幕間~ロイスの戦い~

 さて……今頃、あいつらは到着してるかな。


「まあ、つまり……手紙を読まれてしまうということだが」

「まだ、言ってるのですか?」

「宰相、そうは言うがな……威厳ある長男として……照れ臭いものがあるのだよ」


 あいつらに、面と向かって言えないから手紙にしたが……。


「なあ、次……どんな顔して会えば良いと思う?」

「そんなのは知りません」

「はぁ……だが、これでしばらく会うこともあるまい」

「では、今のうちに?」

「ああ、腐った者共を排除する」


 ライラやライル、ましてやマルスの手を汚させはしない。

 これは、俺がすべきことだ。

 たとえ、兄弟の中で一番弱くとも。

 妹や弟を守る……それが、長兄の役目だ。


「しかし、手持ちのカードで出来ますか? 冒険者ランクに例えるなら、A級クラス以上の方々がいませんからね」

「たしかにゼノスがいない今、オーレンは出てこれない。ライルに匹敵するバランもいない……優秀な魔法使いのライラもいない。だが、俺とて遊んでいたわけではない」


 それに、これは政治の戦いだ。

 戦いではなく、話し合いで勝利をする。


「何より、もう……あいつらは、十分にやってくれた」


 ライラは、優秀な魔法使い達を育ててくれた。

 ライルは、近衛や兵士達を屈強な男に鍛え上げてくれた。


「そして……マルスだ」


 セレナーデ王国との関係が改善すれば……様々な問題が解決する。

 食料問題しかり、住民の増加……何より、経済の活性化だ。


「ええ、正直言って驚きました。まさか、セレナーデ国王と対等に渡り合えるとは……シルク嬢が話し合った内容を確認しましたが……特に、我が国に不利な点はございませんでしたから。つまり、あちら側も助かる点が多いと言うことです。マルス様が新しい魔法を開発したとか……いやはや、驚きですな」

「ああ、ヒートとか言っていたな……こちらにも送られてきたが、あれは良いものだ。他の貴族達も、相当気に入っていたし……よき土産を持ってきてくれたものだ」

「ええ、他にもローストビーフなるものも美味でしたし……マルス様の評判も上がっております」


 それに、ずっと……両親が気にしていた奴隷についても。

 両親は奴隷解放を目指していたんだと思う……実際に聞いたことはないが。

 俺は、それを感じつつも反発を恐れて……情けない。


「ああ、それに伴い……一部の貴族達の反発もな」

「ええ、奴隷を手放そうとしない……いえ、不当に扱っている彼らを解放しようとしない者達ですな」

「ああ、そうだ。何も、すぐに解放なんてことは無理だ。だが、不当な扱いだけは許してはいけない。俺もリンという……妹のように思っている獣人もいる。マルスを通じて接するうちに気づいた……俺らと、何ら変わりはないことを」


 何より、彼女はマルスの良き理解者になってくれた。

 時に友として、従者として……家族として。

 そうだ……獣人とだって、家族になれるんだ。

 それを、マルスが教えてくれた。


「では、何から始めますかな?」

「まずは、あぶり出す。ライルやライラ、そしてオーレンが動けないことで……動き出す輩がいるだろう。俺を舐め腐っている古参の連中がな?」

「ええ、何人かいますね。残る二つの侯爵家、伯爵家が三つほど……では、切り崩してまいりますか?」

「ああ、これより……行動を開始する。奴らも、今から動くとは思っていないはず」


 俺が舐められてることを逆手にとってやろう。

 今は冬で、隣国も攻めてこないだろうしな。

 春までに、少しでも体制を整える。


「そうですな……育ててきた若い種も、成人を迎えましたからね。私も含めて、老害は消え去るべきですね」

「おいおい、お前には頑張ってもらわないと」

「いえ、もし平定した暁には……私も、職を降りるつもりです。そうしなければ、説得力がありませんから」

「そうか……そこまでの覚悟か……わかった、健やかな老後を過ごせるようにしてやろう」

「ええ、お願いしますね」


 父の代から仕えているルーカスだ……。

 もっと助けて欲しいが……休ませてあげたいな。

 そのためにも、国内を完全掌握しなくては。


「よし……今度は——俺の番だ。三人が協力してくれたことを、俺がまとめてみせる。ルーカス、最後の仕事だ……手伝ってくれるか?」

「もちろんです、国王陛下。それが、亡き先王より……貴方様の父上に託された想いです」

「感謝する……お前とオーレンがいなければ、俺はただ椅子に座るだけの存在になっていただろう。お前とオーレンの願い……父上と母上の願いは、

「……ご立派になられて……見て頂きたかったですな……」

「大丈夫さ、きっと……何処かで見守ってくれてる」


 父上……母上……弟や妹達は、立派に成長しました。


 もしかしたら……一番の未熟者は、俺かもしれませんね。


 戦闘力もなく、魔力もなく……ただ、人より少しだけ賢しいだけ……。


 それが、たまたま長男だったから国王になった。


 ライル、ライラ、マルス……あとは、不出来な兄に任せてくれ。


 そして……少しくらい、カッコつけさせてくれ。






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