外伝~リンの決意~

 ……マルス様が、本気になられたようですね。


 自分のしたいこと、すべきをことを明確に決めたみたいです。


 その背中は、以前より大きく見えて……。


 なんだか、胸が熱くなります……。


 そして……ようやく、私の誓いを果たす時がきたのかもしれません。


 マルス様が何かしたくなった時……その力になると。


 これは……私も、覚悟を決めましょう。





 その日のうちに、行動を開始します。


「ライル様」

「おっ、リンじゃねえか」

「リンさん、お久しぶりです」

「リンちゃんだっけ? よろしくね〜」

「バラン様、お久しぶりでございます。ゼノス様、リンと申します。以後、よろしくお願いします」


 バラン様は、王都にいた時から知っている。

 よくマルス様を一緒に探したり、時には稽古をつけてもらったり……。

 伯爵家出身なのに、私を対等に扱ってくれた、良き御仁である。

 ゼノス様は初対面ですが……私を見下す視線は感じません。

 流石は、オーレン様のご子息ということですかね。


「固いよ、もっとフランクで良いからさ」

「そうだぜ、こんな奴に敬語を使う必要ないぜ」

「全くです。ライル様にすら敬語を使わないのですから」

「おい? お前達も大概だからな? それを言ったら、伯爵家のお前が俺にタメ口とか……」

「ほう? ゼノス様とお呼びいたしますか?」

「わ、わかった! 俺が悪かった! 気色悪いから勘弁してくれ!」


 ……仲が良いなぁと思う。

 そして、こんな時思うことがある……私も、男だったらなと。

 そうすれば、マルス様の友人になれたかもしれない。

 この……恋愛感情という余計なものも含めて。

 私の想いは純粋ではない……。

 マルス様が好きだから、認めて欲しいから……行動しているに過ぎない。


「おい? 大丈夫か?」


 ライル様が、心配そうに見つめてきます。

 おっと、いけない……本題に入らないと。


「はい、平気です。それより、お願いがありまして……」

「ほう? 久々だな、お前にお願いされるなんて」


 マルス様の力になると誓った時、ライル様には稽古をつけてもらうよう頼み込んだ。

 今回も同じだが……気持ちは、あの時の比ではない。

 今の私は、あの方のためなら——全てを賭けられる。


「今一度、本気で稽古をつけて頂きたいのです」

「……ほう? お前の強さは、もう充分な域に達しているが?」

「足りないのです。マルス様が為さることのため、私は強く……いえ、あの方にとって一番頼られる存在でありたいのです」


 お世話になってるライル様に嘘はつきたくない。

 それに、言い方は悪いが……この方が、良いだろうし。


「ククク……あの時とは、まるで覚悟が違うな。わかった、可愛い弟のためでもある。俺が、お前を鍛え直してやる。そして……マルスの力になってやってくれ」

「はっ! それこそが、私の誓いです!」

「……ったく、不器用な奴だぜ。マルスも鈍感だし……まあ、シルク嬢もいるし……」

「そ、そ、それは!」


 うぅ……マルス様以外には、ばれてしまっているのに……。

 肝心のマルス様だけが気づいてくれない……。

 いや、気づかれても困るんですけどね……。


「なるほど、我が妹のライバルというやつか」

「い、いえ! 私は、そんなつもりはなくて!」

「面白そうだ!」

「はい?」

「俺も手伝おう! こう見えても、魔法剣士だからな!」

「あぁー……まあ、こいつも強いから安心しろ」


 ……オーレン様のご子息ということは、弱いわけがないですね。


「お、お願いします」

「いや〜妹のライバルを育てる! 実に楽しそうだ!」

「お前は相変わらず、シルク嬢の可愛がり方が歪んでいるな……」


 すると……何やら、すすり泣く声が……。

 ふとバラン様を見ると……泣いていた。


「おぉ……主君のために強くなる……素晴らしい考えです」

「は、はい、ありがとうございます」

「では、私もお手伝いいたしましょう。マルス様は王族です。その方を守るためというなら、近衛として協力は惜しみません」

「バラン様……感謝いたします」


 これで、鍛錬する相手に事欠かない。

 次は……ライラ様のところに行かなければ。




 ライラ様の部屋を訪ね……。


「あら、リン。一人なんて、珍しいじゃない」

「ライラ様、私は強くなりたいです」

「……なるほどね、マルスのためってわけ?」

「はい、今よりもっと……マルス様に置いていかれないように」


 マルス様の魔法の腕は、どんどんと上昇している。

 溜めも無くなってきたし、隙も減ってきた。

 もしかしたら、私の助けはいらないのかもしれない……。

 それでも……あの方の隣に立つのは私でありたい。


「ふぅん? ……じゃあ、色々と研究に付き合ってもらうわよ? それこそ、魔法耐性についてとか、闘気の持続時間とか使い方とか……きついわよ?」

「望むところです」

「フフ……いい目ね。まさか、あの時の子が……」

「ライラ様、ありがとうございます。あの時、貴女が許可をしなかったら……マルス様といられなかった。そして、こんなに幸せになることも……」


 そうだ……奴隷として生きる日々から救ってくれたのはマルス様だけではない。

 ライラ様が許可をして、色々と手を回してくれたからだ。

 それを、後になって知ったが……この方が、それを恩に着せたことはない。


「そんなつもりはなかったけど……まあ、貴女も可愛い妹みたいなものだわ。そのうち、本当に妹になるかもしれないしね?」

「それは、どういう……っ〜!!」

「フフ、顔が真っ赤よ? 我が弟ながら、鈍感でごめんなさいね……まあ、貴女の態度にも問題はあるけど」

「そ、それでは、そういうことで! 失礼します!」


 身体から火が出そうになって、思わず部屋を飛び出していく。


「わ、私が妹……それってつまり……」


 うぅー……こんな顔じゃ、マルス様の元に戻れない。


「でも、ひとまずこれで……」


 マルス様の力になるための、下準備が出来た。


 あの方達が一堂に会することなど、滅多にない。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。


 私は強くなる。


 だから、これからも……マルス様のお側に。

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