94話 マルス、覚悟を決める
その後、話し合いは進み……俺が気になってた話題に。
そう……ライル兄さんの話である。
「そんで、お前はいつまでいるんだ?」
「うっ……そ、それはだな」
「惚れた女がいるから、王都には帰らないってか?」
「わ、悪いか!」
「いや……お前の仕事なんて、あってないようなものだ」
「ゼノス!」
「良いって、バラン……へっ、わかってるよ」
なるほど……ゼノスさんは、兄さんに対して好き放題言う感じで……。
バランさんは、あくまでも友である前に臣下って感じなのかな。
もちろん、どっちがいいとかじゃなく……バランスが取れてるってことかも。
「まあ、ゼノスの言う通りね。ライルの役目は、兄さんの子供が……できれば男の子が生まれるまで死なないこと。それ以外は、どうでも良いわ」
「ああ、わかってるよ。それが次兄の役目だ」
「兄さん……」
「おっと、お前が気に病むこそはないぜ? 末っ子の役目は、俺達に可愛がられることだ」
「あら、良いこと言うわね。そうよ、マルス。これに関しては、気にすることはないわ」
「……ありがとう、姉さん、兄さん」
俺だけグータラしてて……今も、こうして自由にさせてもらって……。
一体、今までの俺は……何をしてきたんだろう?
俺は……この大好きな人たちに、何ができるだろう?
「へっ、相変わらず仲が良いことで。まるで、俺とシルクみたいだな」
「お兄様? 全然違うと思いますけど?」
「なんと!? 冷たい妹よ!」
「へぇ? お父様に……女性関係について、色々と誤魔化してあげたのは誰でしたか?」
「シルク様です!」
……兄妹にも、色々な関係があるみたいです。
でも、やっぱり……お互いに助け合うのが正解だよね。
「それじゃあ、ライルは残るのね?」
「ああ、そのつもりだ」
「実は、陛下からライル様に手紙を預かっております」
「なに?」
ライル兄さんが、手紙を受け取り……。
「なになに……『ライル、元気にしてるか? さて、本題だが……今は敢えて辺境にいると良い。俺が結婚したことで、焦った貴族共が……お前を再び担ぎ出そうとしている。そして、王女に関しては好きにしろ。今まで、お前を縛ってすまなかった』か……」
ロイス兄さん……自分の婚期が遅れたことを気にしてたんだ。
そのせいで、ライル兄さんが恋愛できないことを……。
「へっ……遠回しに言ってきやがって」
「ふふ、相変わらず素直じゃない人ね」
「それと、ライラ様にも……」
「あら、なにかしら?」
姉さんも手紙を受け取り……。
「どれどれ……『ライラ、マルスを可愛がるのもほどほどにな? さて……お前には色々と世話をかけてしまった……ライルやマルスのこと、俺自身のこと……母に代わって、色々と動いていてくれたこと感謝している……今更遅いかもしれないが、もう自由になって良い……け、結婚したいなら応援する』って……」
そうだよね……本来なら、姉さんはとっくに結婚してる年齢だ。
本人は、その気がないからとか言ってたけど……。
もしかしたら、俺達のために……。
「お兄様……そう……ご、ごめんなさいね」
「な、涙が……だ、大丈夫ですか!?」
「え、ええ、平気よ……ありがとう、バラン」
「い、いえ!」
「ほんと……素直じゃない人……面と向かって言えないからって」
姉さんの泣くところなんて、初めて見た……。
やっぱり、気を張って生きてきたんだよね……。
「最後に……マルス様にもお手紙がございます」
「お、俺にも……?」
な、なんだろ? 叱られるのかな?
「えっと……『マルスよ、俺を恨んでいるか? 今まで、すまなかった。お前の考えを知らずに、俺の意見を押し付けてしまった。俺は、お前にとって良い兄ではなかっただろうな……口うるさく、説教ばかりして……』
ロイス兄さん……そんなことないよ。
「グスッ……『亡き両親に代わって、お前には厳しくし続けるだろう……だが、忘れるな。俺は、お前を愛している……それこそ、ライルやライラに負けないくらいに。最後に……お前は、お前の生きたいように生きなさい。それが、両親を含めた……俺達の願いだ』って」
違うよ……逆なんだよ。
そんなことを知らずに、のうのうと生きていたのは……俺なんだよ。
恨んでもないし、感謝もしてるんだよ……。
「うぅ……良い話ですわ」
「へっ……否定はしない」
「陛下は、貴方達に自由にして良いと仰ってました。後のことは、俺に任せろと……それが、長兄である自分の役目だと」
「兄貴……」
「お兄様……」
みんなが、感極まり……次々と、部屋から出て行く。
そして、部屋には……俺と……ずっと黙っていたリンだけがいる。
「リン」
「はい、なんでしょう」
「俺はダラダラしたい」
「ええ、そうでしょうね」
「でも……その前に、やることがあるみたいだ」
この都市や、獣人のことだけじゃない。
「そうですか。ならば、私がお供いたしましょう。貴方の望みを叶えることが……私の幸せですから」
「リン、ありがとう」
スローライフを送りたい……。
でも、その前に……大切な人達に恩返しがしたい。
大好きな三人のために、俺に出来ることを考えよう。
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