92話 デート~結末~

 親子を見送って、俺が振り返ると……。


 あれ? シルクの側に男がいる?


 いつの間に……親を探しつつも、シルクの側から離れないようにしてたのに。


 俺は急いで近づき……。


「あっ——肩を抱いた?」

「ちょっ!? な、なんてことを聞くのですか!?」

「へへ、良いじゃねえか」


 その瞬間——俺の手は勝手に動いていた。


「風よ!」

「グヘェ!?」


 空気の弾丸を飛ばし、男だけを吹き飛ばす!


「シ、シルク! 大丈夫!?」

「えっ? あ、はい……」


 ほっ、とりあえず平気そうだ。

 俺は、そのまま男に近づき……胸ぐらを掴む。


「おい、お前」

「い、いてて……なんだ?」

「シルクは、俺の大事な女性だ。手を出すなら——覚悟しろよ?」

「ひゃう!?」

「あん? 何言って……ああ! マルス様か!」


 うん? 俺を知ってる?

 そういや、何処かで見たことあるような……。


「マ、マルス様!」

「あれ? 確か……バランさん?」


 近づいてきた厳つい大男は、近衛騎士団のバランさんだった。


「お久しぶりでございます、マルス様。どうやら、噂は真実でいらしたのですね。あの速さと的確さ……一流の魔法使いの証かと」

「う、うん、ありがとう」


 あ、相変わらず固い人だなぁ……まあ、だからこそ近衛師団なんだけど。

 しかも、十九歳という若さで、国王の護衛を任せられるほどの実力者だ。


「それにひきかえ……貴様! マルス様に何をした!?」

「な、なんもしてねえよ! いきなり、ぶっ飛ばされたんだ!」

「ちょっと!? 話が見えないんだけど!?」


 この人誰!? どうして、ここにバランさんが!?


「ま、待ってください!」

「シルク?」

「あ、あの……ごめんなさい……それ、兄なんです」

「……へっ?」

「マルス様が吹っ飛ばしたのは……わ、私の兄のゼノスなんですの」


 ……兄? あの軽薄な感じの男が、オーレンさんの息子?

 確かに、顔は似ている気がする……オーレンさんに。


「そう! 何を隠そう、俺がゼノス-セルリア! シルクの兄にして、貴方の将来の義兄である! その兄に対して、なんたる——グヘェ!?」


 あっ——シルクの平手打ちが炸裂した。


「も、もう! まだ義兄じゃありませんよ! そ、それに、お兄様が悪いんです!」

「お、俺はただ、久々にあった妹がお洒落をしてたから……ついに、マルス様に食われたのか確認を……」

「な、な、なっ——」


 シルクが口をパクパクして……固まってしまう。

 食われた……本当に、オーレンさんの息子なの?


「はぁ……申し訳ありません、マルス様。とりあえず、この馬鹿を連れて行きます」

「おい? 誰が馬鹿だ?」

「お前以外に誰がいる? ほら、行くぞ」

「ちょっ!? 引きずるな!」


 ……そして、二人が去っていく。


「えっ、えっと……シルク?」

「あぅ、あぅ……」


 だ、だめだ……耳まで真っ赤になって、プルプルしてる。


「あれ? そういや、ルリは……おい?」


 なんと、看板の上で寝ていた。


「……仕方ない、少し待つとしよう」


 放心するシルクの手を引いて、一緒にベンチに座る。






 それから、少し時間が経って……。


 ようやく、シルクが落ち着きを取り戻した。


「ご、ごめんなさい……」

「こっちこそ、ごめんね。まさか、お兄さんとは思わなくて」

「本当にごめんなさい……」

「まあ、お互い様だね」

「ふふ……そうですわね」


 俺にもライル兄さんがいるし……。

 そういや、シルクのお兄さんと仲がいいんだっけ。


「小さい頃以来会ったことなかったから、全然わからなかったよ」

「そうですわね。成人してからは、多忙なお父様に代わり領地を守っているので、滅多に王都には来ませんですし」

「……あれで?」

「……ゆ、優秀なんですの。軽薄なところ以外は……お父様が、それでも許すくらいに」


 なるほど……それは、相当優秀なんだろうなぁ。


「そういや、何しにきたんだろ?」

「バラン様は、マルス様が頼んだ護衛なのでは?」

「あっ、そういうことか。でも、お兄さんは?」


 あの人も護衛なわけがないし……。

 というか、バランさんって……国王陛下付きの近衛じゃなかった?


「わかりませんわ。と、ところで……マルス様」

「ん? どうしたの?」

「さ、先ほどのセリフは……その……」

「何か言ったっけ?」

「お、俺のごにょごにょ……」


 さっき俺は……あっ——。


「い、いや! あれは、その……嘘は言ってないし」

「そ、そうなのですね……えへへ」


 か、可愛い……早く、オーレンさんに認められないと。

 そうしないと……こっちの理性が保たない……!


「キュイ……」

「あら、ルリちゃん」


 フラフラとルリが飛んできて、シルクの腕におさまる。


「プスー……」

「あらら、お眠さんみたいですわ」

「そっか、ずっとはしゃいでいたからね。じゃあ、一度帰ろうか? シルクも、まだ足が痛いだろうし」

「はい……そうですわね」


 そう言って、少し残念そうな顔をするので……。

 立ち上がり、シルクのサラサラの髪を撫でる。


「ふえっ!?」

「その……あれだよ」

「 マ、マルス様……?」


 い、言え! 言うんだ! 俺!


「また、出掛けようか——今度は……二人でさ」

「……はぃ……喜んで」


 すると、花が咲いたように微笑んでくれた……。


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