93話 バランとゼノス

シルクの手を取って、領主の館に戻ると……。


「あはは! お前は相変わらず馬鹿だなぁ! 他国の王女に惚れるとは!」

「うるせえ! お前にだけは言われたくねえ!」

「ライル様は馬鹿ではない! 少し脳筋なだけだ!」

「お前もひどくね!?」


庭で、男三人がじゃれあっている。

その物言いには遠慮がなく、本当に仲が良さそうだ。


「へぇ、あんな感じなんだ……良いなぁ」

「マルス様?」

「俺、男友達っていなくてさ……まあ、リンやシルクがいたから寂しくなかったけどね」


でも、やっぱり男友達とは違うし……。

近くにいるとドキドキするし、どう対処して良いかわからない時もあるし。


「そうですわね……私にはリンやライラ様もいますし、領地にはお友達もいますけど」

「いや、俺が悪いんだけどね。今まで関わってこなかったからさ」


今更、男友達が出来るわけがないし……まあ、仕方ないよね。


三人の横を素通りして、館の中に入ると……。


「マルス、お帰りなさい」

「マルス様、お帰りなさいませ」

「リン、姉さん、ただいま」

「ただいまですわ。それで、アレにはお会いになりました?」


リンと姉さんが、顔を見合わせて……ため息をつく。


「ええ、会ったわ。相変わらずの男ね、貴方の兄は」

「あ、あれがシルク様のお兄さんとは……いえ、失礼しました」

「い、いえ、良いのですわ。ライラ様、ごめんなさい」

「良いわよ、別に。まあ、出会い頭にナンパしてきたのには驚いたけど」


うわぁ……勇者がいる。

見習う必要はないけど、少し羨ましい……。


「それで、どうするんですか?」

「そうなのよね……まさか、バランが来るなんて」

「まあ、国王陛下付きですからね」

「お兄様も、何を考えているのやら……とりあえず、貴方達は着替えてきなさい。そしたら、詳しい話を聞きましょう」





その後、自室に戻って……着替えると。


「マルス様」

「リン、入って良いよ」

「失礼します」

「いやぁ……なんか、大ごとになってきたよ」

「王族に近衛、王女に侯爵家ですか……確かに、すごい面子ですね」

「手配したのは良いけど、まさかバランさんが来るなんてね」


まあ、他国の王女がいるし……。

それだけ信頼できる者を送り込んだってことなんだろう。


「少し手狭になって来ましたね」

「それもあるね。というか、兄さんはいつまでいるんだろ?」

「結構いますよね。あと、ライラ様もお休みが終わるはずですが……」

「うん、その辺りも含めて話し合うんだろうね」

「ええ……来ましたね」


リンがそう言った時、複数の足音が聞こえてくる。


「マルス、入るわよ」

「はい、どうぞ」


そして、姉さん達が入ってくる。

ライル兄さん、バランさん、ゼノスさん。

姉さんに、シルクとルリか。

さすがに、他の獣人やセシリアさんはいないみたいだ。

多分、国家機密に値するし……。


「さて、早速だけど……バラン、ゼノス」

「はいはい、なんですか」

「なんでしょうか?」

「私と貴方達で話を進めるわよ。他のみんなは、ひとまず話を聞いてなさい」


全員が頷き……。


「では、私が話を進めるわ。まずは、ゼノスから説明しなさい」

「はいはい、わかりましたよ。俺はライルの馬鹿が他国の王女に惚れたっていうんで……その真偽を確かめにきたって感じっす」

「なるほどね。確かに、お兄様としては放って置けないわ」

「まあ、とりあえず本人から聞いたんで……一応、俺の仕事は終わりっす。あとは都市の様子や、シルクの様子を見てこいって親父に言われてたんで」


なるほど……オーレンさんの代わりってことか。

てことは、相当信頼されてるんだなぁ……見た目と違って。

銀髪はシルクと同じで、顔は優男風のイケメンだけど。


「そう……じゃあ、後で見てもらいましょう。バラン、貴方は? 国王陛下付きの近衛である貴方がくるなんて……」

「わ、私は、近衛です。王族の護衛に来てもおかしくありません」

「おいおい、聞いてくれよ。こいつってばよ——いてっ!?」


バランさんが、思いきり頭を殴った!

うわぁ……痛そう。


「き、貴様!」

「わ、わかったよ! 俺が悪かった! 全く、相変わらず冗談が効かないやつだ」

「お前は相変わらず口が軽い」

「ふふ、貴方達がそうしてるのも懐かしいわね」

「……そうっすね。昔は、よく一緒にいましたから」

「ライラ様にも、大変お世話になりました」


そうか……三人は幼少期から一緒だから、姉さんも知ってるってわけか。

俺が大きくなる頃には、三人もそれぞれの道に進んだってことか。

ふんふん、何となく関係性が見えてきたかも。


「まあ、正直言って……貴方が来てくれて助かったわ。貴方ほど実直で、真面目な人は滅多にいないから。ありがとう、バラン」

「も、勿体ないお言葉!」

「ククク……こいつが真面目ねぇ?」

「う、うるさい!」


……あれ? これってそういうこと?

バランさんは、姉さんのことを?

……姉さんは、全然気づいてなさそうだけど。


「コホン! 一応、女性の近衛も連れて来ましたのでご安心を」

「ええ、助かるわ。そこに破廉恥な男いるし」

「誰っすかね? ……はいはい、俺ですよー」


もしかして、ゼノスさんも?


……よくわからないや。


うーん……でも、なんだか波乱の予感がします。








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