96話 状況整理
とりあえず、ルリから降りた後……。
「ベア、鞍とか作れる人いる?」
「ああ、俺が作れる。こう見えても、熊族は手先が器用だからな」
……そういや、前の世界でも聞いたことあったかも。
熊はバランス感覚や、手先が器用だったって。
「じゃあ、もう少し成長したら作ってもらえる?」
「ああ、任せておけ。ライラさん曰く、ドラゴンの成長は早いが……ある一定の成長をすると緩やかになるらしい。そのタイミングで作ればいいだろう」
「うん、それでお願い。様子を見ながら頼むとするよ」
ルリはどちらかというと、西洋タイプのドラゴンだ。
手足があって、ちょっと丸みがあって愛嬌がある……可愛いよね。
ただ、可愛いのも良いけどカッコいいのも見たい……成長すれば見れるかな?
ただ、俺が生きてるうちには無理かなぁ。
伝承では、数千年は生きる個体もいるっていうし。
その後、自室に戻り……珍しく、一人で机に座っている。
「さて、作戦前に確認だ」
俺が、三人の家族のために出来ること。
それを、今一度整理しないと。
「まずは、ライラ姉さんのは単純だ」
ひとまず、恋愛は置いといて……だって、姉さんにその気がないとね。
もししたい相手がいれば、応援はするけど。
確実なのは……魔法の実験と、その他の実験を手伝えばいい。
「あとは、一緒に過ごすことだよね」
それが、姉さんが一番望んでいることだからだ。
ここ数年は、こんなに会ってなかったから。
「ドライヤーも欠かさず、俺がやってるし……魔法の鍛錬は、俺にとっても利があるし」
次は、ライル兄さんかぁ……。
「どうしよう? 自分の恋愛というか……前世も含めて経験がなさすぎる」
助けるっていっても、何をすればいいんだろう?
「セシリアさんに、兄さんの良いところを伝えるのは良いとして……ほかに出来ること……やっぱり、セレナーデ国と仲良くすることかな」
幸い、セレナーデ国と我が国との道の整備は進んでいる。
このままいけば、二、三ヶ月である程度は形になるらしい。
「でも、兄さんを婿養子にするってこと? あっちにも、色々な事情がありそうだし」
その辺りも、タイミングを見てセシリアさんに聞いてみようかな。
「あとは、ライル兄さんが心置きなく恋愛できるように……もしかして、これはロイス兄さんのためにもなるのかな?」
国にいるダメな貴族を黙らせるためには……実績が必要だね。
あとは、国の経済を活性化させて……獣人と人族の関係性の改善。
ゆくゆくは、人口を増やしていけば良いのかな?
「となると、飼育作戦は……その、第一歩になるかもね」
もちろん、自分のためではあるけど。
牛乳とか、チーズとか、卵も欲しいし。
「ロイス兄さんのためにかぁ……何ができるだろう?」
王都に食糧を仕送りとか? ……良いかも。
でも、途中で馬鹿な貴族達がちょっかいをかけてくるかも。
きちんと民に行き渡るようにしないと……。
「送るなら、直接送った方がいいね。それこそ、ライル兄さんとか俺とか」
あとは他国との関係性かぁ……。
確か、東にある大国バルザークとは仲が良くなくて。
「俺ってば、全然勉強してこなかったからなぁ……ハァ、情けない」
「マルス様?」
「あれ? シルク?」
いつのまにか、シルクが隣に立っていた。
「大丈夫ですか? 頭を抱えていましたけど……具合でも悪いのですか?」
「へ、平気だよ!」
近いよ! 自覚して! 良い匂いがするから!
何より……童貞を殺す体型してるんだから!
「でも、おでこが熱くなってますわ……」
「き、気のせいだよ」
だから、前かがみにならないで!
心配してるからか、まるで無防備ですから!
「でも……」
「そ、それより! なんか用だったの?」
「い、いえ……マルス様は何処かなって……」
「うん? だから用があったんじゃないの?」
「むぅ……用がなきゃダメですの?」
……なんで怒ってるの?
待て待て、俺が何かしたのかな?
……何もした覚えがない。
しかし、女子というとは理不尽だと聞いたことがある。
とりあえず、何か言わないと……。
「ふ、二人きりだね!」
「ふえっ!? は、はぃ……」
「そういや、ここんとこ忙しくて……」
……それだァァァ!
今度二人で出かけようって言ったのに——出かけてない!
マルス君! ピンチです!
「あ、アレだね! お茶でもしようか!? シルクの入れたお茶が飲みたいな!」
「……ふふ、仕方ないですわ。すぐに入れますね」
すると……鼻歌を歌いながら、お茶の用意をし始める。
ふぅ……どうやら、難を逃れたようです。
近いうちに、またお出かけの誘いをしないとね。
その後、ソファーに並んで座り……。
「それで、どうなさったのですか? 何か悩みでも?」
「悩みというか……バルザークとの関係ってどうなってるの?」
「……マルス様」
冷たい視線が……怖いです。
「ご、ごめんなさい! 常識だよね!?」
「もう!……仕方ありませんわね。私が、少し教えて差し上げます」
「は、はい! よろしくお願いします!」
シルクと説明によると……。
東にある大国バルザークとは、大部分を山に囲まれた不毛な大地のようだ。
ゆえに、国内で争いばかりが起きていると。
その争いを鎮めるために、我が国を敵国としていると。
「なるほど……矛先をこっちに向けてるってことだね?」
「ええ、そういうことですわ。もちろん、あわよくば狙っていますでしょうけど。ただ、一番の目的は目を逸らさせることですわ。我が国が資源を独占しているから、自国が貧しいのだと」
なるほど……民はそれを信じて戦いに出るわけか。
「それって本当はどうなの?」
「もちろん、彼の国よりは良いですわ。ですが、分け与えるほどの物は……」
「だよね……そっか、それも解決できるかな?」
「えっ?」
「俺が食料問題を解決すれば、他国にも分けられるかなって」
「……問題は色々ありますが、実現すれば良い考えだと思いますわ」
つまり……食料問題を解決することが、結果的にロイス兄さんの助けになると。
「……決まりだね。なんとなく、流れが見えてきた」
「ふふ、良い顔ですわ。私も、お手伝いしますね」
「うん、お願い」
結局のところ、食料問題を解決すれば良いんだ。
セレナーデ国も助かるし、ライル兄さんのためにもなる。
姉さんも自国が潤えば、色々と考える余裕もできるだろうし。
では——やるとしますか!
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