89話 デート~前編~

 ……どうしよう?


 ひとまず、ルリを高い高いしてみたけど……。


「ルリ……まずは土下座かな?」

「キュイ?」

「それとも、平手打ちで済むかな?」

「キュイ!」

「うん? 大丈夫だって?」

「キュイキュイ!」


 喜怒哀楽の表情が豊かだからか、何となく言いたいことがわかる。

 ルリは『大丈夫だよ!』って言ってるみたいだ。


「そうだといいけど……」


 せっかくのお出掛けなのに、土下座や平手打ちから始まるのはなぁ……。

 もちろん、悪気がなかったとはいえ……未婚の女性の下着姿を見て……。

 うん、土下座くらいなら安いものだね。


「マ、マルス様?」


 扉が少し開いて、シルクが顔だけ覗かせる。


「シ、シルク! その!」

「い、良いですから! その、謝らなくても……」

「へっ? 平手打ちは? 土下座くらいならやるけど?」

「い、いけませんわ! マルス様は王族なんですよ?」

「それとこれとは話が別だよ」


 そんなの、前世から一番嫌いなタイプじゃないか。

 偉ければ何をしても良いし、謝らなくて良いなんて……。


「ふふ……マルス様らしいですわ。私は、そんなところが……」

「うん?」

「いえ、何でもありませんわ」


 理由はわからないけど……シルクの機嫌が良い?

 まあ……とりあえず、土下座はしなくて良いらしい。


「えっと……なら、何で隠れてるの?」

「そ、それは……お、女は度胸ですわ……!」


 すると、ゆっくりと……ドアが開いていく。


「おおっ……」


 普段の清楚系の白や青ではなく……。

 エレガントな雰囲気の赤いドレスを身にまとっている。

 肩が見えているし……ある部分が強調されてます。

 化粧もグッと大人っぽくなって……ドキドキしてきた。


「へ、変ですか……?」

「い、いや! その……似合ってると思います」


 いかん! つい敬語になってしまった!

 いきなり、可愛い系から綺麗系に進化するからだよ!


「えへへ……嬉しい」

「そ、そっか……」


 ど、どうしよう!? いつもと違うから勝手がわからない!

 リンエモ○! ……はいないんだった!


「キュイー?」

「ルリちゃん? ……もしかして、褒めてるのかしら?」

「キュイ!」

「ふふ、ありがとう」


 そうだ! 俺にはルリエモ○がいた!

 ルリなら連れて行っても、デートに問題ないはず!


「ルリはどうする?」

「置いていくのは可哀想ですわ。ただ、流石に抱っこは……ルリちゃん、自分で飛ぶなら連れて行きますわよ?」

「キュイ!」


 パタパタと空を舞い、喜んでる様子だ。

 ほっ……これで、少しは楽になりそうだ。

 でも、少しはそれらしいことをしないと……。


「シルク、迎えにきたよ——俺とデートして頂けますか?」


 貴族式の礼をし、手を差し出す。


「は、はぃ……喜んで」


 すると、花が咲いたように微笑んでくれた。






 シルクの手を引いて、階段をゆっくり降りていく。


「ボス〜!」

「師匠! 頑張って〜!」

「御主人様! ファイトです!」


 応援してくれてる三人の後ろでは、ベアとリンが微笑んでいる。


「て、照れますわね……」

「そ、そうだね」


 いや、少しお出かけするだけなんだけど……。

 まあ、でも……嬉しいよね。






 外に出たら………。


「どこに行くんですの?」

「外は危ないからね。とりあえず、都市の中を散策しようか? 仕事以外で、見て回ることなんてないし」

「ええ、そうですわね」

「キュイ!」


 楽しそうなルリと共に、都市を歩いていく……。





 すると……。


「シルク様!」

「こんにちは!」

「この間はありがとうございます!」

「お洋服、素敵ですね!」


 シルクが、獣人や人族に関わらず、次々とお礼を言われている。


「キュイー!」

「ルリちゃんだ!」

「可愛い!」

「魔石食べる!?」


 どうやら、ルリは子供達に大人気の様子。

 まあ、あんなに可愛いしね。


「随分と人気だね?」

「い、いえ……その、怪我人とかを癒していたら……」

「ああ、なるほどね」

「あと、視察ついでにルリちゃんとお散歩したり……」

「それで、あの人気なんだね」


 基本的に、俺は引きこもってるしなぁ。

 住民達には、宴の時だけ出てくる人とか思われてそう。


「うわぁ!?」

「おっと、平気かな?」


 どうやら、人族の男の子に体当たりされたみたいだ。


「す、すみません! うちの子が! こら! マルス様は王族の方なのよ! 謝って!」

「ご、ごめんなさい……」


 お母さんが、土下座をさせる勢いで謝ってくるので……。


「気にしなくて良いですよ。ここには煩くいう人はいないですから。ただ、次からは気をつけようね?」

「は、はいっ!」

「あ、ありがとうございます!」


 親子を見送り、再び歩き出すと……。



「ふふ……」

「どうしたの?」

「何でもありませんわ——あっ」

「うん?

「い、いえ……」


 何だろ? 震えてる?

 ……馬鹿か! 冬を越したとはいえ、まだ寒いに決まってるじゃん!


「さ、寒いよね!?」

「へ、平気ですわ……初めてのデートは、これを着るって決めてましたもの」

「ごめんね、俺の誘うタイミングが悪かったね……」

「そ、そんなことありませんわ! う、嬉しかったです!」


 どうしよう? 上着を着せる? お店に入る?

 そしたら、お洒落したのに可哀想だし……。

 ……あぁー……一つだけ案が浮かんだけど……良いのかな?

 ……男も度胸だ!


「し、失礼します!」

「ひゃん!?」


 勇気を出して……シルクの肩を抱き寄せる!

 グォォ!? 近い!? 良い匂いするし、おっぱいが当たってる!


「マ、マルス様!? な、何を……あっ」

「ど、どうかな?」

「あ、暖かいですわ……」

「こ、このままでも良いかな?」

「……はい」


 俺は肩を抱き寄せる際に、ヒートの魔法を発動させておいたのです!


 さらに風の壁を作って、冷たい風を相殺する!


 そうすれば、シルクも寒くないし、俺も合法的に……ゴニョゴニョ……。


 とりあえず——魔法チートをくれた神様! ありがとうございます!

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