91話 デート~中編~

 なんかよくわからないけど……。


 シルクの機嫌が、とても良い気がする。


 昔の事を思い出したっていうけど……。


 まあ、別にいっか。






 その後も、都市を散策して……。


「キュイキュイ〜」

「ふふ、ご機嫌ですわね」

「うん、それにしても……また大きくなったね」


 ルリは俺達の先を飛んで、優雅に空を泳いでいるけど……。

 数日しか経ってないのに、明らかに大きくなってる。

 もう、俺の頭に乗ったら大変なことになっちゃうくらいに。


「私も、抱っこするのが大変になってきましたわ」

「まあ、赤ん坊くらいはあるしね」

「あ、赤ん坊……!」


 何やら、シルクの顔が赤くなってる。


「どうしたの?」

「い、いえ! 何でもありませんわ!」


 なんか、変なこと言ったかな?

 ……赤ん坊……ま、まさか。


「し、シルクは……子供好きだったりするの?」

「ふえっ!? な、なんですの!?」

「い、いや……何となく」


 あれ? どっち? そういう意味じゃないの?


「き、嫌いじゃないですわ……」

「そ、そっか……」

「マ、マルス様はどうなんですの?」

「お、俺も、嫌いじゃないよ」


 き、聞けない!

 俺との……ことを考えてたの? なんて。

 でも……親かぁ……俺、ちゃんとした親になれるのかな?

 前世も含めて、俺は親を知らない。

 そんな俺が……親になっても良いんだろうか?


「はぁ……」

「マルス様?」


 おっと、いけない。

 今はデート中だ……暗い顔をしちゃダメだね。


「キュイー!」


 ルリが、路地裏の方に行こうとしている。


「ル、ルリ? どうしたの?」

「何やら、様子が変ですわね」


 ルリを追いかけいくと……。


「キュイ!」

「あっ! マルス様!」

「誰かいるね」


 路地裏で、一人の男の子が蹲っていた。

 多分、五歳くらい?


「だ、誰?」

「こんにちは。私はシルクと申しますわ。貴方、こんなところで何をしてますの?」


 シルクが真っ直ぐ近づき、優しい口調で男の子に問いかける。

 相手が子供とはいえ、少し危なっかしいけど……。

 これが、シルクの良いところだよね……俺は、そんなところが……。


「マルス様!」

「おっと……」


 俺も、近づき……。


「どうしたって?」

「この子、迷子ですわ。お父さんと一緒に来たって……」

「うん? この都市の子供じゃないってこと?」

「はい、そうみたいです」


 最近、この都市にも人が増えてきた。

 近くの村々から人々が来たり……。

 セレナーデ国からの住民なんかも来ている。

 これも、都市が少しずつ栄えてきた証拠だ。


「なるほどね。確かに、人が多くなってきたから迷子にもなるか」

「ええ、そう思いますわ」


 さて、どうしたものか……。

 俺達も警戒されてるし……。


「キュイー!」

「わぁ……! かっこいい!」


 どうやら、ルリのおかげで警戒が薄れたらしい。

 よし、なら決まりだ。


「君、名前は?」

「ア、アトス……」

「アトス、俺達についてくるかい? 一緒にお父さんを探すけど……」

「良いの!?」

「ああ、もちろんさ」

「あ、ありがとう!」

「ふふ……やっぱり、マルス様ですわ」

「うん?」

「いえ……じゃあ、探してみましょう」


 デート中なのに、シルクは笑顔で応えてくれる。

 シルクは……良い子だなぁ。




 その後、歩き出そうとしたけど……。


「キュイ?」

「あ、足痛い……ずっと歩いてたから……」

「ど、どうしましょう? 怪我なら癒せますけど……私が抱っこして」

「お、俺がやるから!」


 小さい男の子とはいえ、シルクに抱っこなんかさせられない!

 あの豊満な胸は……俺のじゃないけど、なんか嫌です。


「そ、そうですか? じゃあ、お願いしますわ」

「ふっ、少年よ——残念だったな?」

「へっ?」

「はい?」

「キュイ?」


 はい……残念だったのは、俺の頭の方でしたとさ。




 男の子を肩車して、都市の中を歩く。


「わぁ……! にいちゃん! 意外と力持ちだね!」

「ま、まあね!」


 い、いや! 五歳児を舐めてた! 結構きついっす!

 だが……俺にだってプライドはある!

 シルクの前で、かっこ悪いところは見せられない!

 ……今まで、見せすぎたし。


「ふふ、マルス様は良いパパになれそうですわね」

「キュイ!」

「そうでしたわ。すでに、ルリちゃんのパパですものね」

「キュイキュイ!」

「そ、そうかなぁ……」

「ええ、きっとなれますわ……私が保証します」


 な、なんだか照れるなぁ……。





 その後、探し回っていると……。


「キュイ?」

「だ、大丈夫ですわ……」


 うん? シルクの様子が変……。

 いや……それもそうだよね。


「シルク、足が痛いんだね?」

「うっ……はぃ」

「お姉ちゃんも?」

「へ、平気ですわ。さあ、この子の親を探しましょう」


 ……本当に、優しくて気高い女の子だなぁ。


「ダメだよ、シルク」


 俺はすぐに、即席のベンチを作り出す。


「ほら、ここで座ってて」

「で、ですが……」

「ルリ、シルクのことを頼んだよ?」

「キュイ!」

「ほら、寒いから着てて」


 俺は上着を脱いで、シルクの肩に着せる。


「ご、強引ですわ……」


 何故かわからないけど、シルクの頬が赤くなってる。


「じゃあ、じっとしててね」

「……はい、お気をつけて」





 下手に動き回ると、会えないかもしれないので……。


周辺を歩いて、しばらくすると……。


「あっ! パパ!」

「アトス!? どこに……その方は、まさか……マルス様!?」


 すぐに壮年の男性が駆け寄ってきて、膝をつこうとするので……。


「ああ、跪かないでください。今は、ただの迷子案内のマルスですから」

「で、ですが……」

「パパ? どうしたの? このお兄ちゃんの知り合いなの?」

「こ、この方は、この都市の領主様だ。ほら、早く降りなさい」

「はーい」


 アトスを下ろし、男性に引き渡す。


「こ、この度は、息子がご迷惑を……」

「そういうのは良いですから。今度は、はぐれないようにしてくださいね」

「は、はい! ありがとうございました!」

「にいちゃん! ありがとう!」


 二人が礼を言って、去っていく姿を見て……。


「父親か……いつか、なれるのかな?」


 そんなことを思うのだった。

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