87話 みんな宴が好きです

 まずは、キッチンに向かい……。


「さあ、シロ! 疲れてるけどがんばろー!」

「がんばります! おぉ〜!」


 拳を突き上げて、二人でやる気を出します!

 シロだって休みなしで疲れてるけど……。

 俺だって、全身が筋肉痛です!

 シルクの癒しは、こういうのには効かないし……。

 でも——膝枕で大分回復したけどね!


「はいはい、何からやりますか?」

「リン、君だけは元気だね。じゃあ、解体を……」

「もう終わってますよ。マルス様が寝ている間に、私達がやっておきましたから」

「使い方がわからないものは、マルス様に聞こうと思って取ってあります!」

「あらら、仕事が早いことで。ありがとね、二人とも」


 となると……まずは、あれか。


「ゲッコウが美味しいかわからないからね……お寿司を作ります!」

「わぁ……! あれ、美味しかったです!」

「具材はなんですか?」

「サーマスのお刺身です! シロ、生で食べられるか確認したね?」

「はい! 僕の鼻が平気だって言ってます!」


 ふふ、色々な意味でこれを待っていた!

 シロの強化された鼻のおかげで、食えるか食えないかは判断が付く!

 そして——念願のわさび寿司だァァァ!


「白米を炊くゾォォ——!」

「はい! もう炊いてます!」

「酢飯にするゾォォ——!」

「はい! それはまだです!」

「わさびを……わかった! わかったよ! ごめんなさい!」


 リンが、俺の頭を叩く姿勢に入っていた!

 ふぅ……アブナイアブナイ。


「全く、たまには静かに作れないんですか?」

「無理だよ! 俺が、これをどれだけ楽しみに……!」

「わ、わかりましたから」


 寿司とは、日本人のソウルフードなのだ!




 その後、ご飯を炊いてる間に……。


「砂糖とお酢、昆布だしと塩を混ぜて……」


 これで、酢飯用のタレの完成だ。


「サーマスはどのように?」

「シロ、お手本を見せるからね」

「お願いします!」


 俺はサーマスの腹の一部分を、斜めに切り込みを入れていく。


「こんな感じでよろしく」

「なるほど〜お米と合うサイズってことですか?」

「うん、そういうことだね」


 そのあとは、シロに任せて……。


「じゃあ、こいつを味見しないとね……」


 俺の目の前には、肉の塊がある。

 ゲッコウの肉っていうから、どんなグロテスクかと思ってだけど……。

 どう見ても、美味しそうな鳥モモだ。

 そういえば……カエルの味は鶏肉に近いってきいたような気がする。


「生ではいけないって言ってたから……煮る? 焼く? 蒸す?」


 味付けは……まずは、塩だけで焼いてみるか。

 鍋に油を入れ、肉を焼いていく……。


「う〜ん、いい香りだね。それに、どんど脂が出てくるね」


 これなら油をしかなくても良かったか。


「さて……こんなもんかな」


 菜箸でもも肉を摘み、口に入れ——。


「むっ……うみゃい!」


 弾力のある歯ごたえ! 噛めば噛むほど旨味が溢れ出る!


「自分へのご褒美として、何回か食べたことある地鶏……名古○コーチンに近い?」


 やっぱり、鶏肉に近いんだ。

 しかも、ゲルバより美味しい……。

 うん? そうなると……ゲルバは食べなくてもよくなる?


「つまりは……ゲルバは飼育するだけで、卵を産ませることにすれば……」


 あれ? そういえば、ワイバーンの卵は?


「リン、ワイバーンの卵は?」

「あっ、マルス様が寝ている間に……ライラ様が、孵化させたいって言ってましたけど」

「へっ? あれを孵化させる? じゃあ、卵は使えないか」


 親子丼的な物を作りたかったけど……種類は全く違うけどね。


「じゃあ、とりあえず醤油系で味付けして……網で焼いた方が宴っぽいね」


 醤油、砂糖、酒、みりんを鍋に入れ……とろみがつくまで火にかける。


「リン、同じものを大量に作って」

「わかりました」

「そしたら、俺は……」


 すると、いつ嗅いでも素晴らしい香りがする。


「おっ! 米が炊けた! じゃあ、握るとしますか!


 炊きたての米に、先程作った酢飯用のタレを入れ……。


「うぉぉぉ!!」


 米を潰さないように、切るように混ぜる!

 イメージ的には混ぜるより、ひっくり返す感じで!


「そしたら、風の魔法をうちわ代わりにして……」


 左手で風を、右手にしゃもじを持って……ゆっくりと、ひっくり返し続ける。


「よし、こんなもんか」


 最後にわさびをすりおろして……。


「師匠! できました!」

「こっちもです」

「ありがとう、二人共。じゃあ、いつもの広場に行こうか」




 いつものように魔法で椅子やテーブル、簡易的なコンロを作り……。


「領主様! きましたよ!」

「今回はなんですか!?」

「みんな楽しみにしてましたよ!」


 次々と人々が集まってくる。


「今日は特別なものだよ! みんなが食べたこともないようなやつ!」

『オォォォ——!!』


 住民から歓声が上がる。

 ふふ、みんな宴の良さがわかってきたみたいだね!


「シロ! 次々やるよ!」

「はいっ!」

「わたしも!」

「では、私も」


 女性陣は寿司を手伝ってくれ……。


「じゃあ、オレは肉を焼くぜ!」

「うむ、俺達でやっておこう」


 ゲッコウの串焼きは、男性陣にお任せする。


「じゃあ、お手本を見せるからね」


 米を一掴みして、寿司の形に整形する。

 そしたらわさびを乗せ、サーマスの刺身を乗せれば……。


「これでサーマス寿司の完成だ!」


 みんなも、見様見真似で作っていく。

 不恰好なのもあるけど、それも手作り感があって宴っぽいよね!





 すると、ライラ姉さん達といたシルクが駆け寄ってくる。


「ま、マルス様!」

「シルク?」

「わ、私もやっても?」

「へっ? い、いいけど……」


 隣で銀髪の美少女が、お寿司を一生懸命に握っている……。

 なにこれ? 可愛いんですけど?

 これだけでお金取れるんじゃないの?


「えへへ、楽しいです」

「そ、そうだね」


 いつものツンとした感じではなく、子供みたいに笑っている。

 口調も、いつもより柔らかい。


「その……今回は置いていかれちゃいましたから」

「ああ、そういうことね」

「待ってるのって……心配なんですよ?」

「そうかもね。じゃあ、次は付いてくるかい?」

「はいっ! も、もちろんですわ!」


 あっ、いつものツンに戻った。

 どっちも、可愛いから良いけどね!



 その途中で……。


「ほれ! マルス!」

「ありがとう! 兄上!」


 作業してる俺に、兄上が焼きゲッコウの串焼きを食べさせてくれる。


「ウマっ! これは……コリコリしてる!」


 弾力があって食べ応えがある! 旨い!


「こいつ、色々な部位があるみたいだぜ」


 本当に鶏肉みたいなやつだな。

 これは……色々と使い道があるね。

 もっと味を堪能したいけど、今はこっちに集中しないと……。







 そして……念願の時が訪れる。


「で、できたァァァ!」

「つ、疲れました」


 他のみんなも、お疲れの様子。

 何せ、作る数が尋常じゃない。

 従業員やお母さん方も手伝ってくれたけど。


「マルス様! 美味しいです!」

「こんなの食べたことありません!」

「ありがとうございます!」


 獣人と人族が、一緒になってお礼を言ってくる。


 そうそう、このために頑張ったんだよね。


 もちろん、自分のためではあるけど。


「マ、マルス様」

「うん?」

「わ、私が握ったものですわ! た、食べたかったら食べても……」

「はい?」

「ア、アーンですわ……」


 恥ずかしそうにしながら、俺に寿司を差し出している。

 ……なにこれ? 美少女の握った寿司とか、お金払わなくていいの?


「えっと……」

「は、早く食べてください……」


 ぐはっ!? 馬鹿か! 俺は!?

 勝手に脳内変換をするんじゃない!


「い、いただきます……旨い! とにかくうみゃい!」


 ツンときいたわさびからの、甘みのあるサーマスの刺身!


 シルクのツンから、甘さたっぷりのデレ!


 これが相乗効果を発揮している!


 俺……なに言ってんだろ?


 まあ、別に良いか。


 とりあえず、言えることは……大満足です!


宴は最高だね!!

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