85話 調査~レオ視点~



 生前の母から、貴方は獣人族最強の怪力を持つ獅子族の漢と言われていた。


 故に、ずっと思っていた。


 何故、脆弱なニンゲンに……オレ達が支配されなくてはいけないと。


 魔力の首輪さえなければ、すぐにても皆殺しにしたいと思っていた。


 ……そんなことばかり考えていた。


 そんなオレなので、扱いは酷いものだった。


 厳しい重労働の数々、打たれる鞭、浴びせられる罵声……。


 反抗心を持っていたオレは、それでも強気でいた。


 そんな時だった……とある獣人の女がやってきたのは。


「お前は獅子族だな?」

「あん?」


 態度が悪く暴れん方のオレは、物置小屋で隔離されていた。

 そこに、リンと名乗る獣人が現れた。


「なるほど……持て余しているな?」

「なに?」

「お前は人族に従って働くのを嫌だと思っているのか?」

「当たり前だっ! 何故、この獅子族たるオレが!」


 こいつは裏切り者だ。

 見た目も綺麗で、健康そうで……ニンゲンに媚びを売って生きてるに違いない。


「私も、そう思っていた。だが、そうでない人間もいる。ついていきたい、役に立ちたいと思わせる人間が」

「はん! そんなわけあるか! 奴らはオレ達を見下し、いつも偉そうにしやがる!」

「まあ、言葉で言っても伝わないだろうな。さて……自由になりたいか?」


 オレは一瞬思考が停止する……。

 なんだ? 自由? こいつの目的はなんだ?


「どういうことだ?」

「お前は、私……というより、私の主人が買い取った」

「ほう? このオレを?」

「しかし、主人が目指す世界は獣人と人族の平和だ」


 ……今、なんと言った?

 獣人とニンゲンの平和……?


「バカかっ! そんな奴がいるわけがない!」

「世界は広い。中には、そういった者もいる。獣人にどうしようもない者がいるように、人族の中にも良き者はいる」

「そ、それは……」


 そいつの言葉に、オレは言葉を詰まらせる。

 確かに、オレに手を差し伸べたニンゲンもいた。

 もちろん、同情や哀れみだと思い拒否したが……。

 そして、獣人族の中にも、オレを下に見たり馬鹿にする者もいた……。


「ふむ……完全に堕ちてしまっているわけではないか。よし——やるか」

「なんだと?」

「私と戦って、お前が勝ったら……自由にしてやる。ただし、お前が負けたら……私に従って、一度主人に仕えてもらう。その結果、どうしてもと嫌だというなら解放してやる」

「はっ! 舐められたもんだ! 獅子族に、犬族ごときが勝てると?」

「その物言いが……人族が獣人を見下すことと、なんら変わらないことに気づかないのか?」

「なっ——!?」


 確かに……くそっ! 痛いところを突きやがる!




 そして、そいつはオレの鎖を外し……。


「さあ、かかってこい」

「後悔するなよ!」


 闘気さえ使えれば、オレが負けるはずはない!


「くらえ!」

「ふむ……威力のある拳だ」

「ハハッ! これが獅子族の剛拳だ!」

「しかし……当たらなければ、どうということはない」


 そいつは避けるばかりで、ちっとも攻撃してこない。

 それにしても……なんて素早い動きだ!


「くそっ! 避けるしか能が無いか!」

「そう思われるのも癪ですね——気合いを入れておけ」

「なに?」


 そいつは、一度距離を取ったが——気がついた時には目の前いた。


「は、速い!」

「ハッ!」

「ぐはっ!?」


 あまりの衝撃を腹にくらい、思わず膝をつく。


「か、かはっ……な、なんだと?」

「私にはお前ほどの怪力はない。ならば、一点集中させれば良い」


 赤く燃える髪と凛としたその姿に……思わず、かっこいいと思ってしまった。

 そして、こいつが……姐さんが認めるほどの男というのが気になった。

 だから、オレはひとまず従うことにして……。






 姐さんの言う通り、ボスは凄いニンゲ……人だった。


 こんなオレをすぐに信用するは、分け隔てなく接するは……。


 美味い飯や、暖かい寝床を与えてくれた。


 しかも、一切偉ぶることなく……むしろ、謝られてしまった。


 何より、自分の大事な女であるシルクさんを、オレに守ってくれと……。


 そして、人族にも良いやつがいるってことも知った。


 良いぜ……オレはボスの願いに賛同するぜ。


 オレの力の全て、ボスに預けるぜ!



 ◇



 そして、今に至るんだ。


「ようやく、オレの出番だぜ」


 シロやラビの護衛や、シルクさんの護衛が嫌ってことはないが……。


「それでも、オレだって前に出て戦いてえ」


 それこそ、リンさんやベアのように……。


 何より、惚れた漢であるボスに……。


 ここらで、オレの力を見せてやるぜ!


「ゲコォ!」

「くらうか!」


 三つに分かれた舌が、次々と襲いかかってくる!

 どうやら、再生する上に分裂もできるらしい!


「チッ!」


 しまった! 胴体に舌が巻きついた!

 このままでは、引っ張られて食べられる!


「レオ!」


 ボスの心配そうな声……オレは、心配されたいんじゃねえ!


「ゲコォ!」

「力くらべなら負けねえ!」


 オレは両手で、その舌を掴み……。


「ボスに頼りにされてえんだァァァ!」


 舌ごと背負い投げをする!


「ゲコォ!?」

「喰らえ!!」


 その隙を逃さず——上から顔面に拳を打ち下ろす!


「おおっ! レオ! 凄いよ! カッコいい!」

「へへっ! 見ましたか! ボス! オレをもっと頼って良いっすからね!」


 ボス……アンタの想い描く未来が何なのかは、オレにはよくわかんねえ。


 だが、オレは一生アンタについていくぜ!


 


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