥ずかしいけど、それで姉さんの不安が消えるならと了承したんだった。
「でも……くるちい」
「ん……」
抱き枕にされて、俺の顔は胸元に埋められてる様子……。
このままでは、窒息してしまう……!
「ね、ねえさん……!」
「……マルス? どうしてここに? あらあら、お姉ちゃんと寝たかったの?」
そう言い、俺の頭をいい子いい子してくる!
この人寝ぼけてるよ!確かに、小さい頃はよく寝てたけど!
「ち、違うよ……! 姉さんが、俺の部屋で寝てるんだよ……!」
「……あら、マルスが大きいわ」
「当たり前です……俺、成人してますから」
すると……力が弱まり、何とか脱出可能となる。
「ごめんなさい、マルス……少し寝ぼけていたわ」
「べ、別に良いですよ。ただ、俺も子供じゃないんで……」
「……でも——可愛いもの!」
「グヘェ!?」
再び、谷間に顔が沈み込む!
誰かァァァ! 助けてェェ——!
◇
……ふふ、素敵な時間だったわ。
「昨日は、思いっきり魔法を撃てたし……私と撃ちあえる人なんて、この国にはいないもの。実力もそうだけど、一応王女だしね……まさか、マルスがあんなに強くなったなんてね」
その私を、実力で完全に圧倒していたわ。
あんなに小さくて、可愛かったのに……。
「それが、いつのまにか男の子の顔になって……」
姉さんの幸せを願ってるとか……フフフ。
もう……私の出番は終わりってことかしら。
「寂しいような……嬉しいような……複雑ね」
まあ、マルスが可愛いことには変わりないから。
これからも、可愛がるだけだわ。
「久々に一緒に寝たけど、とっても幸せだったもの。また、頼んでみようかしら?」
そして、ご機嫌で歩いていると……。
「あら、セシリア」
「ライラか。随分とご機嫌だな?」
「ええ、それはもう」
「ふふ、いい関係だ」
セシリアとは、対等な友人関係にある。
同じ長女で、同じくらいの年齢、同じ王女……。
これだけ条件が揃ってる人もいないものね。
まあ……本当の家族になって良いくらいには気に入ってるわ。
あのライルで良いのかだけは疑問だけど……。
「貴女は……いえ」
「そう気を遣わないでくれ。まあ、私は妹達に嫌われてはいないが……やはり、色々とあるのだ」
「私で良ければ話を聞くわよ?」
「そうだな……それも良い。では、今度機会があれば相談しよう」
「ええ、いつでも良いわ。それより……あの馬鹿とはどう?」
あんなでも弟だし……少し気にはなるわよね。
「ふむ……良き御仁だと思う。下卑た視線もなく、真っ直ぐというか……慣れないものだ」
「あら……でも、わかるわ」
「ライラもか?」
「ええ……お兄様やマルスに、自分の幸せを考えてと言われたけど」
性格はきついし、今までモテた経験もないし。
こんな私を貰ってくれる人いるのかしら?
「お互い、恋愛には疎そうだな。まあ、行き遅れ同士……相談するとしよう」
「ええ、そうね。そういえば、何処に行こうとしてたの?」
「マルス殿に用があってな」
「あら、ごめんなさいね。もう起きてるから平気よ」
「そうか。では、失礼する」
セシリアと別れ、自分の部屋に戻る。
「恋愛かぁ……」
全然、考えてこなかったし……どうしたら良いのかしら?
「まあ……焦ることないわ。最悪、しなくても良いし。マルスとシルクの子供を可愛がる伯母さんっていうのも素敵よね」
そう決めた私は、着替えて食堂に行くことにする。
◇
その後……リンが入ってきたことで、何とか生還を果たす。
「ふぅ……ひどい目にあった」
「ふふ、よっぽど嬉しかったんでしょうね」
「まあ……良いけどさ」
姉さんはスキップしながら、ご機嫌に部屋から出て行った。
これで不安が消えるなら……尊い犠牲だよね。
おかげで、俺は死にかけたけど。
「ライラ様も、色々とお悩みらしいですから」
「そうなの?」
「ええ、シルク様と共に少しお話をしましたけど……これから先のことを、どうしようかなぁと。今までは、マルス様……家族のことしか考えてなかったみたいですから」
「なるほど……恋愛どころじゃなかったもんね。まあ、俺のやることは決まってるよ。世話になった大好きなライラ姉さんが、幸せになってくれたら良い。それが何であれ、協力をするだけだよ」
「ええ、そうですね」
姉さんは多分モテたけど……自覚はなさそうだし。
というか、恐れ多くて中々近づけないよね。
「良い人いないかなぁ……」
「ふふ、意外と側にいるかもですよ?」
「えっ? そうなの?」
「ええ、そういうものですよ」
「ふーん……まあ、とりあえず朝ご飯を……あれ?」
着替えをしようとすると、ノックの音が聞こえる。
「はい? だれかな?」
「すまない、マルス殿」
「セシリアさん? 入って良いですよ」
「では、失礼する」
律儀に返事を待ってから、一礼して入室してくる。
何というか……出来るカッコいい大人の女性って感じ。
姉さんとは、また違った意味で。
「どうかしましたか?」
「いや、今朝早くに本国から輸送隊が来てな」
「あっ、そうでしたか」
そういえば、一回視察しにくるって言ってたね。
俺ってば、そういうのは本当にダメだからなぁ。
ほとんど、シルクに任せちゃってるし。
「視察をしたいそうだが、構わないだろうか? シルク嬢に聞いたら、マルス様の許可が必要だと言われたのでな」
「まあ……シルクらしいね」
「ふふ、そうですね」
俺は、そんなこと気にしないけど……。
きっと、領主である俺をないがしろにしないためなんだろうなぁ。
「うむ、立派な女性だ。器量も良いし、頭もいい、気配りまで出来ると……ふふ、マルス殿は幸せ者だな?」
「はい、そうですね。ほんと、俺には勿体ないくらいの女性です。シルクは素晴らしい女性ですから。可愛いし、しっかり者だし」
「そうかそうか……だそうだぞ?」
「ひゃい!?」
あれ? なんか、変な声が……。
すると、セシリアさんの後ろからシルクが姿を見せる。
「あ、朝ご飯をご一緒しようかと思いまして……」
「そ、そっか! じゃあ、着替えるね!」
「わ、私は、先に行っておりますわ!」
そう言い、足早に去っていった……。
「ふふ、初々しいものだ」
「はめましたね?」
「何のことだ? では、私は先に頂いたので」
そして、セシリアさんも部屋から出て行く。
むぅ……中々手強い人だなぁ。
ライル兄さん……頑張ってね。
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