88話 デート前に……

 次の日は疲れていたので、のんびりと過ごすことに……。


 つまりは——デートです!


「ど、どうしよう!?」

「落ち着いてください。別に、普段通りでは?」

「ち、違うんだよ!」

「はぁ……そうですか」


 今の俺は、前世の記憶を取り戻したおっさん!

 昔みたいに、お出掛けなんか出来ません!

 記憶を取り戻す前の俺は、一体どんな身分で美少女と出かけてたんだ!

 ……そうだった、俺は王族でしたね。

 記憶を取り戻したら、すぐに王都を出たからなぁ……その辺の実感がない。


「よ、洋服は!?」

「まあ、正装のが良いですね。王都から着て来た貴族服で良いのでは?」

「そ、そうだね!」


 青い貴族服を取り、急いで着替える。


「ちょっ!? わ、私、いるんですけど!?」

「へっ? 今更? 別に裸になるわけじゃないし……」


 あれ? 普段から、これくらい見てるはずだけど……。

 なんか、そう言われたら……こっちも恥ずかしくなってきた!


「そ、そうですけど……マルス様も、成人したのですから。なにより、そんなことではシルク様に叱られてしまいますよ?」

「むっ……言われてみればそうだね」


 その光景はありありと目に浮かぶ……ハレンチですわ!とか言いそう。

 でも、少し言われてみたいと思う——マルス君なのでした。





 ひとまず、着替え終えたら……。


「さて、あとは来るのを待っていれば良いのか」

「……はぁ、マルス様。いくら王族とはいえ、親しい女性を部屋に来させると?」


 うん、よくよく考えたら……ないね。

 前世だろうが、今世だろうが……ありえないことはわかる。


「む、迎えに行くのかぁ……」

「ふふ、何気に初めてなのでは?」

「そうなんだよ! 出かけるのもシルクから、迎えに来るのもシルクから……うわぁ」


 自分で言って、以前の己の行動に寒気がする……。

 本当に……シルクは、よく婚約破棄しなかったと思う。


「よ、よし! い、言ってくりゅ!」

「ププッ!?」

「ぐぬぬ……ラビみたいになってしまった」

「ご、ごめんなさい……はい、いってらっしゃい」






 こ、ここがシルクの部屋かぁ……。


 何気に、来るのは初めてなのだ。


 女性側の部屋に行くには、男性側の階段を下りて……。


 一階にある女性側の階段を上っていかないといけないから。


「それで、ライル兄さんも嘆いてたんだよね」


 まあ、護衛するためには当たり前のことだけどね。

 なにせ、王女、王妹、侯爵令嬢がいるわけだし……。


「そりゃ、マックスさん達が悲鳴をあげるわけだ……」


 女性の見張りの人に許可を得て、階段を上っていき……。


 シルクの部屋の前に到着する。


「き、緊張してきた……コホン……」


 静かに、ドアをノックして……。


「シルク、迎えに来たよ。準備はできてるかな?」

「マ、マルス様!? む、迎えに来たんですの!?」


 あ、あれ? 何か不味かったかな?

 ノックしたらいけないんだっけ?


「う、うん! ダメだったかな?」

「い、いいえ! しょ、少々お待ちください!」

「あ、慌てなくていいから! ゆっくりでいいよ!」


 すると……。


「キュイー!」

「ル、ルリちゃん! ダメですわ!」


 扉を開けて、ルリが出てきて……俺の胸に飛び込んでくる。


「「へっ?」」


 俺の目の前には……白い下着姿のシルクがいる。

 うわぁ……どうしよう、目が離せない。

 いやらしいとかじゃなくて……とっても綺麗だから。


「キャ……キャァァ——!?」

「ご、ごめんなさい!!」


 俺は急いで扉を閉める!


「キュイ?」


 ルリが、つぶらな瞳で俺を見つめてくる。

 まるで、どうしたの?とでもいうように……。


「ルリ……」

「キュイ〜!」


 俺は黙って、ルリを優しく撫でる。

 良いもの見せてもらった……ルリ、ありがとう。

 ただ……この後のことを考えると——背筋が寒くなってきます。






 ◇



 あぅぅ……見られてしまいましたわ。


「と、殿方に下着姿を見られるなんて……お嫁にいけないよぉ」


 マ、マルス様だから良かったですけど……。


「って——良くないですわ!」


 い、いくら、好きな殿方で元婚約者だからって……。

 むぅ……あとで引っ叩かないと……ダメダメ。


「今日は、楽しみにしてたデートの日ですし……マルス様だって、悪気があるわけじゃありませんもの」


 きっと、私がいつも迎えに行っていたから……。

 それで、今日は迎えにきてくれたんだと思いますし……。


「その気持ちが嬉しいですもの……」


 苦しくなって、自分の胸に両手を当てる……。


「ずっと、待ってたんですもの……」


 マルス様が、デートに誘ってくれるのを……。

 婚約者として紹介された日から、今日までずっと……。


「だから、着替えるのに手間取ってしまいましたし……」


 どんな服が良いのか迷ってしまって……。

 だから、ルリちゃんも 悪くないし……むしろ、私が遅いのが悪いのですわね。


「ふぅ……危ないところでしたわ」


 折角の楽しい時間を、台無しにしてしまうところでした。


「では……これにしましょう。ライラ様がくださった物ですし」


 ただ、私には少し早い気がして……迷っていました。


「でも、私だって成人しましたし……が、頑張ります」


 私は選んだ服を着て……鏡の前に立ちます。


「か、肩が出てますわ……」


 む、胸も強調されてますし……。


「い、今更、後にはひけませんわ……!」


 マ、マルス様は……喜んでくれるでしょうか?

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